■過去最高を記録した2020年の飲食業倒産件数



一連のコロナ禍の影響で飲食店がかつてない苦境に陥っているのはご存知の通りです。東京商工リサーチによれば、2020年(1-12月)の飲食業の倒産件数は842件(前年比+5.3%増)となり、年間最多だった2011年の800件を上回って過去最多を記録しました。



“この状況下で、1年間で842件は少な過ぎるのでは?”と疑問に感じた人も多いと思いますが、この対象となる飲食業は「飲食事業を主業とする事業者(法人・個人事業者)で、法的整理かつ負債1,000万円以上」となっています。



したがって、街中の蕎麦屋さんが閉店したとか、駅前の居酒屋が潰れたとかいう類のケースのほとんどは含まれていません。また、運営する複数店舗のいくつかが閉店したというのも対象外です。もし、これらを対象に含めると、総件数は桁が軽く1つ増えるでしょう。



なお、帝国データバンクの調査結果では、2020年の倒産件数は同じベースで780件となり、やはり過去最高を記録したようです。東京商工リサーチの調査結果と件数の差異がありますが、いずれにせよ、2020年の飲食業の倒産件数が過去最高だったことは一致するところです。



■意外? 焼肉店の倒産件数は2011年以降で最少



さて、そんな未曾有の危機に見舞われた2020年でしたが、飲食業では「焼肉店」の倒産件数が大幅に減少しました。東京商工リサーチの調査によれば、「焼肉店」の倒産件数は14件(前年2019年は21件)となり、記録が残る2011年以降では過去最少を記録。また、負債総額も2014年を下回って過去最少です。



前述した通り、街中にある(個人経営の)焼肉店が閉店したという類は含まれていませんが、全体と比べても相対的に見て大健闘しています。言われてみると確かに、「叙々苑」や「牛角」など有名焼肉チェーン店が大量閉店に踏み切ったというニュースは聞いていない気がします(注:通常の閉店・出店は実施している模様)。



しかし、この未曾有の事態下で、なぜ焼肉店が相対的に健闘しているのでしょうか。



■焼肉店に普及した無煙ロースターでスピード換気



各種調査で大きな理由の1つとして挙げられているのが、焼肉店の各席にある排煙装置による換気で「密」を避けられるイメージが強いことです。



確かに、大量の煙を出す焼肉店では、コロナ禍以前から十分な換気が実行されています。特に、ここ数年間で広く普及した焼肉無煙ロースターは、焼肉の煙と一緒に店内の空気も外に排出する機能を備えており、大手企業の無煙ロースターの場合、何と約3分半で客席全体の空気を入れ替えていることが公表されています。



多くの飲食店が3密回避で四苦八苦している中、これは大きなアドバンテージになったでしょう。



■2020年の売上高データが示す焼肉店の相対的健闘



この焼肉店の健闘ぶりは、実際のデータに如実に表れています。一般社団法人日本フードサービス協会が発表する各カテゴリーの推移を見ると、ファミリーレストランに属する「焼き肉」の売上高は、昨年10月~11月に2カ月連続で前年を上回りました。



この時期で同じように2カ月連続プラスだったのは、他にはファストフードに属する「洋風」だけです。ちなみに、ファストフードの「洋風」は、マクドナルドやKFCなどが属しています。



12月は忘年会が壊滅状態となったことから、「焼き肉」も3カ月ぶりのマイナスに転じましたが、大幅マイナスに陥った他のカテゴリーに比べれば健闘が続いています。



なお、2020年の「焼き肉」の年間売上高は前年比▲11%減となり、ファミリーレストランでは「中華」とともに減少率が小さい結果となりました。



ご参考までに、2020年間の売上高は、「焼き肉」が属するファミリーレストランが▲22%減、パブ・居酒屋が▲50%減、ディナーレストランが▲36%減、喫茶店が▲31%減、ファストフードが▲4%減、これらを含めた外食全体で▲15%減でした。



コロナ禍以前からテイクアウトが主力商品だったファストフードの好調ぶりが際立っていますが、焼肉店が相対的に大健闘していることは、これらのデータでも証明されたと言えましょう。



■「焼き肉」の客単価は前年より低下



このまま焼肉店は、コロナ禍における外食産業の相対的勝ち組として存在感を高めていくのでしょうか?



今後の推移を見守る必要はありますが、手放しで喜べない点も多々あります。それは、小売り業界や外食産業で最も重要な指標の1つである「客単価」が下落していることです。



2020年間の各カテゴリーの客単価実績を見ると、意外にも「焼き肉」は前年を下回りました(前年比▲0.4%減)。わずかな下落とはいえ、「パブ/居酒屋」を除く他カテゴリーの客単価はいずれも上昇しているため、逆に目立っています。



一般に、来客数が大幅減少になると客単価は上昇する傾向が見られます。なぜならば、外食産業では可処分所得の低い消費者から減少し始めるからです。その結果、高価格帯のメニューをチョイスする消費者が相対的に多くなり、平均客単価は上昇するという仕組みになっているのです。



しかしながら、これは焼肉店にも当てはまるはずですが、なぜ焼肉店の客単価が低下したのでしょうか?



■一人焼肉の需要増加でメニューや価格に変化



最大の理由は、いわゆる一人焼肉の増加です。ご存知の人も多いと思われますが、従前の焼肉店のビジネスモデルは、複数人数で来店することが大前提となっていました。ロースやカルビなども概ね2人前が“1つの定量”という価格設定になっていたことは周知の事実と言えます。



しかしながら、生活様式の変化に伴い“おひとりさま”の来店が増えたことで、メニューの見直し(商品ラインナップや価格)が必要不可欠となり、その結果として客単価が低下したと考えられます。



もちろん、現在でもまだ複数人数での来店客の方が多いと思われますが、おひとりさま来店客を無視できなくなったことは確かでしょう。

いや、既に焼肉店は一人焼肉なしでは生き残れない時代に入ったと言っても過言ではないはずです。



■おひとりさま増加は将来の経営にダメージ?



ただ、残念ながら、今後も客単価の低下が続くとなれば、店の経営に対してボディブローのように徐々にダメージを与えると予想されます。特に、現在は円高傾向のお蔭で輸入牛肉が比較的安価で調達できますが、この状況が崩れると大幅な収益悪化も想定できるでしょう。



したがって、多くの焼肉店は、コロナ禍における相対的な健闘が続いている間に、従前のビジネスモデルを脱却して、一人焼肉でも十分な収益を上げられるような構造改革が求められます。



こうした状況を勘案すれば、焼肉店を相対的な勝ち組と評価するのは時期尚早かもしれません。



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