先週はエヌビディアの決算が無難だったこともあり、日本では非鉄金属株が上昇相場をけん引しました。今週は雇用統計やブロードコムの決算発表などが焦点です。

経済指標が大幅に悪化しない限り、米国の9月利下げ期待が高まるため、株価には追い風になりそうです。


今週のマーケット:米雇用統計、ブロードコム決算などが焦点。A...の画像はこちら >>

トランプ大統領のFRB介入が不安要素!ブロードコム決算でAIバブルは頂点に!?

 今週の株式市場はトランプ関税による米国経済の多少の落ち込みが米国の利下げ期待につながるようなら上昇、落ち込みが激し過ぎて景気後退懸念につながるようなら下落しそうです。


 9月は日経平均株価もダウ工業株30種平均も過去60年超の月別騰落率で最下位という気になるデータもあり、ともに史上最高値圏にある日米の株価が大きな調整期間に入る可能性もないとはいえません。


 ただ、トランプ関税でも米国の景気指標がそこそこの結果で持ちこたえるようなら、9月17日(水)終了の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ期待で9月前半は株価の続騰に期待が持てるかもしれません。


 先週の日経平均株価(225種)は前週末比85円(0.2%)高の4万2,718円と小幅高で終わりました。


 一方、機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は、8月29日(金)の米国物価指数が予想通り高止まりしたこともあり、週間では0.1%安と小幅下落でした。


 先々週、22日(金)に米国ワイオミング州で各国中央銀行総裁が一堂に会して開催されたジャクソンホール会議で、米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が雇用市場の軟化を理由に9月利下げを示唆したことが株価の下支え役になりました。


 しかし、FRBに対して露骨な利下げ圧力をかけるトランプ大統領が25日(月)、FOMCでも投票権を持つ利下げに慎重なリサ・クック理事を住宅ローン絡みの不正を理由に解任を発表したことが米国株伸び悩みにつながっています。


 人工知能(AI)関連の花形株である エヌビディア(NVDA) が28日(木)早朝に発表した2025年5-7月期決算は前年同期比56%増収、59%増益で過去最高益を更新。


 今期2025年8-10月期の売上見通しも市場予想を上回りましたが、中国向け事業の不透明感から株価は下落。


 29日(金)には中国電子商取引大手の アリババ・グループ・ホールディング(BABA) がエヌビディアの半導体にかわる中国製AI半導体を開発したというニュースも伝わり、前週末比2.14%安と3週連続の小幅下落で終わりましたが、悪影響は限定的でした。


 今週は9月2日(火)に全米供給管理協会(ISM)の8月製造業景況指数、4日(木)に8月ISM非製造業景況指数、5日(金)には8月雇用統計など、毎月の第1週恒例の米国重要雇用・景気指標が相次いで発表されます。


 特に5日(金)の米国雇用統計は、前回8月1日(金)発表の7月分で失業率が4.2%に上昇し、5~7月の非農業部門新規雇用者数が大幅に落ち込んだことで米国株が一時的に急落したため、今回も注意が必要です。


 前回7月の雇用統計発表後には、5~6月の新規雇用者数が大幅に下方修正されたことに腹を立てたトランプ大統領が「私と共和党を悪く見せるために操作された」と、当時の統計担当局長を解任。


 後任にはトランプ大統領に近い保守系シンクタンクのエコノミストが就任しているため、今回の発表がどう変化するか、それに市場がどう反応するかに注目が集まります。


 トランプ大統領が解任すると発表したFRBのクック理事は28日(木)、自身の解任は米国経済に修復不能な危害を与えかねないと、トランプ大統領をワシントンの連邦裁判所に提訴しています。


 29日(金)には、米国の連邦控訴裁判所が、トランプ大統領の発動した相互関税などの関税措置は無効で法に反するという判決を下しています。


 こうした反撃に怒ったトランプ大統領がFRBや裁判所に対して、さらに攻撃を加えるようだと、米国中央銀行や司法の独立性に対する不安から米国株、米国債、米国ドルが全て売られる「米国売り」が加速する恐れもあります。


 今週5日(金)早朝には、AIデータセンター向け半導体に強い米国の ブロードコム(AVGO) が決算発表します。


 AI関連株にはバブル崩壊の危機もささやかれているため、決算内容次第ではAI株の急騰・急落も起こりそうです。


 9月初めとなる1日(月)は4万2,362円と先週から続落でスタート。一時は8月以来の4万2,000円台を割り込み、前日比529円安の4万2,188円で終えました。


先週:AIデータセンター株バブル続く!日本の小売株に牛丼値下げショック!

