オリオールズの菅野智之投手(35)が5日(日本時間6日)までにスポーツ報知の単独インタビューに応じた。夢の舞台についに立ったオールドルーキー。

今季5勝(3敗)とエース級の活躍の裏にある思いや、直面した日米の野球の違いについて語った。(取材・村山みち通信員)

 3日(同4日)の敵地でのマリナーズ戦は、7回5安打1失点で5勝目。開幕からローテを守り、12試合に先発して6度のクオリティースタート(QS=6回以上自責3以内)。抜群の安定感は、どんなメンタルから生まれるのか。

 「僕はマウンドに上がるまでが先発投手として大事だと思っているんで。試合の日は、あんまり色んなことを意識してもしょうがない。もうやるだけ。嫌でもマウンドに上がったら投げなきゃいけないんで、どんなに打たれようが投げ続けなきゃ、っていう割り切りというか、そういう覚悟を持ってやっています」

 35歳のオールドルーキーは、だてに年を重ねてきたわけではない。

 「試合の日は『誰も俺に近づくな』っていう感じで、こうなって(顔を挟んだ両手をそのまま真っすぐ動かし、集中した状態を表現)、試合中も話さずに寡黙にひとりでこういう(同じ集中の動作)感じでね。でもある時、正確にいつだったかは覚えていないんですけど、『こんなことしてたら、長く野球を続けるのがシンドくなっちゃうな』って思ったんですよね。それで、なんかもうちょっとこう、視野を広くもってやり始めて。それから、なんか良くなった感じがします」

 ここまで、積み重ねてきた経験が生きるマウンドさばきが続く。

このメジャー挑戦のタイミングがベストと感じているのか。

 「それはあると思います。やっぱり、技術的にもそうですし、精神的にも成熟した状態で来られているっていうのは間違いないので。まあ特別何か自信があるかって言われたら、正直、ないんですけど(笑)。でもまあ、やっぱり特に意識することなく、そういうふうに(周囲に堂々たるマウンドと)映っているっていうのは、かなり僕の中ではプラスなんで、このまま続けていければいいなと思います」

 メジャーを知ったからこそ、思うことがある。

 「野球観は自分の中で変わりましたね。日本のやっている野球と、こっちでやっているベースボールっていうのは、そもそも競技が違うんだなっていうふうに思ったし」

 日米の違いは一体何なのか。

 「まあ簡単に言うと、良いか悪いかはわかんないですけど、(メジャーは)ものすごくデータに特化している。最初は、僕もそれに頼らなきゃいけないのかな、データ通りに投げなきゃいけないのかな、と思ったんですけど、でも自分の中ではやっぱ自分の感覚って忘れちゃいけないなって思う瞬間が多々あって」

 3日(同4日)のマリナーズ戦では、2回に6番・テレスに2球続けたカーブを本塁打にされた。

 「変化球が苦手なバッターとミーティングで説明があり、データもそうでした。けど、対菅野はどうなのか。真っすぐの少ない割合のピッチャーに対しては変化球を狙ってきているんだろうな、というのは僕も感じた。

現に次の打席で真っすぐ投げるとやっぱり反応して来なかった。だから対自分に置き換えて、『データがすべてじゃない』と。また違った野球観の中でやれているっていうのは今後、僕があと何年できるかわかんないですけど、その後も僕は野球に携わりたいなと思っているので、一野球人としてすごくプラスな日々を過ごせている気はしています」

 普段の生活でも日米の違いがある。どうハンドルしているのか。

「(米スタイルが)好きとか嫌いとか、そういうのはないですね。こっちに来るにあたって、1つ決めていたことがあって。それは変に先入観を持たないようにしようって。例えば食事面。クラブハウスに『さすがにお米とかあるでしょ』とか『こういうものはあるだろう』とか『こうあって欲しい』って自分の中で決めつけていたら、そうじゃなかった時に、それが文句になっちゃうと思うんですよ。『なんでないんだよ』とか『日本ではこうだったのに』とかね(笑)。僕からしたら、そんなことを考えること自体がくだらないこと。やっぱり野球にフォーカスしなきゃいけないんで。

変に何か先入観がなければ『あ、そうなのか』ってことで、日本食のマーケットに行ってパックご飯を買うとかインスタントみそ汁を買えばいい。だから遠征先にはたくさん持ってますけどね、サトウのごはん(笑)」

 自分に合う環境を求めるのではなく、自分が環境に合わせる。

 「そこにあるものに対して自分をフィットさせていく。例えば投げることなら、ピッチクロックだったり、ピッチコムだったり、けん制も2回しかしちゃいけないとか、そういうのがいろいろあるじゃないですか?そんなことに何か言ったってどうしようもないこと。自ら選んでこっちに来ているわけですから『考えなくてもいいようなことは、考えないようにしよう』っていう、ね。しっかり自分で全て受け入れられる覚悟を持って行かなきゃいけない、と思って来ているので。文句なんて言ってもしょうがないですからね(笑)。全部受け入れる覚悟でいないとダメなんだろうなぁっていう気はしてます(笑)」

 だからこそ、西海岸への長距離移動の感想もシンプルだ。

 「みんな同じ環境下でやっているわけですし。移動がどうとか時差がとか言って何か自分にとって有益なことになるんだったら言うけど、言ったって仕方ないんだから。逆に僕はこういう遠征先に来られて楽しいなあって思っています。朝はあそこ行ってみようとか、あそこでランチしに行ってみようとか、遠征地で楽しみを見つけてやってますね」

 シアトルでは、観光名所である市場「パイク・プレイス・マーケット」に朝足を運び、海沿いも歩いて水族館ものぞいたという。

そして何より、レジェンドとの対面を果たした。イチロー氏と試合前のフィールドで談笑した。

 「僕、初めてお会いしたんですよ。なかなか接点がなくてあいさつしたこともなかったんですが、テレビで見ていた通りでした(笑)。すごくためになるお話をたくさんしていただいてよかったです」

 いつまで、そしてどんなゴールを持っているのか。

 「長くやりたいですね。(今季)大きな目標とかそういうのは決めてないです。それができなかった時にストレスになるんで。僕は1試合1試合投げ続けるだけです」

 最後に、渡米以来これまで一番おいしいと思ったアメリカの食事を尋ねると、「う~ん、なんだろう」としばし考えて、笑った。

 「In‐N‐Out(インアンドアウト=カリフォルニア発祥のハンバーガーチェーン店)のハンバーガーかな」。

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