◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 長い記者生活で多くの上司に指導され、何百人もの指導者、選手を取材した。よくいたのが自称・嫌われ役。

まあ、嫌われたい人はいないだろうし、何か言おうにもハラスメントを気にして言葉をのみ込んでしまう。こんなご時世で忖度(そんたく)なしに思ったことを言う球児がいた。「チームが強くなるためには嫌われてもいいという覚悟で、いろんなことを言い続けてきました」。3月のセンバツ高校野球で初出場ながら4強入りした浦和実・小野蓮主将(3年)の言葉だ。

 辻川正彦監督(60)が「ウチのヘッドコーチ」と信頼する背番号10のまとめ役。センバツ前の練習試合で送りバントのサインに顔をしかめた主軸打者を見るや、翌日のメンバーから外すよう監督に進言。そこで終わらず1対1で向き合った。「中心打者がチームのために野球をしなくてどうなんだ」と諭すと、その選手は「試合に出たい」と泣いて直訴。大会では送りバントを決めて勝利に貢献した。

 小・中でも主将の小野が覚悟を決めたのは中学時代。監督に「キャプテンは嫌われてナンボ」と言われてからだ。何か言えば反発されて陰口をたたかれるかもしれない。

それでも「陰では言われているかもしれませんが、全然気にしていません」とぶれずに信念を貫く。相手の性格によって時に厳しく接し、優しく寄り添う。行動、言動に思いやりがあってフォローを忘れないから仲間はついてくる。

 春の県大会は初戦敗退。小野は「おごりが出た。自分の責任です」と猛省した。嫌われる勇気を持った主将が初の夏の聖地へ。埼玉大会は7月9日に開幕する。(野球担当・秋本正己) 

 ◆秋本 正己(あきもと まさみ) 1989年入社。野球、相撲などを取材。千代の富士関ににらまれて一喝された“指導”は忘れられません。

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