日銀は予想通り4月利上げを見送りましたが、6月利上げに向けた布石をしっかり打っています。サプライズとなった「3票の反対票」、「展望レポート」の強い物価見通しとタカ派的な書き振り、植田総裁の記者会見での発言が、6月利上げの可能性が高いことを示唆しています。
日銀は予想通り4月利上げを見送り~背景は中東情勢悪化を巡る不確実性~
4月27~28日に開催された金融政策決定会合(MPM)で、予想通り日銀は利上げを見送りました。植田和男総裁は記者会見で、(1)中東情勢を巡る不確実性の高まり、(2)それに伴って自分たちの経済物価見通しが実現する確度が低下したこと、(3)経済は下振れリスク、物価は上振れリスクが高まり、今はその評価が難しいこと、を強調しました(図表1)。
<図表1 なぜ4月利上げを見送ったのか~記者会見での植田総裁の発言~>
このように、4月利上げが見送られたことは、中東情勢がわが国サプライチェーンに及ぼす影響を重視してきた筆者にとっては予想通りの結果でしたが、では日銀はいつ利上げを行うつもりなのでしょうか。結論から言いますと、6月15、16日に開催される次のMPMの可能性が高いと見ています。
というのも、日銀はそのための布石を、(1)今回の「3票の反対票」、(2)「展望レポート」(「経済・物価情勢の展望(2026年4月)」)の書き振り、そして(3)植田総裁の記者会見で、しっかり打っています。以下では、どこからそれが読めるのか、具体的に見ていくことにしましょう。
今回のMPMで利上げ提案が3票~利上げに向けた雰囲気づくりと円安抑止~
まず、今回のMPMで最大のサプライズだった3票の反対票です。正確には、3票の利上げ提案と言うべきですが、高田創審議委員、田村直樹審議委員、中川順子審議委員の3名が0.25%利上げの議案を提出し、反対多数で否決されました。
すでに「物価安定の目標」は達成されていると主張し、前回3月のMPMで利上げ提案を行った高田委員は、その見方が変わらない限り今回も利上げ提案をするだろうということは、容易に想像できました。また、「この春にも、物価安定の目標が実現されたと判断できる」と表明していた田村委員についても、今回の利上げ提案は十分予想ができたことです。
しかしながら、執行部寄りと見られていた中川委員の利上げ提案に関しては、市場は(もちろん筆者も)意外感をもって受け止めました。中川委員は6月29日の退任が決まっており、後任にはリフレ派と見られる佐藤綾野青山学院大学法学部教授が就く予定です。中川委員にとっては6月が最後のMPMとなります。
仮に、日銀執行部が「6月を過ぎると利上げの票が読み難くなる」と見ているとすれば、6月MPMで利上げをしておきたいと考えていても不思議ではありません。
今回の中川委員の利上げ提案は、6月利上げに向けて戦略的によく練られた1票だと、筆者は見ています。
4月「展望レポート」のタカ派寄りの物価見通しと書き振り
また、今回の「展望レポート」の見通しと書き振りも、6月利上げの可能性が高いと思わせるのに十分なものとなっています。
まず目を引いたのが物価見通しの強さです(図表2)。消費者物価(生鮮食品を除く)の26年度が前年比2.8%となっていますが、日本経済研究センターが集計するESPフォーキャスト(市場エコノミスト38人の予測、2026年4月調査)が2.1%であることを踏まえると、相当強いことが分かります。
展望レポートには、原油価格(ドバイ原油)が1バレル105ドル程度を出発点に、見通し期間の終盤にかけて70ドル台程度まで下落することを想定したとの説明がありますので、原油相場高騰を前提とするエネルギー価格の大幅な上昇が織り込まれていると見られます。
<図表2 「展望レポート」(「経済・物価情勢の展望(2026年4月)」)の見通し>
とはいえ、生鮮食品及びエネルギー除くベースも2.6%と、かなり高い伸びに上方修正されていますので、原油相場高騰の影響がエネルギー以外の品目にも幅広く波及することが想定されているのだろうと推察されます。
