帳票基盤ソリューション「SVF」や、データの集計・分析・レポーティングを行うためのソフトウェア「Dr.Sum」などのサービスを提供するウイングアーク1st株式会社(以下、ウイングアーク1st)が東京証券取引所第一部に上場承認された。承認日は2021年2月18日で、同年3月16日に上場を果たす。
ウイングアーク1stは、1993年に翼システム株式会社の帳票ツール開発・販売を扱う情報企画部として発足した後、2004年に同社から営業を譲り受け、「ウイングアークテクノロジーズ株式会社」として設立された。その後2009年に1stホールディングス株式会社設立とともに、持株会社体制へ移行。2013年には、モノリスホールディングス株式会社が株式公開買付により旧1stホールディングス株式会社を完全子会社化したのち、吸収合併。2014年にグループ会社を統合し、社名が現在のウイングアーク1stに変更された。同社グループは、連結子会社8社と同社の計9社で構成されている。
同社は“情報に価値を、企業に変革を、社会に未来を。”というビジョンのもと、「データエンパワーメント事業」の単一セグメントで、「帳票・文書管理ソリューション」と「データエンパワーメントソリューション」のふたつを事業の主軸に展開している。
本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
過去に上場廃止、昨年上場承認中止を経験、その後東証第一部に「再上場」
1stホールディングスは、2010年に大阪証券取引所JASDAQスタンダード(現:東京証券取引所JASDAQ市場)に上場、2012年2月に東証二部に市場変更を行った。その後2013年5月に、同社代表取締役社長である内野氏(現:取締役会長)が設立したモノリスホールディングスによるMBO(注1)実施をうけ、同年9月に上場を廃止している。
上場廃止に至った背景には、2012年当時、世界の強豪アプリケーションソフトウェアベンダーの日本参入が容易であったこと、Salesforceに代表されるような業務支援サービスが台頭してきたこと、同社の2012年度業績が公表していた予想値を下回る結果となったことなどがある。
こうした状況の打破のためには、下記課題の解決が早急に必要であると判断し、必要な施策を実行した場合、利益水準の低下やキャッシュ・フローの悪化などが発生するリスクがあったため、MBOによる非公開化を選択した。
①事業構造の再構築:グループ内子会社の再編、人的・物的資源の再配分、業務プロセスの改善及び見直しなど②製品開発力強化:第三者との資本・業務提携による製品開発力の強化
③グローバル化:アジア圏を含むグローバル市場の開拓
④新規事業の創出:クラウド・ビッグデータ時代に対応した新製品・新サービスの展開
その後、経営構造の改革によりビジネス領域の拡大と経営基盤の強化が実現し、MBOの目的であった競争優位性を確立することに成功。
また、2020年3月に上場承認されていたが、新型コロナウイルスの影響から上場中止を発表していた。
注1:MBOとは、Management Buyout(マネジメント・バイアウト)の略語。既存の株主から株式を買い取って経営権を取得すること。
売上高は順調に増加、営業利益は底堅く推移

上図は過去4年間の売上高と営業利益の推移である。売上高は右肩上がりで上昇し、2020年2月期には186億7,700万円を記録。2017年2月期からの3年間で約1.4倍になっている。営業利益も堅調に伸びている。
同社は2013年の非上場化以降、事業構造再構築のための子会社再編や大規模な組織変更、多額のコストを伴う社内のリストラクチャリングなどを迅速に実施。こうした改革が功を奏し、2020年度には過去最高売り上げを記録した。
データエンパワーメントの単一セグメントを支える、ふたつの事業領域

同社はデータエンパワーメント事業の単一セグメントを事業領域として、「データエンパワーメントソリューション」と「帳票・文書管理ソリューション」の事業を展開している。
(1)データエンパワーメントソリューション
①Dr.Sum企業内外のデータを収集、蓄積し、そのデータを加工・分析することによって企業の意思決定に活用することを目的としたソフトウェア。数百億件ものビッグデータを数秒で処理できる性能と、ユーザーが使い慣れたwebベースとExcelベースのユーザーインターフェースを備えており、システム担当者でなくともビッグデータの集計や分析を容易に行うことが可能。企業を支える情報分析基盤として利用されている。
②MotionBoard
企業をとりまく様々なデータを価値ある情報に変え、企業にイノベーションをもたらすことをコンセプトとした情報活用ダッシュボード。表現力の高さ、リアルタイム処理、ノンプログラミング、高いメンテナンス性などが特徴。
③プロフェッショナルサービス
システムに熟知した同社の技術スタッフによる、同社サービスの導入支援。
(2)帳票・文書管理ソリューション
①SVF帳票開発の効率化と多様な出力要件に応えるための帳票基盤ソリューション。日本固有の複雑な帳票フォームをノンプログラミングで直感的に設計し、PDF、Excel、紙などへ多様な形式で出力することができる。デロイトトーマツミック経済研究所によると、「SVF」の帳票市場(帳票運用製品)における市場シェアは、67.3%となっている。
②SVF Cloud
従来の「SVF」の強みに加え、柔軟性とリアルタイム性を兼ね備えた帳票クラウドサービス。株式会社セールスフォース・ドットコムと連携した「SVF Cloud for Salesforce」やサイボウズ株式会社と連携した「SVF Cloud for kintone」を提供。
③SPA
企業や公的機関で流通している帳票を電子化し、一元管理することで、その後の業務の自動化や効率化に貢献するソフトウェアおよびクラウドサービス。電子文書の保管・管理業務及び流通を効率化するとともに、電子化された文書からデータを抽出し、他の業務システムに連携させることができる。

