◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 日本競馬に難攻不落の砦(とりで)がある。フランスで行われる凱旋門賞だ。

この1920年創設のG1に、今まで日本馬延べ35頭も挑んだが未勝利。日本馬だけでなく、今まで欧州調教馬以外の馬が勝ったことすらない。

 だからこそ、あの衝撃は忘れられない。12年の凱旋門賞。前年の3冠馬オルフェーヴルの挑戦を追いかけ、初めて現地で取材した。最後の直線では大外から楽々と先頭に躍り出て、後続を突き放す。しかし、突然ラスト300メートルから内へ斜行。急失速からゴール直前で現地の馬にかわされ…。管理する池江調教師は新たな歴史の扉に手をかけたシーンをレース後のホテルで思い出し、初めて悔し涙を流したという。

 池江師は今まで日本人では最多の5頭を送り出し、06年には父で元調教師の泰郎さんが手がけたディープインパクトの挑戦(3位入線→失格)にも帯同した。「日本は高速馬場だけど、向こうはある程度のパワーがいる。生産育成のコンセプトから違いますから。

馬場が重たくても軽くても、どちらかではなく、どちらでも勝てるような絶対能力があればね。今なら大谷さんのように打っても、投げてもみたいな」。壁の高さを誰よりも知る第一人者の言葉は重い。

 ここ10年は日本馬16頭が出走しながらも12頭が2ケタ着順。しかし、今年もダービー馬クロワデュノールなどがすでに参戦を表明している。挑戦を続ける日本競馬。あの瞬間から止まっている時計の針は、いつか再び動き始めると信じたい。(中央競馬担当・山本 武志)

 ◆山本 武志(やまもと・たけし)1999年入社。2005年から中央競馬担当。凱旋門賞は現地で2度取材している。

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