陸上男子100メートルの元日本記録保持者・桐生祥秀(29)=日本生命=が29日、埼玉・川越市の母校・東洋大で練習を公開。個人での代表入りを確実としている東京世界陸上(9月13日開幕、東京・国立競技場)へ順調に調整を進めていることを明かした。

“リレー侍”としての思いも強く、2019年ドーハ世界陸上銅以来、男子400メートルリレーの表彰台から遠ざかる日本を、今季復活を遂げた3走のスペシャリストが、自国開催初の感動のメダル締めへとけん引する。

 19年ドーハ世界陸上以来の個人代表に、胸が高鳴っている。桐生は気温30度超えの競技場で、ハードルを使った動きづくりやダッシュなど約1時間練習し「今は練習量を減らしながら、しっかりスピード練習ができている。ここからは一日一日、体を軽くしていきたい」と爽やかに汗を拭った。開幕まで約2週間の地元での夢舞台へ「久々なので楽しみたい。個人種目で勝ち抜いたので、しっかり代表として走りたい」と笑顔で意気込んだ。

 今月3日の富士北麓ワールドトライアル(山梨)で9秒99(追い風1・5メートル)をマークし、東京世界陸上の参加標準記録(10秒00)を突破。7月の日本選手権で5年ぶりの優勝を飾ったことから代表入りは確実だ。その後は刺激入れのため、24日に奈良市陸上サーキットに出場し、追い風参考記録ながら10秒03(追い風2・8メートル)の好タイム。「順調です」と着実に調子を上げている。

 400メートルリレーへの思いも強まる。「リオ五輪から東京五輪前までうまいことメダルを取っていって、陸上が盛り上がっていった感じがする」と“リレー侍”の功績を振り返る。

桐生はカーブでバトンを渡すのが難しく、高い技術力が必須な3走で世界陸上では2度のメダルを経験。“3走スペシャリスト”とも呼ばれる。メダルが期待された21年8月の東京五輪400メートルリレー決勝では、1走と2走の間でバトンが渡らず、まさかの途中棄権。3走の桐生は走る前に夢がついえていた。

 今回の代表メンバーは9月1日以降の発表予定だ。世代交代も進むが「盛り上がりを再び起こすには、東京世界陸上でメダルを取りたい。今年は火種をつけていくのが大事」と百戦錬磨の29歳は燃えている。決勝は9月21日午後9時20分開始の大会最終種目。大観衆を感動で包み込む、最高のフィナーレを思い描く。

 12月に30歳を迎えるが「あと何年もまだまだやりたい。まだやれるという感じもある」と頼もしいベテランは、陸上が「楽しい」と笑顔で言った。世界陸上で100メートル決勝の舞台に立つ自分の姿を想像し「考えれば考えるほど、テンションが上がっていきます」。

最高のコンディションに仕上げていく。(手島 莉子)

 ◆リレー各走者の特性 スタートダッシュとコーナーを走ることが得意な選手が1走。エース区間でもある2走は最速選手を置くことが多く、バトンの受け渡しがあるため技術力も必要。直線が得意で後半にグンと伸び切ることができる選手がアンカーの4走に

適しているとされる。

 ◆リレー侍のライバル 前回23年のブダペスト世界陸上で優勝した米国は、昨年のパリ五輪ではバトンミスでまさかの失格。パリ五輪100メートル覇者のノア・ライルズらを筆頭に、五輪のリベンジに燃えて大会2連覇を狙う。パリ五輪で金メダル、5月の世界リレーでは3位に入ったカナダも勢い十分。21年東京五輪200メートル金のアンドレ・ドグラスらが引っ張る。23年世界陸上2位のイタリア、3位のジャマイカも爆発力がある。

 ◆桐生 祥秀(きりゅう・よしひで)1995年12月15日、滋賀・彦根市生まれ。29歳。彦根南中1年で陸上を始め、京都・洛南高3年時の織田記念で高校記録(当時)の10秒01をマーク。

8月のモスクワ世界陸上に100メートルで出場し、予選敗退。2014年に東洋大へ進み、16年リオ五輪400メートルリレーで銀メダル獲得。17年に日本人初の9秒台となる9秒98をマーク。19年世界陸上は400メートルリレーで銅メダル獲得した。175センチ、70キロ。

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