長嶋さんの周りには常に、厚くサポートしてくれる仲間がいた。その中の一人が所憲佐(ところ・けんすけ)氏だ。

ミスターの監督時に1軍サブマネジャーなどを歴任し、現在も終身名誉監督付球団職員としてマネージャー役を務める。「長嶋さんが今何を考えているかとか、すぐに分かる」と言うほどに2人は信頼関係で結ばれていた。

 2022年9月。長嶋さんが都内の自宅で尻もちをついた際に後頭部を打ち、脳内に多少の出血が見られたため緊急入院した。当時、倒れているミスターを発見したのが所さんだった。「自分の父親と同じ症状だった」とすぐに救急車を手配。病院ではそのまま緊急手術に入った。意識のないミスターに所氏は「待ってますよ!」と大声で呼びかけた。長嶋さんから少しだけ、うなずいたような反応を感じたという。「監督は常に闘っている。あの時も意識はなかったはずなのに、反応してくれたように見えた。だから、絶対に帰ってきてくれると信じていた」。

 1年半後。阿部監督の1年目となる2024年には、何度も東京ドームを訪れるまでに元気になった。年々、手足の自由は利かなくなっていったが、「それでもリハビリをしようとする、頑張ろうとしてくれるからありがたい」と所さんは感謝する。「監督が『今年は日本一だ、日本一だ』って言うから大丈夫だと思うよ」とも話していたが、悲願を見届けることはできなくなった。病に負けじと2度も起き上がったミスター。今回ばかりは、呼びかけに応じる気力は残っていなかった。

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