スポーツ報知では、ネクストベース社の全面協力の下、今季突如現れて日米球界に新風を吹き込んだ魚雷(トルピード)バットを徹底分析した。千葉・市川の同社「アスリートラボ」で実際にバットを振ってデータを計測したのは、ロッテ、中日で昨季まで計12年間プレーした加藤翔平記者(34)。
魚雷バットを初めて手にした。聞いていた通り、従来のバットよりも重心が手元にある。今回使用したバットは現役時代に使用していたのとほぼ同じ880グラムだが、より軽く感じ、振り抜きやすい印象だ。実際に打ってみると、操作性は非常に優れている。少し詰まるくらいの感覚でちょうど芯に当たる。芯が手元に近くなるから、ミートしやすい。詰まっても大丈夫、という感覚は、打者の精神面でプラスに作用しそうだ。 その一方、芯が手元にくる分、バットのヘッドの重さを生かし、遠心力を使って飛ばすことは難しい。特に外角の球を反対方向に飛距離を出すことはそもそも難しいから、余計にそう感じる。私の主観ではあるが、ドジャースの大谷のように、ヘッドの重さを上手に使って飛ばす、あるいは少し泳ぎ気味でも本塁打を打てるような打者には合わないように感じた。
それでは、どのような打者に合うのだろうか。
ビシエドだけでなく、ロッテ時代の同僚だったホワイトセルやブラゼルら多くの助っ人は、重さに違いはあれど、操作性の高いバットを使用していた。先端部分が重い、いわゆるスラッガーらしいバットを使っていたのはデスパイネくらいしか記憶にない。多くがギリギリまでボールを呼び込んで打つタイプ。現段階で日本よりもメジャーで使用率が高いのは、日本人と外国人の打ち方の違いも理由の一つなのかもしれない。もちろん日本球界でも、平均球速は年々上がっており、詰まることに悩む打者も増えている。そんな選手には魚雷バットが救世主になる可能性があるだろう。
さて今回は現役時代に実際に使用していたバットと、両方で数値を最新機器で計測してもらった。結果は、打球速度やスイング速度に大きな差は見られなかったが、魚雷バットではスイングにかかる時間が短くなるという傾向が確認できた。コンマ1秒で勝負が決まる打席で、スイング開始から球を捉えるまでの「スイング時間」が短縮されるのは大きい。
おそらくNPBでもかなりの数の選手が試してはいるだろうが、まだ試合で使っている選手は多くない。バット選びは個々の感覚によるところが大きく、シーズン中に狂うことを恐れる選手もいるだろう。だからシーズン中は替えづらい。グリップなどを調整し、しっかりと練習してから臨める来季以降、増えてくるのではと感じている。
道具の進化により、プロアマ問わず、技術と道具の融合で結果を出す時代に変化している。魚雷バットが野球界にどう影響していくか、記者として見守っていきたい。(加藤 翔平)
今回の分析は、動作解析分野で球界の最先端を行く「ネクストベース社」の全面協力のもと行われた。同社はカブスとも業務提携。千葉・市川=写真=、東京・港区のラボには最新機器がそろい、データの測定、分析をすることができる。
プロ選手も個人的に多く訪れ、中日とはサポート契約を結んでいる。成長過程にあるアマ選手も技術向上のヒントをもらうことができる。計測や分析をするアナリストだけでなく、パフォーマンスコーチらも在籍。データを分析して出た課題をつぶすために必要な動きやトレーニングを学ぶこともできる。
投手は投球フォームを解析し、球速アップや変化球の精度向上、打者は打撃フォームを徹底分析することで、修正ポイントを見つけ出し、選手の特徴に合わせて助言。今オフには動作解析を活用した最適なバット選定が可能となるサービスの提供を予定。なお、アマ選手は原則として中学生以上が対象となる。
◆トルピード(魚雷)バット グリップから先端へ徐々に太くなっていく一般的な形状ではなく、トルピード(魚雷)やボウリングのピンのように中央部分近くで最も太くなり、先端が少し細い。芯も打者の手元に近づいた。ヤンキースの分析部門に昨季まで所属していたマサチューセッツ工科大出身のA・リーンハート氏が中心となって開発。
◆NPBの使用状況 4月11日に使用が容認され、同18日には源田(西武)が1打席限定で初めて使用。その後大山(阪神)、5月5日には木下(中日)が魚雷初アーチ。
◆加藤 翔平(かとう・しょうへい)1991年3月28日、埼玉県出身、34歳。小学2年で野球を始め春日部東、上武大を経て2012年ドラフト4位でロッテ入団。13年に史上初の新人野手によるプロ初打席初球本塁打をマークした。21年にトレードで中日に移籍し、史上初の2球団での初打席初球本塁打。24年限りで引退し、今年2月に報知新聞社入社。プロ12年で通算打率2割4分2厘の外野手。183センチ、90キロ。右投両打。