お店やコールセンターに電話をかけると、「この通話は録音させていただきます」というアナウンスが流れる。いまではすっかりおなじみになりました。
駅や病院の窓口で、「職員への暴言・暴力はお断りします」という張り紙を見かけることも増えた気がします。とはいえ、長く待たされたり体調が悪かったりすると、つい言い方がきつくなってしまう。そんな経験は、誰にでも一度くらいあるのではないでしょうか。
「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代...の画像はこちら >>
政府広報オンラインによると、2025年6月に法律が改正され、2026年10月1日から、企業などには、カスハラ(カスタマーハラスメント)から働く人を守るための対策をとることが義務づけられました。カスハラにあたりうる言動の例としては、「大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること」や「同様の質問を執拗に繰り返すこと」などが挙げられています。では、実際の現場ではどんなことが起きているのでしょうか。

今回ご紹介するのは、過去に大きな反響を呼んだ人気記事から、総合病院の受付で、威圧的な男性患者に悩まされた女性の話。

記事の後半では、カスハラや医療の現場での暴言について調べてみました。

*  *  *

「もっと腹から声を出せよ」と怒鳴られて…

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
日々多くの人が訪れるからこそ、病院で迷惑な人物を見かける機会も多いと聞く。総合病院に勤務する小西葉留花さん(20代・仮名)は、厄介な患者に頭を悩ませた経験を持っている。

「病院に来た患者の用件を聞いて案内するのが主な業務で、5年ほど勤務しています。そのなかで1人、本当にヤバいおじさんがいました。年齢は55歳で、見るからに頑固そうなおっさんでした。
髪はボサボサ、ヒゲはボーボーで強面。見た目から『ヤバい』感じが漂っていて、警戒していました」

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
頑固そうな50代男性を警戒していたという小西さん。ある日、事件が発生したそう。

「見るからに怖そうだったので萎縮してしまった私は、少し案内する声が小さくなってしまったんです。すると『は? そんなんじゃ聞こえねえよ』と威圧的に言われました。『すみません』と謝罪すると、調子に乗ったのか『もっと腹から声を出せよ』と怒鳴られてしまって。『あんたの耳が悪いんだろ』と内心思いましたが、耳の遠い人も多いのがこの職場ですから、その場は『すいませんでした』と謝罪しました。丸く収まったのですが、その後、私の顔を見るなり『腹から声を出せよ』とか『聞こえない』など、威圧的な言動をたびたびしてくるようになりました」

男性職員には威圧的な態度を見せない

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
小西さんは男に苦手意識を持ち、上司に相談したそうだが……。

「威圧的な言動がどうしても許せなくて、話を聞いてもらったのですが……。『言動が乱暴な患者は一定数いる。慣れたほうがいい』と、『私が悪い』という感じで言われました。同僚に話を聞くと、『私も怒鳴られた』『凄く横柄な態度を取られた』と同じ被害に遭っているようでした。看護師にも話を聞いてみたのですが、『私たちには普通だよ』と言われました。
この男は横柄な態度をとる人と、素直に言うことを聞く人をわけていて、受付の女性陣だけに粗暴な態度をとっているということがわかりました。受付でも男性職員が受付すると、ブスっとしているものの、威圧的な態度を見せないんです。なるべく男性職員に対応してもらうようにしたのですが、男があえて女性職員がいるところを狙って話しかけてくるようで、結局は我慢しなければいけない状況が続きました」

しつこく粘着された新人が泣き出し…

ある日、事件が発生する。

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
「新人の子が、たまたま男を対応してしまったんです。そこで名前を間違えました。同じ苗字だったため、別の人の名前を呼んでしまいました。よくある話なので、普通は謝罪すれば終わりなのですが、男は『ふざけるな。名前を間違えるなんて失礼だ!』と絶叫。しつこく粘着されて、新人の子は泣き出してしまいました。私は申し訳ないけれど、関わり合いたくなくて、黙って見ているだけでした。なんとかしなければいけないというのは、わかっていたのですが。他の患者も見ているのみで、助けようとする人は誰もいなかった。ずっと男が罵声を浴びせていました。


「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
5分ぐらい経過したところで、おそらく誰かが呼んだのでしょう、看護師長がやってきました。『あなた。いい加減にしなさいよ、ちゃんと謝ってるでしょ』と強めの口調で一喝しました。男が『こいつは俺の名前を間違えたんだ。失礼だろ』と反論すると、『あなただって間違えることはあるでしょ。女だからって、下に見てるんじゃないわよ。その態度が、われわれにとって失礼ですよ。あなたはもう、治療を受けられません。おかえりください』とバッサリ斬りました。男はぐうの音も出なくなったのか、威勢の良い態度は鳴りを潜め、帰っていきました。結局男は出入り禁止となり、その後、見たことはありません」

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
病院は多くの人が利用する施設。職員に対する威圧的な言動や粗暴な態度が好ましくないことは明らかだ。
患者と職員が不愉快にならない対応を心がけてほしい。

<TEXT/佐藤俊治>

*  *  *

■カスハラで最も多いのは「しつこい言動」

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
政府広報オンラインでは、厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(2023年度)の結果も紹介されています。それによると、過去3年間に従業員からカスハラの相談があった企業は27.9%で、前回の2020年度の調査より8.4ポイント増えていました。

カスハラにあたると判断した事案があった企業に、その内容を聞くと(複数回答)、いちばん多かったのは、頻繁なクレームや同じ質問を繰り返すといった「継続的、執拗な言動」で72.1%。大声で責めるなどの「威圧的な言動」の52.2%を上回っていました。小西さんが悩まされたのも、一度怒鳴られたことだけではありません。その後も、顔を見るたびに「腹から声を出せよ」「聞こえない」と言われ続けたのです。

■看護職の約半数が、暴力や暴言、ハラスメントを経験

「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
日本看護協会の「2025年 看護職員実態調査」によると、この1年間に職場で暴力や暴言、ハラスメントを受けた経験がある看護職員は49.3%でした。誰から受けたかを聞くと(複数回答)、「患者・利用者」が69.3%で最も多く、過去の調査と比べて割合が上がっています。

体調が悪いときや長く待たされたときは、誰でも気持ちに余裕がなくなるものです。病院は、そもそも具合の悪い人が集まる場所でもあります。政府広報オンラインでは、消費者庁の冊子から、上手な意見の伝え方として「ひと呼吸、おこう」というポイントも紹介されています。窓口で思わず声が大きくなりそうになったときは、そのひと呼吸を思い出してみてもいいのではないでしょうか。


「そんなんじゃ聞こえねえよ」“女性受付にだけ”威圧的な50代男性。強めの口調で一喝され、病院を出禁になるまで/カスハラ相談があった企業はこの3年でどれくらい増えたのか調べてみた
※画像は生成AIによるイメージです
<再構成/日刊SPA!編集部>

【佐藤俊治】
複数媒体で執筆中のサラリーマンライター。ファミレスでも美味しい鰻を出すライターを目指している。得意分野は社会、スポーツ、将棋など
編集部おすすめ