◆JERA セ・リーグ 中日7x―6巨人=延長10回=(31日・バンテリンドーム)

 久々の感触が全身を貫いた。左翼席へ伸びる放物線を見つめながら、甲斐はゆっくりと一塁ベースへ走り出した。

5月6日の阪神戦(東京D)以来となる一時勝ち越しの4号3ランを「ホームランになってくれてよかったです」と冷静に振り返った。

 後半戦初の先発マスク。1―1の4回2死二、三塁で迎えた第2打席だった。4球目の低め128キロ変化球を力みなくすくい上げて左翼席中段へ。2球目の低めスライダーのストライク判定に阿部監督がベンチを飛び出して“抗議”した直後の一打だった。左翼線二塁打を放った前打者リチャードとの元ホークスコンビで勝ち越し。バットを右肩付近で寝かせて体の重心を上げて構える新フォームで、復活のアーチを描いた。

 名古屋には甲斐のパワースポットがある。市内のステーキハウス。「あのぶ厚いステーキが美味しくてね。大好きなんですよ」と、23年WBCの壮行試合で名古屋を訪れた際から行きつけの名店だ。前回ビジター3連戦前夜の5月29日は村田総合コーチ、中川、大勢と訪問。

初めて甲斐と食事をともにした大勢は「たくさん野球の話をしてくれてめちゃめちゃ熱くて楽しかったです」。ポジションの垣根を越えて新しい仲間と絆を深めている。

 フル出場で8投手をリード。攻守の奮闘も実らず「負けたら意味がないので。また頑張ります」と悔しさを押し殺してバスに乗り込んだ。チームの正念場でこそ、経験豊富な男の存在価値は一層、高まるはずだ。(内田 拓希)

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