TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
6月29日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、元ニッポン放送アナウンサー、現在はフリーのラジオパーソナリティとしてご活躍の上柳昌彦さんをお迎えしました。
上柳さんは1957年生まれ。立教大学を卒業して、1981年にニッポン放送に入社。実はニッポン放送の採用面接と同じ日にTBSの面接も受ける予定だったのですが、ニッポン放送の採用担当の人に「キミに内定を出したいと思っているんだけど、このあとTBSの面接に行くなと言ったらどうする?」と言われて「行きませんとも!」と即答。
なんとも調子がいい話ですが、これがなければ、のちの「ニッポン放送の看板アナウンサー」は誕生していなかったわけです。ちなみに久米さんはニッポン放送の面接に寝坊して遅刻するというヘマをしているそうです。
ニッポン放送入社後は深夜の音楽番組から、お昼の生ワイド、朝の情報番組まで様々な時間帯で人気番組を担当して、タモリさん、笑福亭鶴瓶さん、高田文夫さん、テリー伊藤さん、山下達郎さん、桑田佳祐さん、久保田利伸さんといった方々と共演。
鶴瓶さんは上柳さんを「最高のラジオアナウンサー」と絶賛しています。2017年に定年退職したあともニッポン放送の早朝番組『上柳昌彦 あさぼらけ』のパーソナリティを続けています。
久米さんと15年ぶりの共演

実は上柳さんと久米さんは、かつて一度だけ、一緒にラジオをやったことがありました。上柳さんにとっては憧れの人との初対面。一方、久米さんにとっては18年続けた『ニュースステーション』が終わったあと数ヵ月の休養期間をはさんで、メディア復帰となる仕事でした。
「15年前ね、バカな番組をやったんですよ。朝6時スタート、放送終了は夕方5時25分。11時間25分の番組。ニッポン放送がお台場から有楽町に戻ってきたとき」(久米さん)
「そうです」(上柳さん)
「ニュースステーションをその年の春までやってて、秋になってちょっと仕事しようと思ってたらニッポン放送からお仕事をいただいて、12時間?ってちょっと引っかかったんですけど(笑)。『ニッポン放送 久米宏と1日まるごと有楽町放送局』。それをやって、夕方5時になって、引っ越したばっかりのニッポン放送のベランダに出たんです、2人で」(久米さん)
「そうです、そうです!」(上柳さん)
「2人でベランダに出て、11時間半の番組の締めの25分間を2人でやろうと思ったら、マイクロフォンが1本故障したんです(笑)。ぼくが持ってるマイクロフォンと上柳さんが持ってるマイクロフォンのどっちかが故障して、2人でマイク1本」(久米さん)
「へー、ステキ(笑)」(堀井さん)
「男性デュオみたいになっちゃって(笑)」(久米さん)
「頰と頬を寄せ合ってですね(笑)」(上柳さん)
「気持ち悪いって思った瞬間に直ったんです。よかったと思って(笑)」(上柳さん)
「ははは」(上柳さん)。
「ニッポン放送って親切な放送局で、あの番組が終わってから1週間後、こういうものが送られてきたんです(と言って、CDの束を見せる)」(久米さん)

「へーっ! あの音源って、残ってるんですか!」(上柳さん)
「1時間ごとにCDになってるんです。12枚分」(久米さん)
「えーっ! そうなんですか」(上柳さん)
「それで、上柳さんとお話しするんだったら11時間半分、朝の6時の時報から放送終了まで聞くべきだと」(久米さん)
「ええっ?!」(上柳さん)
「だって12時間あったら聞けるんですから。ぼくはスタンバイするのが趣味みたいなもんですから、きちんと全部聞くべきだと思ったんですけど…。長すぎるので、最後の25分だけきのう聞いたんです(笑)」
「あっははは」(上柳さん)
「それで2人でいろいろ…」(久米さん)
「話しました」(上柳さん)
「できたばっかりのニッポン放送のベランダに出てね。
「いや、相当ぼくは感傷的になりました。あの久米宏さんの横でぼくはしゃべってるんだなあって。中学生、高校生のときに聞いてた、あの久米宏さんの横だよ、オレ」(上柳さん)
上柳さんは中学生になってからラジオの深夜放送にはまって、『パック・イン・ミュージック』(TBSラジオ)、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)、『セイ! ヤング』(文化放送)と各局の番組を聴くようになりました。そして「深夜放送ファン」という雑誌で「久米宏アナウンサー 病気のためパック・イン・ミュージックを降板」という記事を読んで、久米さんを知ったそうです。
その後、病気から復帰した久米さんが平野レミさんと『それいけ! 歌謡曲』の中継コーナーで「男が出るか! 女が出るか!」と大騒ぎしているのを聞いて、ラジオの世界に引かれるようになったということです。
上柳さんは「1m20㎝の人」

上柳さんは、ニッポン放送の特番のエンディングで久米さんから言われた言葉がずっと頭に残っているのだそうです。
「上柳くんは半径1.25mという感じのしゃべりなんだよねって、久米さんに言われたんですよ。ぼくは褒められたと思って、番組が終わってからいろんな人に『ぼく、久米さんに1.25mって言われたんだよ』って言ったら、『それ、どういう意味だよ』ってみんなに言われて(笑)。改めて考えると、確かに、それはどういう意味だったんだろうって。だから、いつか、あの言葉の真意をお聞きしたいなと思っていたんですよ」(上柳さん)
「ぼくはその番組をやる前から上柳さんのことは存じ上げてたんですけど、上柳さんの声と喋り方が好きでね」(久米さん)
「ありがとうございます」(上柳さん)
「それで上柳さんに会って、『距離感がいい』っていう話をしたんです。ラジオで上柳さんの放送聞いていると、ちょうどいい距離だな、1m20㎝くらいだっていうふうに放送で言ってるんです」(久米さん)
「1m20㎝でした?」(上柳さん)
「あなたは1m25㎝って本に書いてますけど、放送では1m20㎝」(久米さん)
「お詫びして訂正いたします(笑)」(上柳さん)
「つまり、ぼくがリスナーで上柳さんがマイクの前でしゃべっている声がラジオでかかっている。
「はあー…(と溜息)。もう全然、音源も残っていないので」(上柳さん)
「ええっ、ホントに?」(久米さん)
「一生懸命探せばあるかもしれないですけど。ここにあったのか(笑)。ぼくも驚いてます」(上柳さん)
久米さんは変態?!

