◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」
入社から30年以上、数多くの選手や有名人を撮影してきた。その中で6月に89歳で亡くなった長嶋茂雄さんの取材は、どれも刺激ある特別な瞬間だった。
1995年のシーズン中、遠征先で朝の散歩を張り込んだ。前夜の試合で8連敗。重苦しい雰囲気を懸念していたが、宿泊先近くの遊歩道に現れたミスターは、崖っ縁を体で表現したかったのか、橋の上でいきなり海に向かって飛び込むふりをして驚かせた。「今の撮れた?」といたずらっぽい笑顔。撮れなかったと答えると、その後フェイントを入れてもう一回。「遅いな~」とダメ出しを入れながら、楽しそうに引き揚げていった。その場の緊張感は和らぎ、想定外の前向きな姿に驚いた。その夜、連敗は止まった。
03年、アテネ五輪日本代表監督として、キャンプ地を視察したミスターをイタリアで待ち受けた。サッカー担当だった私がフランスのコンフェデ杯から回ってきたことを知ると、「どうでしたか?」と、予選敗退したサッカー日本代表について逆取材。日の丸への関心の高さを感じた。一方で視察先では笑顔をほとんど見せず、国を背負う意識の高まりも伝わってきた。
報知のカメラマンだったおかげで、スーパースターのサービス精神旺盛な姿に何度も触れることができた。重圧に直面したミスターが見せた意外な一面を撮影できた経験も、私の大きな財産だ。(写真担当・堺恒志)
◆堺 恒志(さかい・こうし) 92年入社、94年の「10・8決戦」を取材。現在はボクシングを中心に撮影。