◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 武豊騎手はしばしば「天才」と称される。前人未到の記録、卓越した騎乗技術、56歳でも第一線に立つバイタリティー…。

どこを取っても確かに天才だが、記者として感じるのは「言葉の天才」ということだ。語録と書くと大げさだが、これまでの取材で印象的な言葉を挙げていきたい。

 私が生まれたのは98年7月。武豊騎手がスペシャルウィークで日本ダービーを初制覇した年だ。そのことを伝えると「ほんま? スペシャルイヤーやね」。“うまい”とうなるような言葉が、さらりと出てくるのだ。

 自身の年齢をネタにするときもある。白毛馬のハヤヤッコに騎乗した22年の天皇賞・春。コンビが決まった後に意気込みを問うと、「パドックは見せ場やな。白馬のおじ様や」としたり顔を見せた。23年にJRA、海外、地方の代表騎手が競うワールドオールスタージョッキーズに出場した際は、ウェルカムセレモニーで「オールドスター」と自虐気味に笑いをさらっていた。

 ただふざけているわけではない。

「競馬が苦しい時代を知っているから、メディアがありがたい。親父(元騎手、調教師の邦彦さん)がそういう考えだった。ちょっと面白いこと言おう、って思うよね」。ユーモラスな発言は、メディアを通じ、競馬を盛り上げてくれるファンを楽しませるためだ。

 武豊騎手の取材は刺激的。冗談に大笑いすることもあれば、ストレートな熱意や勝利への貪欲さに胸を打たれることもある。「天才」の言葉を読者に伝えるのは、競馬記者のだいご味であり使命。そう肝に銘じながら、取材活動に励みたい。(中央競馬担当・水納 愛美)

 ◆水納 愛美(みずのう・まなみ)21年入社。武豊騎手とG1を5勝したドウデュースが永遠のヒーロー。

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