―[言論ストロングスタイル]―

 皇位継承問題で党派間の立場が整理され、今国会での皇室典範改正が射程に入ったかに見えた。ところが6月2日、朝日新聞は衆参正副議長の取りまとめ原案に「旧皇族の男系男子を皇族とする対象者は15歳以上」との限定が盛り込まれていると報道。
皇室史研究家・倉山満氏は「15歳以上の根拠を答弁できなければ、今国会での典範改正を見送りもありうる」と警鐘を鳴らす(以下、倉山満氏による寄稿)。
「あと3手詰め」の皇位継承問題が、今国会での典範改正が見送り...の画像はこちら >>

「あと3手詰め」の皇位継承問題

 皇位継承問題、大詰めである。将棋で言えば「あと3手詰め。ルールを知っていれば勝てる」局面である。

 これまでの流れである。皇位継承問題は安倍晋三内閣から懸案であったが、菅義偉内閣の有識者会議が提言をまとめ、岸田文雄・石破茂の二代の内閣を経て、高市早苗内閣で二つの案が議論されている。

 一つは「女性皇族が結婚後も皇室に残る案」で、もう一つは「旧皇族の養子による皇籍取得」である。旧皇族とは占領軍に皇籍剥奪に追いやられた方々の子孫であり、その方たちに本来の身分を取りもどしていただこうとの話だ。

 ちなみに大きな誤解があるようだが、皇位継承問題とは「悠仁殿下にお子様が生まれなかったらどうするか」を話し合うことで、「悠仁殿下と愛子殿下のどちらが次の天皇にふさわしいか」ではない。そういうことを言っているのは、日本共産党など左翼系小会派だけである。

 これまで国会での議論は、「野田佳彦さん一人を説得する会議」と揶揄されてきた。その野田元首相が総選挙で失脚、ようやく話がまとまる方向に至った。野党第一党である中道改革連合の取りまとめ責任者は、安定的な皇位継承に関する検討本部の笠浩史(りゅう ひろふみ)本部長。
笠本部長は中道の意見を60点の線でまとめた。あえて。それ以上を求めると、党内がまとまらない。

「適時適切」で折り合いをつけた60点合意

 野田氏の主張は「女性皇族の配偶者を皇族にしろ」であったが、それをやると日本の伝統の根幹を破壊するから他の多数の党が反対する。そこで知恵を出し、「将来、適時適切に判断する」とまとめた。たとえば、女性皇族が旧皇族と結婚することもある。その時は、女性皇族の配偶者が皇族になって何の差支えも無い。それも含めて「適時適切」である。

 これまで野田元首相が主張してきた「皇族にする」は呑めないが、「皇族にしない」が中道のとりまとめである。これが60点の意味だ。そして中道がこの線なので「あとは自民党が好きにして良い」の意味になる。

 あとは議長がとりまとめ、政府が法案化するだけの運びとなっていた。

 衆参正副議長が、取りまとめ案を作成中である。


 ところが読売新聞(5月28日付)から漏れ伝わった議長案で、第一案に関しては中道の通りのとりまとめ案にすると報じられた。

 これに即座に噛みついたのが、日本維新の会の藤田文武共同代表である。曰く、「少数意見に配慮するのは当然だが、少数意見に偏って多数意見を無視した取りまとめをするとは、どういうことか。そもそも、自分も含め誰も聞いていないのに、マスコミに漏洩するとは情報管理はどうなっているのか。もし報道されている案の通りになるなら、席を立つ」と。

当然である。しかもよりによって、「一般人の男を皇族にしろ」と主張している読売へのリーク。

政治的駆け引きができなくなるのは、如何なものか

 そもそも、中道が60点の案を出してきたのだから、自民出身の森英介衆議院議長は、80点90点の取りまとめをすれば良い。たとえば、中道案に加えて「将来、先例に従って、適時適切に判断する」とか。それでも曖昧なら、「皇室の先例」でも良いではないか。

 現在、中道出身の石井啓一衆議院副議長や立憲民主党出身の福山哲郎参議院副議長との間で揉めていると聞く。石井副議長は、元は公明党代表で、政府案は自分が与党の時に作った案であるから、本気で反対するとは思えない。抵抗の拠点は参議院に残る立憲民主党と化している感があるが……。


 そこで、政治の常識である。

 今の参議院立憲の抵抗は単なる内輪向きのガス抜きで、自民党に押し切られるのを待っているのである。それを国対政治と言う。

 野党にも野党の立場があるから、ギリギリまで粘って、最後は自民党の数の力で押し切られたとの形にしたい。それは与党にとっても自分の主張が最終的には通るので願ったりかなったりだ。しかし、与野党癒着の温床と化し、平成の政治改革以降は、絶滅危惧である。確かに政治がクリーンになったのは喜ばしいが、政治的駆け引きができなくなるのは、如何なものか。つまり、駆け引きとは「政策の通し方」である。自民党の取り柄は「政策の中身がわからなくても、その政策を通せること」と言われていたが、それができる自民党政治家は最近では少数だ。

「旧皇族の養子による皇籍取得の対象者は、15歳以上に絞る」

 そうこうしている内に、漏洩第二弾。朝日新聞(6月2日付)が、「旧皇族の養子による皇籍取得の対象者は、15歳以上に絞る」と議長案の原案を報じた。本当かどうか知らないが、漏洩している時点でどうかしている。
そして本当なら、立法府の議長である立場をわかっているのか。

 立法府の総意は、特に皇室に関することは、与野党合意で進めねばならない。政権交代したくらいで変えてはならないからだ。だから、議長取りまとめ案で大枠を決め、それに従って政府が典範改正の具体案を出す。

 ちなみに、中道の意見もそうなっていて、「政府は法案の原案を国会の全体会議に(つまり野党にも)報告すること」となっている。

 この15歳以上の限定、自民党は言っていたが、他の党は賛成も反対もしていない。野田元首相が一人で反対論を言っている時に自民党を批判したら会議そのものが崩れかねないので黙っていただけなのだが、こんなことをここで出すか? 大体、15歳以上に絞る根拠を答弁できなかったら、今国会での典範改正の見送りもありうる。

 この15歳、「民法もそうだから」くらいの理屈しかない。15歳になれば、自分で養子になる意思表示をできる。

 しかし、庶民に皇室を合わさせてどうする? 官僚が考えそうなことだし、官僚をシンクタンクとして使っている自民党らしいと言えばそうだが。

 これで皇室が滅びる訳ではないが、政治技術が拙い。

※6月5日脱稿。
8日に示される議長案の速報では、懸念点は解消されそうだ。

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】
皇室史家。憲政史研究家。1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『噓だらけの日本近世史』が2月28日より発売
編集部おすすめ