TBSラジオ「ACTION」月~金曜日の15時30分から生放送。金曜パーソナリティは武田砂鉄さん。

10月18日(金)のゲストは翻訳家・岸本佐知子さん。7年ぶりのエッセイ集『ひみつのしつもん』を出された岸本さんに、武田砂鉄さんがお話を伺います。

武田:エッセイを書くのを絞り出さなきゃいけないときに、どういう風にしたら無理矢理書けるかみたいな、チャンネルはいくつか用意されているんですか?

岸本:それはもう自分で書いているという意識もなくて、受信なんですよね。

武田:受信と言いますと?

岸本:自分が面白いことを考えるんじゃなくて、空気中に漂っている変なものが私のアンテナに入っていく、それをキャッチして書くというイメージですね。

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幸坂:常に違和感を持ちながら生活をされているんですか?

岸本:違和感というよりは、ぼーっとしているときに変な言葉がぽっと浮かんだりすると、「それはなに?」と思って書けたりするみたいなことがありますね。

武田:それはいつか書こうと思ってストックしているというよりも、そのときから書こうという意識ですか?

岸本:いろいろですね。ぼーっとしているときに変な言葉が浮かんだら、とりあえず小さな紙に書いて積み重ねておくんです。で、締め切りが来たらその紙を見るんですが、大体くだらない。実際に起こった面白いことって、文章にすると3行くらいで終わることが多いです。以前、渋谷の雑踏を手を振りながら歩いてたら、前を歩いてた人と一緒に手を繋いで歩いちゃってたんですよ(笑)それは人に話すとすごく面白がられるんですが、書こうとすると3行で終わりですね。

武田:たしかに(笑)多分、妄想とか、飛躍させる作業というか。岸本さんのエッセイはそれがワンセットのように思えます。

岸本:私は”妄想”とよく言われるのですが、妄想というのがよく分からないんですよね。

翻訳家・岸本佐知子さんに聞く「変なこと」を書く秘訣

武田:多分、意識と混在してたり、いろんなものとごちゃごちゃになってるんじゃないでしょうか。

岸本:というか、なにかものを考えますよね。でもそれはただの”考え”であって、”考え”と”妄想”ってなにが違うんですかね?ずっとなにかについて考えてると、考えも極端になりますよね。だからどこで考えをやめるかが問題なのであって。みんなはすごく忙しくて、効率的な素敵なライフを送っているので、馬鹿なことを考え始めても、「あっ、いかん、いかん!」とやめられるんですよ。でも私はずっと家に一人でいて暇だからストップしないんですよね。

武田:それ、すごく分かります。誰もとめる人がいないから。だから岸本さんのエッセイを紹介するときに、「妄想ワールド炸裂!」という言い方をよくされますけど、よく読んだらこれは岸本さんの考えですよね。だから他人から読むと、「この人、大丈夫かな?」と思うこともあるんだけど(笑)、それを納得させるために”妄想”って言ってますよね。

翻訳家・岸本佐知子さんに聞く「変なこと」を書く秘訣

武田:岸本さんの本業は翻訳業ですが、その翻訳をするという作業とエッセイを書く作業は近いですか?距離の遠いものですか?

岸本:昔は真逆だと思ってました。

エッセイはなにもないところから書かなきゃいけないけど、翻訳は原書があります。翻訳はもとがあるから、間違って翻訳をするということがあります。それはすごく辛いし。エッセイはゼロ書かなきゃいけないので、それも辛くて。でも最近はそんなに違わないかもと思っていて。先ほど言いましたが、両方受信なんですよ。
翻訳家・岸本佐知子さんに聞く「変なこと」を書く秘訣

岸本:翻訳は向こうの作家の声を受信して、それをスピーカーとして言語を変えて出すという感覚なんですね。ラジオって意思がないじゃないですか。だから自分は意思なく、電波を受信して発するだけ。エッセイも空中に漂っている変なことを自分のアンテナで受信して発しているだけだと感じるようになってきて。それでちょっと楽になりました。「書けないときは電波がないだけ」と思うようになったので。

武田:岸本さんのエッセイを読んでそれが面白くて「私にもある」って思うのは、お笑い芸人さんのお話って自分のエンジンをすごく使って話を膨らます作業をしてるじゃないですか。でも岸本さんのは空気中に浮いてるものをパクっとするというのは、多分誰にでもできるセンスですよね。
岸本:そうですね。誰にでもできるし、あとは暇で孤独かどうかです(笑)

他にも岸本さんが日常に感じた変なことを武田さんがたくさん伺いました。

◆10月18日放送分より 番組名:「ACTION」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20191018153000

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