一方で、実質GDPの見通しは0.5%まで大きく下振れているわけですから、この見通しの裏には交易条件の大幅悪化が隠れているのではないかと読むことが可能です。そうであれば、理屈上、GDPデフレーターの伸びがかなり弱くなることが想定されているはずです。
いずれにせよ、今回の展望レポートの見通しを、全体のバランスを踏まえて評価すると、ビハインドザカーブ(利上げが後手に回ること)に陥る一歩手前の日本経済の姿を表現しているように筆者には見え、利上げの必要性を見通しの数字を通じて訴えかけているように感じます。
4月「展望レポート」の物価上振れリスクを強調した書き振り
さらに、展望レポートの書き振りにも、そうした意図が明確に見て取れます。植田総裁が記者会見で「中東情勢を巡るリスクシナリオが顕在化した場合の経済・物価への影響について詳しく説明した」とわざわざ強調した今回の「展望レポート」には、図表3のような記述があります。
<図表3 「展望レポート」(「経済・物価情勢の展望(2026年4月)」)の記述>
この記述を筆者なりの表現で分かりやすくまとめると、当面は中東情勢の展開を見極めることが重要だが、その先を考えた場合、経済の下振れリスクより物価の上振れリスクの方が、ビハインドザカーブに陥るリスクを高めるため心配だ、ということになります。
これを素直に受け取るなら、サプライチェーンに及ぼす影響、より具体的には、原油やナフサなどの調達が途絶するリスクが解消に向かえば、いち早く利上げに踏み切る可能性が高いと解釈することが可能です。
逆に言うと、6月中下旬になっても原油等の調達不安が現在のように高ければ、それこそ大変な事態であり、そうした最悪のケースを想定しない限り6月利上げの公算が大きいよ、ということなのでしょう。
総裁記者会見でも、物価の上振れリスクを懸念していると念押し
以上の点を、植田総裁は記者会見でも丁寧に説明しています(図表4)。
<図表4 景気下振れリスクか、物価上振れリスクか~記者会見での植田総裁の発言~>
繰り返しませんが、図表4から明らかなように、物価上昇率が予想以上に上振れ、ビハインドザカーブに陥るリスクをより意識しているというトーンを鮮明に打ち出し、6月利上げの可能性が高いことを示唆したと捉えることができます。
本当に物価は日銀の想定しているほど上振れるのか~消費者物価の足もとの動き~
参考までに、今月24日に3月の全国消費者物価指数が発表されましたので、ビハインドザカーブに陥るリスクが高まっていないか、すなわち広範なインフレ(Broad-based inflation)が伺われていないか、確認しておきましょう。
図表5は、全国消費者物価指数の10大費目(ただし、「光熱・水道」を「エネルギー」に差し替え)の前月比を見たものです。エネルギーは3.9%の比較的高い伸びとなっていますが、それ以外の費目にまで広範に波及しているかというと、まだ一部にとどまっているように見えます。
<図表5 3月の全国消費者物価(前月比)>
もちろん、今後、エネルギー以外の幅広い品目に価格上昇が波及していく可能性は十分ありますが、逆にそうなったとき、果たして物価上昇率が図表2に紹介した見通しで収まるのかどうか。
図表6は消費者物価指数(生鮮食品及びエネルギー除く)と輸入物価指数の推移です。グラフには、消費者物価に合わせるかたちで、前年比が2%で推移するラインを点線で示しています。
<図表6 消費者物価(生鮮食品及びエネルギー除く)と輸入物価>
これを見ると、昨年まで2%より明らかに速いペースで上昇していた消費者物価が、足もとペースダウンしている姿が浮き彫りとなります。
これが、輸入物価上昇の影響を広範な品目が受けるかたちで再び2%より速いペースになることを日銀は想定しているわけですから、植田総裁がよく言う「見通しが実現する確度」が高まると、実はビハインドザカーブに陥るリスクが高まることを意味しているかもしれません。
(愛宕 伸康)

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