日本民営鉄道協会が毎年発表している「駅と電車内のマナーに関する調査」を見ると、その不快感の正体が数字で浮かび上がってきます。最新の2025年度調査によると、「騒々しい会話・はしゃぎまわり」は総合3位(30.2%)と、依然として上位の常連。さらに「駅や電車内のマナーは以前に比べて改善されたか」という問いに対し、「改善された・やや改善された」と答えた人は、わずか18.4%にとどまりました。
今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、東京と大阪を新幹線で行き来する声楽家が遭遇した、ある“豹変サラリーマン”の話。「ふざけるな!」「やってみろよ!」と電話口に怒鳴り散らすサラリーマンに、この声楽家がとった行動とは?
記事の後半では、最新のマナー調査データをもとに「やや悪化した・悪化した」と感じる人の割合も紹介します。
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レッスンのための移動中に
声楽家の中村さん(仮名・43歳)は、東京と大阪を行き来する多忙な日々を送っているそうです。毎週木曜日には東京駅から新幹線に乗り込み、レッスンのために大阪へ向かうことが習慣になっています。そんな彼が先日体験した出来事は、日常の移動に潜む予想外の恐怖を実感させるものでした。
「その日は特に変わったこともなく、新大阪行きの列車に乗りました。前の席には細身で真面目そうな40代くらいの男性が座っていて、発車直後に『席を倒してもいいですか?』と声をかけてくれたんです。礼儀正しい方だなという印象でしたね」
中村さんは駅の売店で買ったおつまみとビールを楽しみ、少しずつ眠気に包まれていったそうです。静かな移動時間が始まると思っていた矢先、予想外の展開が待ち受けていたと言います。
静けさを破った異様な声
「ウトウトしかけたころ、前の席から低い声が聞こえてきました。最初は電話かな?くらいに思ったんです。抑えた口調ながらも、相手を叱責するような強い口調。次第に声量は増し、その男性の周囲に座る乗客は視線を頻繁に向けていたそうです。
車内での異様な空気に、眠気は完全に吹き飛び、中村さんはついに行動に出る決意を固めたと言います。
直接注意するのは怖かった
「正直なところ、この場面で私が後方から注意をして相手が激昂でもしたらと思うと少し恐怖になってきました。でも、これ以上放置することは他の乗客にも被害が及ぶかもしれないと思ったので、車掌に一部始終を伝えて『確認してもらえませんか』とお願いしたんです」
その後、中村さんはいったん自席に戻り、騒ぎを続けるサラリーマンの後方に再度腰を下ろしたといいます。やがて数分後、車掌がその男性の元に現れました。
その一言に、張り詰めていた空気が一気に緩んだといいます。
豹変した姿に残る衝撃
車掌とのやりとりの末、その男性は次の停車駅で姿を消したといいます。後で車掌が状況を詳しく説明してくれたそうで、どうやらその男性は指定席の切符を持っていなかったとのことです。「外見は本当に普通の、会社員らしい人でした。でも、あんな風に豹変するなんて……。
「もう同じような場面には遭遇したくないですね。ただ、車掌さんがすぐ対応してくれたことには本当に感謝しています。でも、今後新幹線の利用に少しばかり恐怖を感じるかもしれません。トラウマになってしまったようです」
新幹線という公共の場で起きた騒動は、日常のすぐ隣に潜む不安を教えてくれる出来事だったのかもしれません。
<TEXT/八木正規>
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■「やや悪化した・悪化した」と感じる人の割合は?
中村さんが遭遇した今回のトラブル。男性が車掌の登場と同時に小声で謝罪したという結末は、ある意味で「日本らしい」収まり方でもあります。ただ、この種の出来事を「またか」と感じる人は、決して少なくないようです。日本民営鉄道協会の2025年度調査では、「駅や電車内のマナーは以前に比べて改善されたと思いますか」という設問に対し、「改善された」と答えた人はわずか3.1%、「やや改善された」と合わせても18.4%。一方で「変わらない」が39.2%と最多、「やや悪化した・悪化した」と感じる人も合計42.5%にのぼりました。前年(47.4%)からはやや改善したものの、依然として4割以上が“悪化”を肌で感じている計算です。
【駅や電車内のマナーの改善傾向】
改善された:3.1%
やや改善された:15.3%
変わらない:39.2%
やや悪化した:17.2%
悪化した:25.3%
(出典:日本民営鉄道協会「2025年度 駅と電車内のマナーに関する調査」)
迷惑行為の総合ランキングを見ても、「騒々しい会話・はしゃぎまわり」は3位(30.2%)と、3年連続で上位をキープ。中村さんが感じた恐怖は、決して特殊なものではなく、多くの乗客が日常的に抱えている不快感の延長線上にあると言えます。
そしてもうひとつ気になるのは、車掌が来た瞬間に男性がスッと声を落とした、あの切り替えの早さ。権威の前ではすぐ大人しくなる怒りは、結局のところ、相手を選んでぶつけられているということでもあります。新幹線という閉じた空間で、自分より弱い立場の誰かに、似たような顔を見せていたのかもしれません。
中村さんがとった「直接注意せず、車掌に伝える」という判断は、こういう相手に対しては最も現実的な正解です。激昂している人に正面から対峙するのは、それ自体がリスク。自分の安全を守りながら、間接的に状況を変える――そんな”スマートな関わり方”が、これからの公共空間ではますます大切になっていくのかもしれません。
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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