2月17日、中国では春節(旧正月)を迎えました。中国の人々はこの春節の休暇中に何をするのでしょうか。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国人は春節の期間中、何をするのか? 」
中国が春節(旧正月)に突入
14億を超える中国人民が「正月休み」に入っています。中国では伝統的な農暦が採用されており、春節(旧正月)と呼びます。2026年の春節は2月17日(火)で2月16日は日本の大みそかに相当する「除夕」です。公定の春節休暇は2月15日(日)~23日(月)の計9日間です。
中国では「春運」という、春節を迎えるにあたり、春節期間をまたいで人の移動、交通量が多くなる期間があります。今年の「春運」は2月2日~3月13日(40日間)で、この期間の中国の旅客総数は過去最多のべ95億人になると中国政府は予測しています。
歴史上のゲルマン民族の大移動になぞらえるわけではないですが「中華民族大移動」とも言える現象が旧暦の正月に中国の大地で発生します。
本稿では、私自身の実体験と中国での観察に基づいて、「中国人は春節の期間に何をするのか」というテーマを改めて考えてみたいと思います。
「中国経済がどうなるのか」「中国ではお金がどのように回っているのか」といった疑問を解く鍵になるかもしれません。
中国人民は春節期間、何をするのか―帰省、家族、報告
中国人民の春節の期間の行動について、五つの視点から考えてみたいと思います。
(1)移動する
私の見聞きする限り、若者を含む現役世代が自分の生まれ故郷にとどまっていることは、農村部などを除いてはほとんどありません。大半の人民は、故郷・実家とは異なる地域に住み、働いています。
地理的に近いケースでは、例えば、地元が江蘇省南京市や浙江省杭州市で、普段は上海市で生活しているといった具合で、遠ければ、日頃は北京市で生活していて、春節になると地元の四川省に凱旋(がいせん)するといった具合です。
春節期間中の移動手段も、高速鉄道、飛行機、長距離バス、自家用車とさまざまです。私も経験したことありますがこの時期にとにかく頭を悩ませるのが切符(チケット)の購入です。
移動する人数がけた外れに多いため、以前に比べて帰省の手段は増えたとはいえ、鉄道の切符や飛行機の搭乗券を着実に確保すること、すなわち「帰省を物理的に可能にすること」が、中国人民にとっての正月の「勝負」の始まりといっても過言ではありません。
(2)家族で集まる
中国人民は、世代に関係なく、家族をとても大切にする印象があります。正月期間に祖父や祖母は家族全員で集まりたいと願う中で、子供や孫が言うことを聞かず実家に帰ってこないという状況はあまり見られません。
都市部において夫婦共働きは一般的で、夫婦が父母を地元から呼び寄せ、住み込みで家事育児を全面的に任せるケースは珍しくありません。従って、中国においては「おじいちゃんっ子」、「おばあちゃんっ子」が多いのです。
だからこそ、高校生や大学生になり、親元を離れ全寮制の下で勉強している子供たちは、正月になると、深い絆でつながっている祖父母に会いたいと願い両親の実家・故郷に帰省するわけです。この中国独自の家族構成や育児形態が、「正月というのは家族団らんの時間」という風習を確固たるものにしていると感じています。
(3)近況を報告し合う
正月帰省において、多くの中国人民は大みそか、もしくはその前の日に実家に到着します。そして、大みそかの夜は、日本人がNHK紅白歌合戦を見るかの如く、「春節連歓晩会」(略称「春晩」)という国営テレビ・中国中央電視台(CCTV)が制作・放送する、年越しカウントダウンバラエティー番組を家族で観ます。
日本の元日に相当する春節当日は、地域にもよりますが、家族みんなで餃子を作って、前菜や炒め料理なども口にしつつ、主食として水餃子をたくさん食べます。昼間から「白酒」(コーリャンなどの穀物を原料とする中国の伝統的な蒸留酒。度数は38~60度と高め)を大量に飲むといった具合です。
