歌手のGACKT(52)は、1999年のソロデビューから27年を超えた。今年は7月からロックとオーケストラを融合した全国ツアーを予定するなど精力的に音楽活動を行っているが、2021年に体調不良のために活動を休止する前は「引退」を考えたこともあったという。

現在も毎日欠かさずトレーニングを行い、ストイックな生活を続ける理由も聞いた。(土屋 孝裕)

 「活動休止の前までは、引退することも考えていたんです」。どんな質問にも淡々と話すGACKTが、遠くを見つめるようにして、サングラス越しの視線を記者に向けた。「やることは全部やったなっていう感じだったんです。ずっと、どのタイミングで引退しようかと考えてました」

 2021年9月。幼少期からの神経系疾患の悪化と重度の発声障害のため、芸能活動の無期限休止を発表した。一時は命にも関わる状態に陥ったという。約9か月間、公の場に姿を見せず、音楽活動も約1年半にわたって休止。ただ、休止は結果的に、自身の感情を大きく変えた。

 「実際に休止してみると、まだやってないことがいっぱいある。もし復帰できるなら、最後まで、やれるところまでやろうと。振り返ると、(休止は)僕にとっては非常に良かったなって思います。

休止があったから、音楽にまた向き合えることに対する感謝が強くある。いつ死んでも、というか(年齢的に)残されている時間も短いんで、今は音楽を通してやるべきことを一つ一つやっていきたい」

 今年は「本格的な音楽活動再開の年」と位置づける。すでに2本のライブツアーを終え、7月からは、自身が率いるバンドと、オーケストラ「グランドフィルハーモニック」の約70人が共演する異色のライブ「魔王シンフォニー」(8都市10公演)を開催する。

 幼少期からピアノを習い、クラシックを基盤に育ったGACKTが3年をかけて構想したステージ。昨年4、12月に都内で公演を行い、高評価を得たことから全国ツアーが決まった。

 「ロックとオーケストラの音を本当に融合させるのは、クラシックの知識がないとできないことだけど、僕にはある。クラシックに育てられた人間なので、何か恩返しをしたいっていう気持ちがあった。オーケストラに触れてこなかった人が見れば、体感したことのない迫力を感じられると思います」と意気込む。

 07年のNHK大河ドラマ「風林火山」では上杉謙信を好演し、映画「翔んで埼玉」シリーズ(19年、23年)では容姿端麗な高校生・麻実麗役が「キャラクターとピッタリ合う」と注目を集めるなど、俳優としても活躍。今年3月にはテレビ電話アプリを運営するIT企業「POPOPO」の取締役に就任するなど、実業家の一面も持つ。コンピューターによる製図(CAD)を習得して自身の家の設計図を描き、3Dプリンターを使って釣り具のルアーを自作するなど、多才だ。それでも、本業の音楽が「唯一の趣味」だと言い切る。

 「音楽に触れてる時間が、一番自分の作りたいものを形にできるクオリティーが高いので。今の技術だと80~90%の完成度まで、1人でできる。例えば家をデザインしても、それは10~20%の話で、実際には建築に携わる方々がいないとできない。演技の仕事も、他の役者や、監督の編集によって大きく変わってくるから、全体の中で自分が作れる割合は20%ぐらいかな。音楽がやっぱり、自分の望んでいることを形にしやすい」

 曲作りに没頭すると、10日近く徹夜することもザラだという。「耳がヘッドホンの形になるんじゃないか」と思うほど、一日中ヘッドホンをつけていることもある。

 「ハマったことに集中するのが人よりもちょっとおかしいレベルみたいで。一度やり始めると、やりきるまで抜け出せない。過剰? いや、異常なだけです」

 ストイックな姿勢は、約1時間半、毎日欠かさないトレーニングや、食生活では炭水化物を控え、ほぼ全く米を口にしないことでも知られる。

 「自分がステージに立てない、なんとか立っている状況になるのが嫌なだけ。意外とシンプルで、トレーニングも食事もあまり理由を考えずに、とにかく『やる』って決めた。理由が増えるとやめる口実も増えてしまうから。

ただ決めたことを続ける。歯磨きと一緒ですよ」

 逆に、「自分に甘い部分」を聞くと「時間にはルーズですね。時間の感覚がバグっているとは思います。沖縄人の中では守る方だとは思いますけど…。あっ、YOSHIKIよりはマシですよ」と笑った。

 取材中の受け答えはテレビで見る姿とあまり変わらず、いい意味でスキがない。01~04年、07年にNNK紅白歌合戦に出場した際にも取材したが、外国人のスタッフを引き連れる姿は、リラックスしてもいい楽屋裏でも異様なオーラと格好良さを放っていた。自身にどこかで「GACKTを演じている」という意識はあるのだろうか。

 「『GACKTでいよう』って思ったことは一回もないんです。本当に意識したことがない。よくオン、オフとかいう人、いるじゃないですか。僕はオンじゃなくてずっとオフ。

全然疲れない。むしろ疲れるのは僕のスタッフじゃないですか。10日間徹夜って、スタッフはたまったもんじゃないですよね。なんで寝るんだって聞いたら、人間だから寝ますって逆ギレされますよ」

 周囲から見たら超人のような行動でも、本人の意識は自然体。今後も、唯一無二の道を突き進む。

 ◆「格付け」87連勝中 GACKTは、09年からほぼ毎年出演しているテレビ朝日系「芸能人格付けチェック!」で、前人未到の個人87連勝中だ。今年の正月特番でも全問正解し「なんで間違うか分かんない」と不敵に言い放った。だが、実はプレッシャーもあるのか「その番組名を口に出さないでください。一番忘れたい名前。やめさせてもらえるならいつでもやめます」と苦笑い。「ラッキーが続いているだけ。外れますって、そのうち」と極めて謙虚だった。

 俳優業については「普通の役は求めていないし、できない。悪い役、危ない役のオファーがあれば」とスタンスを語った。

 ◆GACKT(ガクト)本名・大城ガクト。1973年7月4日、沖縄県生まれ。52歳。バンド「MALICE MIZER(マリス・ミゼル)」での活動を経て、99年にソロ活動を始動。これまでにCDシングル48枚とアルバム19枚を発売。2003年、原案・脚本も手掛けた映画「MOON CHILD」でラルクアンシエルのhydeとダブル主演し俳優デビュー。10年、ハリウッド映画「BUNRAKU」に出演。

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