ニッポン放送の特番で共演したときの話はまだ続きます。上柳さんはかつてラジオで聴いていた久米さんの中継を生で見るチャンスに胸が高鳴ったそうです。
「朝6時のオープニングは、久米さんがニッポン放送の前の丸の内中通りというところを歩くところから始まるんですよ。久米さんが中継してるところを見たかったので、ぼくの出番はそこまで早くなかったんですけど行ったんです。
「最初わざとマイクから離れて、どんどん近づいていったんです」(久米さん)
「そして、有楽町に古くからある『岩崎』という、カツ丼とかを出すお店があるんですけど、そこに久米さんが乱入していったんです。店の2階にそこのご家族が住んでいるんですけど、嫌がる家族を振り切って久米さんが上がろうとするからそこの奥様が止めるんですよ。そうしたら止めた奥様の脇の下のにおいを嗅いでみましょうって、久米さんがクンクンって(笑)。すごい展開だったんですよ。この人は『土曜ワイド ラジオTOKYO』のときから変わってないなぁと」(上柳さん)
まだ伸びしろがある?!

「落語家は歳を取れば取るほど話に味が出てきます」(久米さん)
「そうですね。定年がないですからね」(上柳さん)
「上柳さんを拝見していると、歳とったほうがよくなるタイプですよね」(久米さん)
「ありがとうございます。まだ伸びしろがあるということですね?」(上柳さん)
「そういう安易な言葉じゃなくて(笑)」(久米さん)
「なるほど(笑)」(上柳さん)
「別の味が出てくるっていうか。伸びしろとは違って」(久米さん)
「ほおー」(上柳さん)
「別のページが増えるっていうんですかね。新しいものが見つかるタイプかなって思ったんです、お話ししてて。アナウンサーって歳を取ると、ここだけの話ですけど、ただモウロクしただけっていう人が結構いて。
「はあ」(上柳さん)
「みんな年齢にやられちゃってます。年齢を味方につけてる人ってあんまりいないんですよ」(久米さん)
「久米さんもそうですし、徳光(和夫)さんもそうですし、(大沢)悠里さんもそうですけども、ぼくが憧れていた方って今でも現役でバリバリやられてますから、ぼくの場合いつまでもペーペーでやっているというのは幸せだと思いますね。まだやんちゃでいいや、みたいな感じですね」(上柳さん)
久米さんから上柳さんへの宿題

「ぼくはアナウンサーっていう職業の最大の弱点は、話し方に問題があると思うんですよ。発声訓練とトレーニングをするのが最大の間違いだっていう。それをやらないとアナウンサーになれないということがあるんですけど、つまり人間性が出るか出ないかっていう」(久米さん)
「愛嬌?」(上柳さん)
「もっと個性ある話し方。人間は、みんな同じ話し方をする必要はなくて、アナウンサーはきちんとした日本語をしゃべれって厳しく訓練をするのが最大の間違いだじゃないかって、最近思ってるんですよ。言葉ってそういうもんじゃないだろうって」(久米さん)
「うーん」(上柳さん)
「上柳さんはもっと違う話し方とか、もっと違う言葉の発見ができるんじゃないかと思います」(久米さん)
「宿題…か」(上柳さん)
「真剣に考えないでください、1m20㎝ぐらいの話です(笑)」(久米さん)
「はあ…、そうですか」(上柳さん)
「本当は違った道があったかもしれないって最近すごく思うんです。ゼロから始めてみたらいかがかなって」(久米さん)
「ゼロから…」(上柳さん)
「あの、2年後ぐらいにまたお会いして」(久米さん)
「ぜひお話を(笑)」(上柳さん)
「2人で全く違う話し方をして、誰が誰だかわからない(笑)」(久米さん)
「ありがとうございます(笑)」(上柳さん)
対談終了後には、15年前に共演したときのマイクのアクシデントを思い出して〝男性デュオ風〟に記念撮影!
上柳昌彦さんのご感想

今日はやっぱり、久米さんが「ニッポン放送 久米宏と1日まるごと有楽町放送局」を2004年9月20日におやりになった話をしたいと思っていたんですが、まさかその音源が残っていて、それを久米さんがちゃんと持っていたというのでびっくりしましたし、それをぼくに「面白いから聴いてごらんなさい。返却無用です」って最後に渡されたのがすごく嬉しかったですねえ。嬉しかったので家宝にします。
その特番のときに「上ちゃんのしゃべり方は半径1m20㎝だよね」と言われて、その真意は何だろうというのをずっと聞いてみたかったんですけど、やっと今日聞けて、そうかリスナーとの距離感のことなんだなあ…と思ったら、今日また最後に「キミはもう一回変わっていくかもしれないね」と言われて。
「伸びしろがあるってことですか?」って聞いたら「そういう簡単なことじゃない」って(笑)。
◆6月29日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
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