◇1969年11月2日(西宮)

 現役時代の長嶋茂雄さんは、抜群の勝負強さでファンの記憶に刻まれる名場面を数多く残してきた。公式戦2186試合、日本シリーズ68試合の中から、ベースボール・アナリストの蛭間豊章記者が12試合のメモリアルゲームを厳選した。

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 3勝2敗で迎えた日本シリーズ第6戦、初回から長嶋が守備で見せた。1死二塁から3番・森本潔の三遊間の打球を好捕してアウトにすると、2死一、二塁で5番・石井晶の三塁線への痛烈な打球をダイビングキャッチ。三塁ベースにダイビングして二塁走者を封殺した。この2つのファインプレーが巨人に流れを呼び込んだ。打っては王がグランドスラムを放つと続く長嶋がシリーズ4号ソロ。黒江透修の2号ソロと、シリーズ初の3連続アーチで試合を決めた。

 歓喜にわいた試合後、川上哲治監督を胴上げ。その後、グラウンドになだれ込んだ巨人がファンが長嶋を取り囲んで肩車、そして胴上げするハプニングが起こった。「すごい勢いだったので恐かった」と振り返ったが、ファンはこの時点ではまだ発表されていなかった史上初の3度目のシリーズMVPを確信していたのだろう。

 長嶋は「オレは本当にラッキーボーイ。こんな大試合(この日本シリーズ)で4ホーマー打ったし、何も思い残すことはない。初回の守備? 石井晶は左(投手)のときはよく引っ張る。

なんとなくそんな感じで(三塁に)寄ったところに来たんだ」と笑いが止まらなかった。

 ◇1969年11月2日(西宮)

巨人 010 017 000―9

阪急 000 001 001―2

勝 高橋一 

敗 宮本幸

本 王2号満塁、長嶋4号、黒江2号(以上巨)、石井晶3号(急)

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