京都が好きで好きで「京都に住む」ことを目標にしている筆者。以前当サイトでも紹介した京都移住計画の「住」部門を担い、不動産のプロとして活躍する岸本千佳さん(30歳)が、2015年にブログに発表して話題になった「もし京都が東京だったらマップ」が、9月10日に新書として発売されると耳にした。
神社仏閣などの歴史をひもとく「京都本」ではない本を出したかった
「京都に住んでいないけど京都が大好きという人たちのなかには、京都は全部が神社仏閣や京町家だと思っているようなところがある。京都にはもっといろいろな顔があって、それを知ってもらいたいと思いました」と岸本さん。確かにそういう場面は多い。筆者が京都好きだというと「おすすめのお寺は?」とか「見どころは?」とか聞かれて困ることが多い。年に何回も行ってはいるが、毎回そういった観光地に行っているわけではない。
むしろ観光客が歩いていない住宅地をうろうろしていたり、喫茶店をいくつも回ってボーっとしていたりする。目的なく歩いていてもおもしろいのが「京都」だと思っている。職住近接の街なので、静かな裏通りに変わった看板を見つけたり、有名な喫茶店なのにご近所のたまり場のようになっていたり。そんなおもしろさは、ほかの人も共感してくれるかどうか分からないので簡単に勧められない。
そんなもどかしさを解決してくれたのが、このマップだ。【叡電(えいでん)沿い⇔中央線】や【西陣⇔谷中】、【四条~五条⇔蔵前】など、京都のエリアを「東京でいうと……」という形で表している。
「京都を紹介する本は多いですが、どうしても観光地の歴史をひもとくような本が中心になります。今回はもっと京都の『いま』を伝えたいと思いました」と岸本さん。街は生き物であり、どんどん変わっていくものだ。歴史のある京都の姿だけではなく、2016年の京都を伝えたいと思ったそうだ。

【画像1】岸本千佳さん。友人のアーティストに頼んで書いてもらったイラストが印象的な事務所で話を伺った(写真撮影/四宮朱美)
「京都」と「東京」で生活した経験があるからつくれるマップ岸本さんは京都で生まれ育ち、東京の不動産ベンチャーで5年間働き、2014年に京都に戻ってきた。東京ではシェアハウスの運営や改装可能な賃貸など、新しい住まい方を提案していた。その延長で「もっと自由な暮らし方があってもいいんじゃないか」と思いはじめ、二拠点居住やシェア別荘、ひいては「移住」のような暮らし方を自然と考えはじめたそうだ。
「5年間東京のリノベーション業界で、自分より経験の多い人たちに囲まれて働いていたのですが、自分が東京で働く意味があるのかと考えるようになりました。京都だったら、“自分自身”の需要がありそうだと思い立ち、京都に帰ってきました」と岸本さん。京都移住計画のメンバーとして、移住希望者の住まい探しや店舗探しの相談に乗ることも多い。
「『どこに住めばいいですか』という質問に、簡単には答えられません。その人がどんな暮らしがしたいか、何を優先順位にしているかなど、じっくりヒアリングしないと、その人に合った場所は見つけられません。できれば自分で歩き回って答えを出してほしいですが、そんな人の目安になればと思って、このマップをつくりました」と岸本さん。
賃料や面積といった数字だけではない「街」の評価があってもいい「岸本さんは「東京の『この街』が好きな人は、京都の『この街』が好きだろうな」という目線でマップをつくったそうだ。「不動産業から見た街の評価であれば、賃料とか面積といった数字的な見方があると思いますが、それだけで街の価値を決めるのはおかしいと思う気持ちがあるんです」
また地元愛だけではなく、一度離れていたからこそ分かる、客観的な京都の街の見方ができると岸本さん。例えば京都駅が、東京駅ではなく品川駅になっていることが興味深い。新幹線の駅ではあるが、現状では京都の中心といえるほど栄えていないことで腑に落ちる。
これからは京都駅周辺に可能性が広がっていくのでは京都に住みたいが、賃料がどんどん上がっている現状のなかで、どこがおすすめかを岸本さんに相談した。「中京区をはじめとした中心部はなかなか難しいので、これからは京都駅の周辺に期待できるかもしれないですね。南口の整備事業 (※1)が進んでいますし、南側にホテルアンテルームなどのアート系の宿泊施設ができたり、西側に鉄道博物館ができたり、今までの工場地帯というイメージから少しずつ変わっています」とのこと。
※1京都駅八条口駅前広場の整備事業(2016年12月完成予定)
たしかに今までは京都駅の周辺に「住む」というイメージはなかったが、最近は南口に新しいホテルが次々にできていて宿泊する機会は増えている。去年「京都市立芸術大学移転整備基本構想」が京都市で策定されたので、京都駅の東に大学が移転する可能性も高い。
最後に「どの街が一番好きですか」と岸本さんに聞いたところ、「どの街にもいいところがあって、なかなか決められませんね」という答えに、やはり並々ならぬ京都愛を感じた。
本の帯には「不動産業で活躍する著者が発見!『京都旅&京都暮らし』の新法則!!」とある。本が出版されたら、さっそく持ち歩いて、今まで行ったことのない「京都」に挑戦させてもらおうと思う。
●取材協力・addSPICE●参考
・『もし京都が東京だったらマップ』/イースト・プレス 元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/09/117861_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル