警察官を騙って金銭を奪う「ニセ警察」による特殊詐欺が猛威を振るうなか、警察庁によれば昨年の詐欺被害は過去最悪を更新したという。特殊詐欺、およびSNS型投資・ロマンス詐欺の被害件数は約4万3000件で、被害額は計3241億円にも上る。
SPA!は今回、実母が何度も詐欺被害に遭ったと話す女性に取材することができた。彼女の体験には、詐欺の防止や被害を最小限に食い止めるノウハウが詰まっていた!

還付金詐欺からロマンス詐欺まで母が次々と詐欺師の餌食に

「高齢の母が4回も詐欺に遭ったんです……」

 ある会合で記者が知り合ったのは、関東地方に住む、佐藤直子さん(仮名・49歳)。聞けば、詐欺被害で600万円以上詐取されたという。

還付金詐欺、ニセ警察、ロマンス詐欺…85歳の母が4度も騙され...の画像はこちら >>
 高齢の親を持つSPA!世代にとって、他人事ではない。40~50代の子世代にとって、佐藤さんの経験が教訓になるのではないか。そう考えたSPA!は、彼女に取材を依頼。「私の経験が今後の被害防止に役立つなら」と快諾してくれた。

還付金詐欺に遭って450万円失った

「母は現在、85歳です。最初の被害は2年前、いわゆる還付金詐欺でした。役所の職員を名乗る男から電話があり、暗証番号を聞き出されたのです。電話が繋がっている最中に“担当者”が自宅を訪ねてきて、母は銀行カード3枚すべてを渡してしまいました。直後、焦った母から『詐欺だったかも』と連絡が入ったんです」

 佐藤さんはすぐに110番通報し、母の家へ警察官を呼んだ。事情聴取を受ける傍ら、口座を停止するために奔走したが、最初の壁にぶつかる。

「支店の電話が混み合ってまったく繋がらないんです。
焦る私に、警察官は『ATMで記帳して残高を確認してほしい』と言いました。慌てて向かいましたが、すでに遅かった。お金が抜かれた後でした」

 しかし、ATMに設置されている受話器から連絡すると、口座を止めることができた。わずか1時間ほどの間に、1日の引き出し・振込限度額の合計450万円が奪われた。

 だが、悪夢はこれで終わらない。わずか3か月後、2回目の事件が起きた。

 今度の犯人は「居住地の管轄警察署」を名乗って、母に接触してきたと言う。

「『あなたの口座が犯罪に使われている』という有名なやつでした。一度、詐欺に騙されたので、リストが裏で回っていたんでしょうね。母は自宅に来たニセ警察官に通帳とカードを渡してしまったんです。新設した口座を含め2口座から120万円が奪われました。ただ、この時も直後に私に連絡があったので、スピーディな対応が取れました」

 最初の詐欺に遭った後、佐藤さんは母の口座の引き出し限度額を10万円に設定したが、振込限度額は50万円にしていた。
そのため、前回より被害額は少なかったものの、100万円以上も騙し取られてしまった。

「この時は、自動録音機能付きの電話機にしていて、門扉にも防犯カメラを設置していたので、この映像が証拠となり、約半年後、犯人グループは逮捕されました。警察官から『玄関の内側にも防犯カメラを設置しておくと、さらにいい』と言われました」

還付金詐欺、ニセ警察、ロマンス詐欺…85歳の母が4度も騙されて600万円被害。それでも「350万円」を取り戻せた理由
佐藤さんによると、警察署が配っているこうしたステッカーを積極的に活用することで未然に詐欺被害は防げるという
 不幸中の幸いだったのは、この2回の詐欺被害では、いずれも事件発生から2~3時間程度という短時間で金融機関に連絡ができたため「被害回復分配金制度」が適用されたことだ。

 同制度は「振り込め詐欺救済法」に基づき、被害者がお金を取り戻すことができる仕組みだ。犯罪者の口座にお金が残っていれば、金融機関を通じて、犯罪被害金の返還を受けることができる。

「まず、警察の被害届の受理番号をメモして金融機関に行き、申請書を提出します。認知症のある母に説明して、本人に書類を書かせるのは骨が折れました。本来は暗証番号を自ら犯人に教えてしまうと制度を利用できないそうなのですが、初回は銀行側にも不手際があったので、特例的に認められました。2回目は新しく作った地銀の口座で、こちらはスムーズにいきました。結果として、奪われた570万円のうち、約350万円を取り戻すことができました」

