◆第107回全国高校野球選手権宮城大会 ▽準々決勝 仙台育英3-2東北(21日・石巻市民)

 宮城では、2022年夏の甲子園を制した仙台育英が東北との名門対決を制し、4強入りを決めた。プロ注目の左腕・吉川陽大(3年)が10奪三振で2失点完投。

父はバレーボール元日本代表監督、母は「世界NO1リベロ」と称されたバレー一家に育ったエースが、7球団12人のスカウトに実力を見せつけた。

 DNAに刻まれた鋭い腕の振りが、大きな変化を生み出した。最終回を3者連続三振で締め、仙台育英の吉川はこの日一番の雄たけびを上げた。9回2死、東北のエース・川原輝陽(きよ、3年)を追い込み、136球目。カットボールで、投手戦に終止符を打つ10個目の三振を奪った。

 「手に当たる瞬間だけ力を入れる、バレーのアタックを意識してます」。父・正博さん(62)は元バレーボール女子日本代表監督。母・博子さん(54)=旧姓・津雲=は「世界NO1リベロ」と称された全日本のリベロ第1号だ。偉大な両親の影響で幼少期はバレーにも触れたが、友人の誘いで野球の道を選んだ。

 「野球は教えられない」という博子さんは、幼少期から息子にこう説いてきた。「常に平常心でやりなさい」。母の教えは、東北地方の高校野球シーンをリードしてきた名門対決で発揮された。

1点リードの5回、「全然走ってなかった」という直球を狙われ、連続長打で2失点。逆転を許したが、崩れなかった。NPB7球団12人のスカウトが見守る中、変化球を軸に立て直した。

 味方が逆転した直後の7回1死二、三塁では「自慢のボールを信じ続けて投げた」とカットボールで連続三振に仕留めた。視察したDeNA・稲嶺スカウトは「ここぞで投げ切る勝負根性は高校生上位」と絶賛。1点のリードを守り切り、4強へ導いた。

 スタンドで見守った正博さんは「チームのために頑張ろうとする姿が見えた」と目を細めた。須江監督は「我が強いタイプ」と評する左腕に大会前、こう伝えた。「仲間を大切にしろ」。父が感じた成長と指揮官の期待に呼応するように、吉川は繰り返した。「仲間のために投げていきたい」。一皮むけた吉川が、3年ぶりの全国制覇を目指す仙台育英の中心にいる。

(古澤 慎也)

 ◆吉川の両親 父・正博さん、母・博子さんは日本バレーボール界では有名だ。結婚のニュースを報じたのが02年1月25日付のスポーツ報知。当時の国際大会「ワールドグランドチャンピオンズ杯」(報知新聞社後援)で全日本女子を3位に導いた現役監督・正博さんと、元全日本のリベロだった博子さんのゴールインは「ビッグカップル誕生」と話題に。東京出身の正博さんは96年アトランタ五輪代表コーチ、NEC監督を経て00~02年に代表監督。広島出身の博子さんは98年世界選手権、99年W杯で活躍した。

 ◆吉川 陽大(よしかわ・あきひろ)2007年12月28日、広島市生まれ。横浜市育ち。17歳。茅ケ崎台小3年から茅ケ崎エンデバーズで野球を始め、茅ケ崎中時代は横浜都筑シニアで2年から投手。仙台育英では2年春からベンチ入り、秋から背番号1。直球の最速は147キロ。目標は高橋奎二(ヤクルト)。

好きな言葉は須江監督の言葉「枕に悩みを持ち込むな」。176センチ、72キロ。左投左打。

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