引退後も精力的にさまざまなPodcast(ポッドキャスト)でインタビューを受けている元世界No.1のマリア・シャラポワ。近頃はテニスだけでなく彼女が手掛けるビジネスについて興味深い話が語られている。
【画像】背中が開いた姿でビーチにたたずむシャラポワ
シベリア(ロシア)で生まれ
カリフォルニア(アメリカ)にいる現在までの旅路
このPodcastは、彼女の半生についての概要を話すところから始まる。シャラポワが決して恵まれた環境に生まれたわけではないということは、シャラポワファンなら誰もが知るところだろう。
ロシアのシベリア地方にあるニャガンという町で生まれたシャラポワ。彼女の両親は決して裕福ではなかった。その後、家族で移住したソチで4歳の時にシャラポワはテニスを始め、6歳半の時、ビザが発行されなかった母親を置いて父と2人でアメリカに渡った。そして、その時父が手にしていたお金はたった700ドルだったというのは有名な話だ(しかも、その後すぐホテルに置き忘れてしまうことになる)。
大成功した彼女のキャリアだが、テニス選手として活動する間も数々のケガに見舞われ、2016年にはドーピング疑惑により15ヵ月もの間、試合に出られないという苦しい時間も味わった。美しさと強さにより常に人気が高いシャラポワだが、彼女の人生とキャリアは決して平坦ではなかったことが分かる。これらの障害が、シャラポワの精神力をさらに強めたことは事実だろう。
頑固さは欲しいものを手に入れるための力になる
シャラポワには、幼い頃から他のことに乱されずに一つのことをやり続ける才能があったようだ。うまくいかなければ他のことをするのではなく、次はもっとうまくいくように試行錯誤する。この才能は、幼い頃にロシアでであったコーチが見抜いていた。
とはいえ、子どもの成長はプラン通りにはいかないものだ。シャラポワの場合、自身の才能に加え、いいエージェントや常に信じてそばにいてくれる両親の存在などに恵まれたことが大きな助けとなった。実際、彼女は11歳の頃から同じエージェントと仕事をしているし、最も信頼できるのは両親であると、このインタビューで語っている。
さらに、このインタビューの中でシャラポワは、自分のことを頑固だと表現している。「頑固」は悪い意味にもとられがちだが、彼女いわく「頑固さにはいい面もあり、欲しいものを手に入れるための力となってくれる」と語っている。
欲しいものを手に入れるためには、フィジカルな面でのリミットを押し広げていくことが大切であり、練習の際も持てる力すべてをコートに置いてくる、ということを信念にしていたそうだ。このような信念を貫く力こそ、彼女の言う頑固さの一つなのだろう。
グランドスラム優勝後もバーンアウトを回避できた要因
〈他の人と違う人生は“スペシャル”〉
14歳でプロになり17歳でグランドスラムを制したシャラポワ。週7日、毎日5時間の練習をこなしており、通常のティーンエイジャーとは確実に異なる人生を送ってきた。
〈完璧な自分を見せようとしない〉
シャラポワは「キャリアにおいて多くのファンに完璧を見せようとはしていなかったし、弱い部分も見せていたことが重要だった」と語っている。数千人を前にしてセンターコートで戦い、テレビの前でも多くの人が見ていたとしても、負けたり汗をだらだら流したりする姿を見られることが居心地の悪いことではなかった。むしろ自信を感じていた、と語っている。このように、完璧な自分を見せようとしない姿勢が、バーンアウトを回避する結果の一端を担ったようだ。
〈プレッシャーと不安は違う〉
「プレッシャーは何度も感じてきたが、プレッシャーには価値がある」と語ったシャラポワ。彼女は、たとえビッグマッチの前にプレッシャーを感じることはあっても、不安になることはなかった。なぜなら、毎朝早く起きて練習をして自分のリミットを押し広げてきたのは、すべてこの瞬間のためだと感じていたからだ。グランドスラム決勝のようなビッグマッチの前であっても、毎日ルーティンをしっかりとこなし、気を引き締めて「Let’s go」と試合に向かうのが好きだったようだ。
メンタルの強さの根底にあるもの
コート上でどんな苦境に置かれても常にタフだったシャラポワ。彼女は、テニスには勢いが非常に大切であり、相手よりも少しだけ自分のメンタルが強いことで、勢いを自分側に向けることができると知っていた。
シャラポワは若い頃から、相手に自分がどう感じているのかを悟られないようにしていた。だから、相手や自分のマッチポイントであっても、自分がどんな気持ちでいるか相手は分からなかったはずだ、と語っている。このメンタル面での強さが、最後の1ポイントを取るために非常に重要なのだろう。
現役生活の一部は“恋しい”
でも家にトロフィーは飾らない主義
「テニス選手としての現役生活は恋しい?」というインタビュワーからの質問に対し、「いくつかのことはね」と答えたシャラポワ。朝起きて歯を磨き、クローゼットからTシャツとタイツ、パンツのいわば毎日の“ユニフォーム”を着てコートに行くことは、彼女が恋しいと感じることの一つだ。
一方で、シャラポワは家にトロフィーを一つも飾っていない。現役時代の写真も置いておらず、テニスをしていたという形跡がないそうだ。その理由として、テニスのすべては彼女の中にあり、あえて飾ることではないと感じているそうだ。引退後はきっぱりと新しい人生を歩むシャラポワの姿勢には、彼女本来の強さを感じることができる。
期待の女子選手は“大坂なおみ”
インタビュワーから期待の女子テニス選手を尋ねられたシャラポワは、大坂なおみ(フリー/世界ランク14位)の名前を答えた(ちなみにインタビュワーも「私も」と答えている)。
魅力的なシャラポワの源は
苦労に裏づけられたメンタル
シャラポワの魅力は、才能があるだけでなく、最後の1ポイントを取り切るためのある意味、泥臭い努力とその姿勢にある。完璧を見せることにこだわらないからこそ、私たちは彼女に親近感を覚え、その努力に裏づけられたメンタルに憧れるのだろう。これからも彼女が語る言葉に注目していきたい。