 特殊詐欺の場合、被害者への返金率は5.5%(日本橋みらい法律事務所による試算、2023年度推計)という数字もあるので、佐藤さんの母親の場合、不幸中の幸いと言えるだろう。

ロマンス詐欺でニセ俳優に貢いていた

 だが、これだけでは終わらなかった。心の隙を突く手口は形を変えて忍び寄る。

「昨年、今度はロマンス詐欺に引っかかったんです。
母がかかりつけのクリニックの看護師さんに『フェイスブックで俳優の目黒蓮さんとやり取りしている』と話したことで、発覚しました。母はすっかり信じ込んでいて聞く耳を持たないため、警察に相談し、母に直接アドバイスをしてもらうよう依頼したのです。ところがその翌日、警察から『お母様を保護している』と連絡が入りました……」

 母はニセ目黒蓮に対し、「警察から注意された」と伝えたところ、犯人が焦って最後の振り込みを要求したのだ。銀行窓口で「30万円を目黒蓮さんに振り込む」と答えた母の言葉を行員は不審に思い、通報。幸い、被害は未遂に終わった。

「でも、調べてみるとすでに何度か母が不審な振り込みをしていたことがわかったんです。犯人は誕生日プレゼントや交通費名目でお金を要求していたそうです。2回目の詐欺被害以降、振り込み限度額を1日10万円に設定していたのですが、犯人に一回10万年を計3回振り込んでいました。数か月前の話でしたし、大きな金額ではなかったので、諦めることにしました」

 次々と罠にかかる母。佐藤さんはこれ以上の被害に遭わないために、長年住んだ戸建てを手放す決断を下す。セキュリティの高いマンションへ母を転居させたのだ。

「母は父を亡くしてから認知症が進みました。
ロマンス詐欺に騙されてしまったのも寂しさがあったかもしれません。最初の詐欺に遭ってから、母を訪ねる頻度を上げたり、メールや電話の回数を増やしたりしていたので、被害額をこの程度に抑えることができたのかなと思います」

親と子、警察の三者が緊密に連絡を取り合う

 佐藤さんは教訓として、「警察との連携」が重要だと強調する。

「被害に遭った後、警察から度々母に様子を窺う連絡が入るようになりました。所轄署の番号をスマホに登録するだけでなく、警察から連絡があるたびに母が私に『今日、〇〇警察から電話があった』と報告することをルール化しました。その後、私から改めて『今日、母に連絡くれましたか?』と確認し、担当の警察官ともコミュニケーションを取るようにしていました。この対策は非常に有効だと褒められましたね」

還付金詐欺、ニセ警察、ロマンス詐欺…85歳の母が4度も騙されて600万円被害。それでも「350万円」を取り戻せた理由
現在は母だけでなく、所轄署の警察官とも日々、緊密に連絡をとっているという
 佐藤さんのリアルな体験から学ぶことは非常に多いが、高齢の親を持つ子世代ができる対策はほかにもある。詐欺被害救済メディア「Reach OUT!」の編集長・成田雅氏は言う。

「認知症の兆候があったり、一人暮らししていたりするなど、詐欺被害に遭いやすい状況がある場合は、まず会話する機会を増やし日常的にアンテナを張っておくことが大事。その上で、物理的な対策をしましょう。防犯カメラや人感センサーライト、モニター付きインターホンの設置、ホームセキュリティの導入などです。ただ、あまりにも防犯を強調すると本人が拒否反応を示す可能性もあります。『心配だから私が安心したい』と主語を自分にして伝えるのがコツです」

 老後資金を詐欺で失ってしまうと、その後の生活基盤は根底から揺らいでしまう。
万が一被害に遭っても、その打撃を最小限に食い止めるために、今日からできる一歩を始めていきたい。

<取材・文・撮影/中山美里(オフィスキング)>

【中山美里】
性風俗、女性問題、金融犯罪などを中心に取材・執筆するフリーライター。性とお金に対する欲望と向き合う人間のフィールドワークがテーマ。ショークラブダンサー等を経て、未婚で1児を出産後、結婚。3児の母。高齢者の性を取材・執筆した『ルポ 高齢者のセックス』(扶桑社)など著書多数。性の仕事に対する差別や偏見解消に取り組む一般社団法人siente代表。
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