そんな家族団らんの時間に、人々は近況を伝え合います。子供であれば、「学校の試験の成績がどう?」「受験勉強の現状はどう?」だったり、「第一志望の大学や学科はどこ?」といった質問が飛び交います。働き世代は、仕事の現状、昇格、昇給などを報告します。そして、祖父母の健康状態を子供や孫たちが気にかけます。
特筆すべきは、「帰省したくない」と思う人々も一定数いる点です。
中国では上の世代であればあるほど、結婚して、家庭を持って、子供をもうけて、初めて「一人前」であり、それが最低限の「親孝行」と考えるケースが多く、若者世代にとって強いプレッシャーになっています。
お金とメンツ
(4)お金を使うさて、ここから面白くなっていきますが次のキーワードは「お金」です。
世界共通でしょうが、日本のゴールデンウイークや米国のサンクスギビングを含め、祝日や長期休暇には相当程度のお金が動きます。中国政府が発表した統計によると、大みそか(2月16日)当日、中国の銀行間決済ネットワーク「銀聯(ユニオンペイ)」とオンラインの決済ネットワークを担う「網聯」上で取引された支払件数は49.3億件(前年比22%増)です。
参考までに、昨年の春節期間中(1月28日~2月4日)、同ネットワーク上で取引された支払額は9兆7,800億元(約204兆3,590億円)とのこと。
私の実体験に基づけば、中国の人々は、春節期間中にこそお金を使う傾向があります。大きな買い物で言えば、住宅や自動車が挙げられます。当然、関連企業や代理店はキャンペーンを展開します。また、1年に1度、家族全員が集まり、親戚たちとも合流する春節が、家具や家電製品の買い替えのタイミングに選ばれることも多いです。
そして、家族や親せき、幼なじみや小中学校の同級生が一斉に集まるとなれば、大人数で外食をする機会も多くなります。
(5)メンツを示し、保つ
中国では、都市部、農村部、沿岸部、内陸部を問わず、住宅と自家用車を有していない男性は女性から結婚相手として選ばれにくい風潮があります。
男性側の両親は、「これから女性が嫁いでくるというのに、家と車を持っていないのはけしからん」、女性側の両親は「相手が家も車もない状況で、まな娘を嫁がせるわけにはいかない」というような心理が相互に作用しているのです。
こういった心理を理解する上で、キーワードとなるのが一種の文化であり、処世術でもある「メンツ(面子)」です。
中国の人々は、家族や親戚、幼なじみたちが1年に1度集まる場においては、自分がどれだけ成長したか、どれだけの金銭や地位を有するに至ったかを見せびらかしたいという衝動に駆られる傾向があり、春節では「見せびらかし合戦」のような雰囲気がまん延しています。過去の1年で蓄積した資産をその場で見せつけるべく、普段は節約する人々も少なくありません。
春節は報告の場であり、人生における大事な報告と言えば、「家を買った」「結婚することにした」といったものでしょうから、メンツとカネは必然的にリンクします。親しい人々に対してだからこそ、自分を見せびらかし、メンツを確保したい。「メンツへの投資」は惜しまないという考え方や背景がここにあるのです。
最後に、コロナ禍を挟んで若干、関心は下がったように見受けられますが、中国人の海外旅行欲には引き続き注目です。お金を持つようになり、余暇や経験にお金を使うようになったことに加え、国内旅行では飽き足りなくなった中国人民の海外旅行は、世界のインバウンド産業へインパクトをもたらすでしょう。
私の実体験からすれば、人々がどの国に行って、何をするか、という点も、「メンツ文化」と深く関わっています。
「中国人民と春節」を掘り下げることは、中国経済の行方、中国企業の動向、中国消費者の行動、中国投資家の意向などを巡る論理や動機を理解することにつながるでしょう。
(加藤 嘉一)

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