シンガー・ソングライターの絢香(37)が今年でデビュー20年目の節目を迎えた。高校3年生だった2006年にデビューしてから数多くのヒット曲を手がけてきたが、これまでの20年で「今が一番楽しい」と明かす。

3日には、そんな思いを詰め込んだ8枚目のアルバム「Wonder!」をリリース。これまでの活動について振り返りながら、高まり続けているという音楽愛について語った。(松下 大樹)

 身にまとっていた真っ赤な衣装に負けない明るいオーラが取材部屋を包み込む。絢香の話しぶりや顔つきの一つ一つがまぶしい光を放っていた。

 それもそのはず。冒頭、3日に発売した8枚目アルバム「Wonder!」について話していると、晴れやかな顔で「音楽をやっていてデビューしてから今が一番楽しい」と切り出した。「年々ナチュラルに音楽が好きだと思えている。歌うことが仕事というより、自分の一部になっている感じがします」。大きな瞳をまっすぐ向けて話した。

 今年でデビュー20年目。「若い時ほど誰かと比べてみたり、人にどう思われてるのかとか、細かいことをずっと背負っていた気がする。この20年でそういういらないものをそぎ落として、今にたどり着いた感覚があります」。

純粋に音楽そのものを楽しめている充実感が、表情や声ににじみ出ていた。

 アーティスト人生の始まりは、高校3年生だった06年2月。「I believe」でデビューすると、同曲や同年9月にリリースした「三日月」が大ヒットした。11月の初アルバム「First Message」はミリオンセールスを達成。年末には新人ながらNHK紅白歌合戦に初出場するなど、瞬く間にその名をとどろかせた。

 以降も勢いは止まらず、紅白には4年連続で出場。第一線を走り続けた。「訳の分からないことが現実になった。もちろんその日々に感謝してるんだけど、そんな暇もないくらい忙しかったです」と目を細めながら懐かしむ。

 しかし、09年にバセドウ病の治療により活動を休止。2年の間、ステージから離れた。決して望ましい選択ではなかったが、今となってはその期間を前向きに捉える。

「一度立ち止まったことが、より音楽を好きになるきっかけになりました」。休養中も楽曲制作は続け「ゆっくり時間が流れる中で曲に向き合ったことで、やっぱり音楽が生きがいだと感じた。自分の中でどれだけ大きい存在なのか再認識しました」と振り返る。体調を整えたことはもちろんだが、音楽への思いをじっくり見つめ直せたことが何よりも大きかった。

 他にも、一人の女性として結婚、出産、子育てなど、さまざまなライフステージを経験。その度にアーティストとしての自分にも良い影響があったと熱弁する。「例えば『愛』という言葉一つでも意識する対象や見える景色が変わったりする。昔は『今作ってる曲を聴いてほしい』という思いから『三日月』とか前に出したヒット曲を歌いたくない時もあったけど、今は昔の曲を歌うことで当時見えていた景色や感じる印象と全然違ったりするのが面白い」。曲の味わいが変わっていくことの奥深さに魅力を感じるようになった。

 音楽への愛が大きくなり続けているからこそ、意欲的にチャレンジすることも欠かさない。「キャリアが長くなってくると同じ環境でやるのは難しいと感じていた」という理由から、ここ数年は以前から気に入っていたというニュージーランドで楽曲を制作。日本と異なる言語、文化、自然に触れることで世界観が広がり「新しいものが見えるきっかけになりましたし、環境を変えるってすごく大事なことなんだなと。

楽曲を作りたい欲が高まりました」と大きくうなずいた。

 そして、たどり着いた20年の節目。改めて自分の過去をたどると「音楽を嫌いになった瞬間は全くないですね」と言い切った。「あっという間とは言えない濃密な20年。一番に思うのは本当に音楽、歌が大好きだから、それを続けてこられたっていうのは本当にすごいことだなと。聴いてくれるファンの皆さんに感謝ですね」。喜びをしみじみとかみ締めた。

 そんな節目に「過去最大値」の音楽愛を詰め込んだのが、「ときめき」をテーマに制作した最新アルバム「Wonder!」。ポップスからジャズ、バラードなど色とりどりの11曲を並べ「思いっきり音楽を楽しみながら自分の中の『好き!』とか『楽しい!』っていう感覚を信じて作ったアルバム。聴いてくれた人にとって、ポジティブなエネルギーとして小さい光でも届いたらすごくうれしいです」と願いを込める。

 12日からは2年ぶりとなる全国ツアーも開催する。約4か月間かけて25都市を巡る予定となっており「この20年のいろんな時代をうまく交ぜながらセットリストを組んでいる。

ライブに来てくれる人それぞれのときめきを、音楽で感じてもらえるようなコンサートにしたいです」と背筋を伸ばした。

 言うまでもなく、この先も音楽を手放すつもりはない。今後について「先に向けていろいろなことにチャレンジできるように、すでにスタッフとも話しています」と前のめり。詳細について聞くと「言えることはまだないかな~」と笑ったが「自分がまだまだ成長できるように、新しいことにもどんどんトライしていくことは心がけたいです」と期待に満ちた顔を見せた。あふれんばかりの音楽への思いを胸に、絢香は歌声を響かせ続ける。

 ◆絢香(あやか)1987年12月18日、大阪府出身。37歳。2006年2月、「I believe」でデビュー。同年末、NHK紅白歌合戦に初出場(通算8回)。ヒット曲は「三日月」「にじいろ」「みんな空の下」など。09年2月、俳優の水嶋ヒロと結婚。15年に長女、19年に次女を出産。

今年4月、大阪・関西万博の開会式で国歌独唱を行った。

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