 先週の日本株は業種によって強弱がはっきり分かれる展開でした。


 週間の業種別上昇率で突出した首位に躍り出たのは、AIデータセンターに高性能な光ファイバーを供給する企業の多くが所属する非鉄金属セクターでした。


 主力の フジクラ(5803) が前週末比11.2%高で史上最高値を更新した他、AIデータセンターの伝送網向けに高性能な銅箔(どうはく)などの部材を提供する 三井金属(三井金属鉱業:5706) が13.1%高、 JX金属(5016) が12.8%高と続伸。


 AIデータセンター向け部材生産を行う中型株が幅広く買われ、物色の輪が広がっています。


 また、トランプ関税交渉の一環として、中国と最大500機の航空機販売契約の合意に向けて交渉中と伝えられる米国 ボーイング(BA) 社に機体材料のスポンジチタンを納入している 大阪チタニウムテクノロジーズ(5726) が30.7%高と、バブル気味に急騰したことも非鉄金属セクターの上昇に貢献しました。


  米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資会社 バークシャー・ハサウェイ(BRK.B) が持ち株比率を10%超まで買い増しした 三菱商事(8058) が3.7%高。


 資源株の多い卸売業や鉱業セクターも業種別上昇率の上位に入りました。


 一方、週間の下落率最下位に沈んだのは株主優待株も多く、個人投資家の注目度が高い小売業です。


 28日(木)にこれまで強気の値上げを続けてきた牛丼チェーン「すき家」が客離れ防止もあって一転、牛丼の値下げを発表したことで、「すき家」を運営する ゼンショーホールディングス(7550) が4.8%安。


 同じ牛丼チェーンの 吉野家ホールディングス(9861) が7.2%安となるなど、日本の内需株はちょっとした「牛丼値下げショック」に見舞われました。


 国内外の化粧品販売が好調で2025年に入ってから株価が前年末比77.2%も急騰してきた 良品計画(7453) は、商標「無印良品」の中国企業の無断使用に関する中国での裁判敗訴の影響もあり、前週末比8.4%安と続落。


 これまで値上げ効果で業績が躍進し、株価も過去最高値圏まで上昇してきた外食、日用品、スーパー関連の小売株の下落は、「日本株買い」が下火になる前兆シグナルかもしれません。


 一方、米国では29日(金)に発表された個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)がほぼ予想と一致したものの、年率3%に迫る物価上昇率で高止まりしたこともあり、29日(金)の米国株は下落しました。


 ただS&P500は前日の28日(木)に史上最高値を更新して初めて6,500ポイントの大台に到達しており、9月利下げ期待に乗ったイケイケ相場はまだ続きそうな気配もあります。


今週:米国でスタグフレーション懸念再燃も!?日銀の9月利上げ後退と円安で日本買いは再開!?

 今週は9月5日(金)の米国8月雇用統計以外にも、3日(水)には7月雇用動態調査(JOLTS)の求人件数、4日(木)には給与計算代行会社 オートマチック・データ・プロセッシング(ADP) 社の8月民間雇用統計など、米国の重要雇用指標が発表されます。


 米国ではトランプ政権による不法移民労働者の取り締まりで7月には移民の労働力人口が4年ぶりに前年同月を下回りました。


 4.2%の低失業率など、一目すると堅調に見える米国の雇用市場の背景には、移民労働者の減少による人手不足もあるとみられ、今週の雇用指標も見かけ上は良好に見えるものの、実は悪化しているといった評価が難しい結果になる可能性もあります。


 現状の米国株は9月利下げを期待して上昇しているため、今週発表される米国の景気・雇用指標が多少悪化すれば、逆に9月17日(水)終了のFOMCでの利下げがより一層、確実視されるでしょう。


 次々回の10月29日(水)やその先の12月10日(水)終了のFOMCでの追加利下げも期待されるため、逆に株価が上昇する可能性もあります。


 ただし、米国の雇用・景気指標が大きく落ち込み、物価だけが高止まりするようなら、物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーションに対する懸念が高まり、最高値圏の米国株が調整局面に入る恐れもあります。


 一方、日本では石破茂首相おろしの動きで自民党が総裁選挙の前倒しについて協議するなど、相変わらず政治が停滞しています。


 先週8月29日(金)発表の東京都区部の変動の激しい生鮮食品を除くコア消費者物価指数(CPI)は、政府が7月から電気・ガス料金の補助金を再開したこともあって、前年同月比2.5%の伸びと3カ月連続で伸び率が減少しました。


 物価高の鈍化自体は、9月19日(金)終了の日本銀行の金融政策決定会合での利上げ見送りにつながるため、日本株にとって朗報でしょう。


 円相場もそれを好感して、先週29日(金)のドル/円終値は147円ちょうどと、7月中旬以降、146~148円台で安定して推移。株価にとって心地いい円安が続いています。


 しかし、長期金利の指標となる10年国債の利回りは8月27日(水)には一時17年ぶりの高水準となる1.63%台まで上昇。


 金利上昇負担の大きい不動産、建設、電力・ガスといった内需セクターの株価の下落要因になりかねず、旺盛な外国人投資家の買い需要で史上最高値圏にある日本株に暗雲が立ち込める可能性がないとはいえません。


 波乱の9月相場には注意が必要です。


(トウシル編集チーム)

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