◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 カメラマンの世界にはエース投手として認める独自の基準がある。自軍の攻撃時に投手が肩慣らしをしながら待機している様子はおなじみ。

カメラ席の前でキャッチボールしていることが多い。このとき我々にとってのエースは、相手を外野側に立たせ、自身はカメラの邪魔にならないようベンチの前に立つのだ。

 巨人の上原、西武の松坂、広島の黒田、メジャーで活躍する大谷も日本ハム時代はそうだった。カメラ席の前にいると、狙いを遮られてシャッターチャンスを逃すことがある。ベンチ前で悠然と調整するエースは我々を安心させてくれる。

 カメラ席の前に立つある若手投手に、我々が気にならないのか聞いたことがある。「撮りづらそうにしているのは分かっているけど、ベンチ前だと自軍の選手が試合を見るのを邪魔してしまうので」と申し訳なさそうに話した。攻撃に集中するベンチの前に立ち、マイペースで調整できるのもエースの特権なのだろう。

 今季メジャーに移籍した菅野智之も巨人時代、この場所に立っていた。試合展開を見ながら丁寧に投げ、チームが勝ち越すと気合の入った表情で力強いボールを放り、マウンドに向かった。その姿をカメラ越しに見つめ、エースとしての存在感を感じていた。菅野に後継を託された戸郷翔征もベンチ前にいる。

まだ本調子ではないが、ファンやチームだけでなく、カメラマンからも真のエースと呼ばれる日を待っている。(写真担当・上村 尚平)

 ◆上村 尚平(かみむら・しょうへい) 1989年入社。写真部一筋。94年「10・8決戦」など数々の名勝負を撮影。

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