◆第107回全国高校野球選手権愛知大会▽1回戦 大府10―0碧南=6回コールド=(29日・岡崎レッドダイヤモンド)

 愛知では、春夏計7度の甲子園出場を誇る県立校・大府が碧南に10-0の6回コールドで初戦突破した。

 城下町・岡崎の夏空に歓喜の校歌が響いた。

元巨人投手の槙原寛己氏、元阪神外野手の赤星憲広氏ら名選手も学んだ県立校が、先制、中押し、ダメ押しと効果的に得点を重ね、快勝発進した。「3番・遊撃」でスタメン出場し、初回無死一、二塁では犠打を決めて先制のチャンスを演出した大嶋元晴主将(3年)は、表情を引き締めた。

 「チーム自体は緊張感がある中で、いいプレーができたと思います。お互いを信頼して助け合いながら、次戦もやっていきたい」

 2月5日の寒い夕暮れだった。ランニングなどの体力トレを終えて下校中、大嶋ら現在の3年生部員5人は、交通量の多い国道の真ん中を走る小学生男子を見つけた。「危ないな、と」。警察に電話し、1度は保護したが、男子はその場からいなくなった。5人で手分けして捜索。祖父江一真(3年)がパチンコ店の立体駐車場で発見した。警察に引き渡すことができ、男子は無事、保護者のもとに帰ることができた。警察からは感謝状が出た。日本高野連からも善行表彰された。

 大嶋は言う。「自分たちは普段から野球で『考えて動く』ことを学んでいます。その結果が、人助けという形になったと思います」

 選手が主体的に考え、判断するというのが大府の野球だ。練習メニューもナインが決めて、夏のベンチ入りメンバーも選手間投票で選出する。「自分たちが普段やっていることが、いい形でできた。その場でパッと動けたっていうところが、良かったと思います」と大嶋。野球を通じて得た判断力と行動力を生かせた。

 中嶋勇喜監督(45)は「最初、学校に第一報があったと聞いて、苦情の電話かなと思ったんですが…。保護者の方から『命を救って頂き、ありがとうございました』というお礼の電話でした。ウチはやらされる野球部じゃない。『自ら取り組む野球部』の成果です。それが彼らに染みついてきているのかな、と思います」と称賛した。

 お手柄戦士5人のうち、4人がベンチ入り。いずれも試合に出場し、勝利に貢献した。“第一発見者”の祖父江は一塁側スタンドで太鼓をたたき、「この夏、応援を盛り上げ、『何とか甲子園に!』という思いで、ずっと叩いてました」と笑った。愛知の公立校で夏の甲子園に出たのは2008年東愛知大会の同校が最後。17年ぶりの聖地へ、突き進む。(加藤 弘士)

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