中国の最新の主要経済統計が発表されました。生産、消費、投資を含め伸び率は軒並み鈍化。
国家統計局が4月の主要経済統計結果を発表
中国国家統計局が5月18日に1-4月期と4月分の主要経済統計を発表しました。以下、1-3月期と3月分で比較しつつ、整理してみます。
工業生産、小売売上、固定資産投資、不動産開発投資を含め、主要指標の伸び率が4月と1-4月期は軒並み鈍化しているのが見て取れるでしょう。市場予想も下回りました。固定資産投資は再びマイナスに転じています。
従来からの構造的問題である「需要不足×供給過剰」に加えて、イラン情勢に伴うエネルギー価格の高騰や先行きへの不透明感などが景気の鈍化に影響したと思われます。
失業率は何とか持ちこたえていますが、これから1,000万人以上の大学卒業生が労働市場に放出されます。夏に向けて、不確定要素は増大すると見るべきです。さらに、近年中国経済を悩ませ、本連載の出張報告でも現地での感触を共有してきたデフレスパイラルに関してですが、4月は消費者物価指数(CPI)が1.2%、PPIが2.8%上昇しています。
ただ、これは景気が上向いていく中での「インフレ」というよりは、イラン情勢などに端を発したエネルギー価格の高騰などを受ける形で、物価だけが上がっている様相を呈しているように見受けられます。景気が停滞する中で、物価だけが上がり続けるスタグフレーションに中国経済が陥れば、国民生活や企業経営はさらに困難になる可能性があります。
中国政府の「景気鈍化」に対する現状認識は?
最新の景気動向の発表に合わせて、国家統計局報道官は同日、記者会見を行いました。中国政府としての現状認識を理解する上で私が重要だと受け止めたコメントは以下です。
「国際エネルギー市場の変動に対し、わが国はエネルギー供給の確保に積極的に取り組み、価格の臨時調整を実施し、民生への投資を拡大することで、国内の生産と生活の安定を保障し、積極的な成果を上げた」
「こうした状況は、わが国経済が外部からのリスクや衝撃に対処する強い能力を有しており、引き続き『斬新性』と『最適化』に向けた発展の勢いを維持し、質の高い発展において新たな成果を上げていることを十分に示している」
「一方、国際環境には不安定・不確実な要素が多く、地政学的紛争の影響が拡大し続けており、国内では供給過剰と需要低迷の矛盾が依然として顕著である。一部の企業は経営難に直面していること、また経済が安定の中で好転し続けるための基盤をさらに強固にする必要があることも認識しなければならない」
まず、「国際エネルギー市場の変動」という文言が出てきていることから、中国経済がイラン戦争を含めた地政学情勢に一定程度翻弄(ほんろう)されている現状が見て取れます。
一方、自国の国民や企業、および国際社会、海外投資家などに対して「中国政府はやることをやっている。イラン情勢のショックは限定的でありコントロール可能だ」というスタンスを、宣伝を交えて打ち出しています。苦しまぎれの弁明とも見て取れますが、裏を返せば、それだけ危機感を募らせているということです。
その危機感というのは、中国経済を巡る景気動向と政策運営が、イラン情勢を含めた外部の地政学的影響、および国内における構造的問題という「ダブルショック」に見舞われ、不確定・不安定要素が増大している現状に基づいていると推察されます。
「トランプ訪中」の中国経済への影響は?三つの視点
私は2000年代初頭に中国で国際関係を学びました。2008年に初めて北京で夏季五輪を開催することが決まり、国を挙げて経済成長にまい進していた光景を目のあたりにしました。
そんな中、教室内で国際関係を専門にする先生方が強調していた点は今でも鮮明に記憶として残っています。
「中国にとって、改革開放とは実質的に、対米開放のことを指している」
建国の父・毛沢東氏によって発動された「文化大革命」(1966~1976)が終わり、中国共産党として国家建設の重点を「階級闘争」から「経済成長」へとシフトさせたのが1970年代後半から1980年代前半。
その過程でトウ小平氏が打ち出したのが「改革開放」であり、それは社会主義を堅持しつつも市場経済を導入し、国民国家を豊かにしていこうという大きな方向転換でした。
そして、その市場経済に基づき、市場を改革し、開放していく中で、最も重要なのが、米国に対して開放していくというものです。そのインプリケーション(示唆)は現在に至っても根本的には変わっておらず、中国経済を安定的に回していくためには、米国との関係が極めて重要だというのが中国共産党指導部の基本的スタンスだと考えられます。
その意味で、景気が鈍化する中で実施されたトランプ米大統領の訪中が、中国経済にどのような影響を与えていくのか、というのは「中国経済と米中関係」を巡る歴史的経緯や共産党指導部の基本的スタンスという角度から見ても、重要な論点になると私は考えます。
ここでは三つの論点から考えてみたいと思います。
一つ目が、輸出入です。主要経済統計が軒並み鈍化する中、それでも持ちこたえている一つが貿易で、4月は前年同月比14.2%増、うち輸出9.8%増、輸入20.6%増となっています。この中で米国との輸出入を見てみると、米国向け輸出は11.3%増と、前月の26.5%減から反転、輸入も9.0%増と、1.0%増から拡大しています。
トランプ大統領の訪中時に、中国は米国からの農産物購入を拡大させる旨を約束していますが、4月、中国が米国から輸入した大豆は333万トンで、前年同月の138万トンを大きく上回っています。トランプ訪中を受けて、対米貿易がどう推移し、それが中国経済にどう影響していくかに注目したいと思います。
二つ目が、米中ビジネスです。今回、トランプ大統領の訪中には、半導体、テック、航空機、自動車、金融など各分野を代表する企業が同行しました。アップル、エヌビディア、ボーイング、テスラ、シティグループなどです。
また、エヌビディアのAI半導体「H200」を一部中国企業に販売することを米国政府が承認する旨も打ち出しました。テスラやアップルは引き続き中国を重要拠点として据え置いていくでしょう。
トランプ訪中という2026年のビッグイベントを通じて、米中企業間のビジネスがどの程度活性化するのか、そしてそれらが低迷する中国の景気にとって一つの起爆剤になるのか。見ていく価値があると思います。
三つ目が、9月末で調整される習近平国家主席の訪米に向けて、米中関係がどう推移していくかです。トランプ氏は訪中期間中の夕食会にて、9月24日に習近平氏をホワイトハウスに招き入れることを高らかに宣言しました。中国側も基本的には受け入れるスタンスだと理解しています。
一方、今回の米中首脳会談でも、中国側が最大の関心・懸念事項として米国側にくぎを刺した台湾問題が引き金となり、米中関係が二転三転する可能性は現時点で否定できません。例えば、米国の台湾への武器売却問題、およびトランプ氏が仄めかしている台湾の頼清徳(ライチントー)総統との電話会談です。
特に後者に関しては、仮にそれが現実になれば、中国側の反発は必至であり、状況次第では、トランプ訪中の成果が水の泡と化すリスクも否定できません。中国経済を巡る外部状況はますます不透明になりますから、警戒すべきだと思います。
(加藤 嘉一)

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