スポーツ報知では、ネクストベース社の全面協力の下、今季突如現れて日米球界に新風を吹き込んだ魚雷(トルピード)バットを徹底分析した。千葉・市川の同社「アスリートラボ」で実際にバットを振ってデータを計測したのは、ロッテ、中日で昨季まで計12年間プレーした加藤翔平記者(34)。
引退後、初めて硬式球を打つことになった加藤記者は体の動きを正確に捉えるために上半身は裸になって、マーカーを装着。さらに下半身とバットにも同様のマーカーが付けられた。魚雷バットを使うとどうなるのか―。現役時代愛用したバットとの両方を使い、最新機器で動きを探知し、動作解析を行った。
現役時代、スイッチヒッターだった加藤記者は異なるバットごとに左右、球を置いてのティー打撃で5球ずつを試打。スイング速度の平均値に大きな差はなかったが、ネクストベース社が注目したのはスイング開始からインパクトまでを示す「スイング時間」の短縮。右では大きな差が出なかったが、左では平均で0・019秒短縮された。スイングが、トップスピードに速く達していることを意味しており、打者が球を見極める時間が増えることにつながる。投手がリリースしてから捕手に届くまでは0・4~0・5秒ほど。わずかな時間だが余裕が生まれる。
計測や分析を担当した同社アナリストのニローシャン氏は要因について「バットの振りやすさはあるかもしれない。
そもそも魚雷バットの形状は、先端に近かった芯よりも手元側にボールが当たる選手がいたことに目をつけたのが発端。芯に当たりにくいのであれば、スイングではなく、芯の位置を変えてしまえという逆転の発想で生まれた。もちろんスイング速度が速く、時間が短いに越したことはないが、同氏はあくまで「バットのどこにボールが当たるかが大事」と強調した。
バット選びの常識を覆すきっかけになる可能性はありそうだ。今は感覚を頼りに長さ、重さ、グリップなどを決める選手が多い。だが、同社の中尾信一社長は「振ってみて『感触がいい』と選んでいた時代から、データを使って『打てるバット』を選ぶ時代になる」と予測。すでにメジャー球団では各選手に適切な情報を伝え、それを元に自分に合ったバットをオーダーするシステムが構築されている球団もあるという。
加えて中尾社長は「ピッチャーごとにバットを替える選手が出てくるかもしれない」とも予想する。スイング時間が短縮され、速度も速くなるのなら、160キロを出すような速球派の投手と対戦する時だけ魚雷を使うのも一つの手段だろう。