ウイングアーク1stの3つの強み
①独自のテクノロジー
研究開発活動及びソフトウェア開発のコア部分は、すべて自社グループ内で行っており、超高速集計、データの仮想統合、IoTデータのリアルタイム処理などの高度で難解な技術を有している。
②強力なビジネスチャネル
同社グループの販売モデルは、パートナーを介した間接販売が主となっている。同社は多くのパートナー企業と契約しており、日本全国のシステム開発案件をカバーするソリューション・サービス提供体制を構築している。

③厚いリカーリングレベニュー
ソフトウェアの保守サポート契約、サブスクリプション契約やクラウドサービスの利用契約のような継続的な契約を前提とした取引は、導入企業が増加するにつれて年々売上収益が積みあがるリカーリングビジネスと呼ばれる収益モデルである。2021年2月期時点で同社の売上高に占めるリカーリング比率は61.9%であり、同社グループの収益の安定化と継続的な拡大に大きく貢献している。
また、同社はリカーリングビジネスの最も重要なKPIのひとつとして、契約継続率を挙げている。

高い契約継続率を維持することによって、既存の契約は最大限維持しつつ、新規契約を積み上げ、持続的な成長を実現することができる。同社の年間契約継続率は安定して93%を超えている。
国内ソフトウェア、クラウドサービスの市場規模は共に拡大予測
富士キメラ総研の「ソフトウェアビジネス新市場 2020年版」によると、同社グループの主要な市場である国内ソフトウェア市場は、2019年度から2024年の間に年平均7.7%と堅調に増加し、2024年度には1兆9,936億円となると見込まれている。また、企業において、ソフトウェアを一括で購入するのではなく、ソフトウェアの機能をサービスとして利用し、その対価を月々支払うサブスクリプション型のビジネスが大きく拡大している。
サブスクリプションビジネスの代表例であるクラウドサービス市場は、2019年度から2024年の間に年平均13.2%成長し、2024年度には1兆1,178億円に達することが見込まれている。
データエンパワーメントソリューション事業の拡大が、今後の成長の鍵
同社は以下の4点を取り組むべき課題としてあげている。
①業種・業務に特化したソリューションの推進②リカーリングビジネスの拡大
③グループ経営基盤の強化
④新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応
売上高の中心は帳票ソフトウェアを中心としていたが、今後はデータ価値を最大化する最適なソリューション提案を目的とした「データエンパワーメントソリューション」に注力していく見込みだ。
また、リカーリングビジネスに特化した部署を組織し、効率的な顧客管理と離脱防止を進めていく。
カーライル・グループから大型資金調達を行い、累計資金調達金額は200億円を突破
これまで、8回の資金調達を実施し、累計調達額は200億9,800万円となっている。鈴与、伊藤忠商事、Sansan、データ・アプリケーション、帝国データバンク、PKSHA Technologyとは資本業務提携を締結している。また、2016年にはグローバルに展開するオルタナティブ投資会社であるカーライル・グループから約148億9,800万円の資金調達を実施している。

想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2021年3月16日を予定しており、上場する市場は東証一部としている。また、野村證券が主幹事を務める。
今回の想定発行価格は1,490円である。調達金額(吸収金額)は182.2億円(想定発行価格:1,490円×OA含む公募・売出し株式数:12,229,800株)、想定時価総額は、464.9億円(想定発行価格:1,490円×上場時発行済株式総数:31,198,000株)となっている。
公開価格:1,590円初値:2,000円(公募価格比+410円 +25.7%)
時価総額初値:623.96億円
※追記:2021年3月16日

筆頭株主は148億9,800万円を出資しているCARLYLEが運営するファンド、CJP WA Holdings, L.P.で34.79%を保有している。次いで21.75%を保有するIW.DXパートナーズは、伊藤忠商事と伊藤忠テクノソリューションズが共同で設立した企業である。
その他、東芝デジタルソリューションズ、49億円を出資したSansan、PKSHA Technologyなどの企業が名を連ねている。0.80%を保有する内野弘幸氏は、ウイングアーク1stの取締役会長である。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考