今週は主要株価指数が最高値を更新する強気のスタートを切りました。背景にAI投資需要がありますが、ハイパースケーラーの投資負担増による財務リスク、メジャーSQ、金融政策イベントなど、目先の警戒要因も存在します。
6月相場は日米ともに強気のスタート
6月相場入りとなった今週の株式市場ですが、これまでのところ、株価水準をさらに引き上げる展開となっています。
<図1>国内外の主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年6月3日時点)
6月3日(水)の取引では、日経平均株価が6万8,000円台の半ばまで上昇したほか、東証株価指数(TOPIX)も同日の取引時間中に初の4,000p台に乗せる場面がありました。
最近までの株式市場は、「中東情勢への楽観的な見方」と、「旺盛な投資需要を背景としたAI相場の盛り返し」を主因に上昇してきました。
前者については、今週に入って再び緊張や警戒感が高まってきているものの、後者については、米国市場を中心に持続的な買い材料として相場をけん引し続けており、その米国株市場でも、2日(火)の取引で主要株価3指数(ダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数)がそろって最高値を連日で更新する動きを見せています。
さすがに、足元では売りに押される場面が出始めていますが、全体的に6月相場は日米ともに強気のスタートを切ったと言えそうです。
株式市場の熱狂はどこまで続く?需給イベントと金融政策イベントが焦点
確かに、最近までの株価の上昇ペースはかなりのハイペースであり、値動きだけを見ると、過熱感を帯びている印象は拭えません。
一部では警戒感もくすぶっていますが、それでもなお上昇の勢いが続いている理由として、先日までの決算シーズンを通じて、テクノロジー企業によるAI投資需要の大きさが改めて確認されたことや、「エージェントAI(自律的にタスクを処理するAI)」や「フィジカルAI(現実世界に組み込まれるAI)」などが新たなキーワードとして浮上し、今後もAI需要が継続していくのではという見方が強まっていることが挙げられます。
AIがもたらす技術革新や領域拡大が具体的に見込まれる状況になったことで、これまで以上に爆発的に増加するデータを処理するのに必要な投資や、インフラへのニーズは続くという、強気の見通しにつながっています。
また、AI相場をけん引する主役となる銘柄は、時間の経過とともに物色の裾野を広げています。当初は積極的にAI投資を行っている大手ハイテク企業(ハイパースケーラー)から始まり、次に半導体製造関連へとバトンタッチし、その後もデータセンター関連(電線やエネルギー、建設など)やメモリー・ストレージ(記憶媒体)関連、そして電子部品関連へと広がっています。
しかし、いずれの銘柄も株価が上昇し続けるには、「旺盛なAI投資が続く限り」という共通の前提条件がある点には注意が必要です。
そのため、AI投資に陰りが見えてくると、相場が大きく崩れかねない点には注意が必要です。
<図2>米ハイパースケーラー4社の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの推移
※アルファベット、マイクロソフト、アマゾン、メタの4社の合算データ
図2は、米ハイパースケーラー4社(アルファベット、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ)の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの推移を示したものですが、2024年あたりから投資キャッシュフローの支出額の増加傾向が目立っており、直近では営業キャッシュフローの金額規模に迫りつつあることが分かります。
これは「本業の稼ぎの大部分を投資につぎ込んでいる」状況と読み取れ、以前と比べて余裕がなくなってきている可能性があります。今すぐというわけではなさそうですが、「財務リスク」「収益性」「競争優位性」を軸に、再びAI相場が調整局面を迎える場面があるかもしれません。
もっとも、目先については、来週12日(金)に先物・オプションの取引価格を清算する重要な需給イベントである「特別清算指数(メジャーSQ)」が控えているほか、再来週には日米の金融政策イベント(日本銀行金融政策決定会合と米連邦公開市場委員会(FOMC))が予定されており、こうした重要イベントを通過した後も、株高基調を続けていけるかがこれからの6月相場における最大の焦点になりそうです。
米国株市場のIPOの流れと仕組み
このほか、メジャーSQ絡みの需給イベント以外では、米国株市場の新規公開株(IPO)が株式市場に大きな影響を与えるかもしれません。
6月4日(木)現在、米国では、スペースX(SpaceX)、オープンAI(OpenAI)、アンソロピック(Anthropic)の3社によるIPO案件が市場の関心を集めています。
<図3>今後予定されている注目の米IPO銘柄
図3を見ても分かるように、3銘柄はいずれも従来のIPOの規模を上回る大型IPOとなる見込みです。
例えば、スペースXの資金調達および売り出しの規模は、開示された登録届出書(Form S-1)によれば約750億ドルになるとされており、これまでの最高額だったサウジアラムコ(2019年上場)の約294億ドルの倍以上の規模となっています。OpenAIとアンソロピックも、時価総額1兆ドル超えが想定されており、かなりの規模の資金調達が見込まれています。
なお、米国株市場のIPOの流れは図4の通りとなっています。
<図4>米国株市場における一般的なIPOの流れ
ざっくりとしたIPOの流れは、日本株市場のIPOとあまり違いはありませんが、押さえておきたいポイントとしては、日本株の「目論見書」にあたる「Form S-1」が公開されるタイミング(ロードショー開始15日前)でIPOの詳細が判明すること、公募価格が決定するのが上場日前日の夜というギリギリのタイミングであること、上場日初日の取引では株式市場の取引開始後ではなく、数時間後に初値が決定することなど、米国市場ならではのポイントは押さえておきたいところです。
大型IPOが与える株式市場への影響と注意点
これまで見てきたように、米国株市場ではこれだけの大型IPOが相次ぐだけに、株式市場に与える影響も大きくなると思われますが、以下がそのポイント・注意点として挙げられます。
【市場の資金吸い上げ効果(流動性の引き締め)】
投資家はIPO銘柄を購入するために、保有している資産(株式だけにとどまらず仮想通貨なども)を売却してキャッシュを確保する動きが想定されます。大型IPOの場合はその影響が大きく、一時的に市場の需給が悪化して相場全体が下落する可能性があります。
【株価指数への組み入れによるインパクト】
上場後に一定期間が経過し、条件を満たせば、S&P500やナスダック100といった主要株価指数に組み入れられる可能性があります。組み入れが決定した場合、インデックスファンドは指数の構成銘柄のウエート配分に応じてIPO銘柄を購入し、既存銘柄を売る動き(機械的なリバランス)が発生します。
ここで注目されるのが、ナスダック100指数が今年に入って導入した「ファスト・エントリー(迅速参入)」という新ルールです。
通常ルールでは、上場後3カ月間を経て採用候補入りとなるのですが、新ルールでは、「時価総額が構成銘柄の上位40位以内」という大型IPOの場合は上場後、最短15営業日で組み入れ(上場から10営業日程度で組み入れが通知される)ことが可能となりました。
上場直後のお祭り騒ぎで株価が最も過熱しているかもしれないタイミングで、インデックスのリバランス買いが機械的な買いを強制されるため、需給のひずみがこれまで以上に増幅される展開には注意する必要がありそうです。
なお、S&P500への組み入れについては、「上場後少なくとも1年」の待機期間に加え、「直近4四半期連続で黒字であること」という厳しい収益性基準があります。
【初値の「飛び乗り」リスク(ジャンピング・キャッチ)】
注目度の高いIPO銘柄は、公募価格に対して初値が大きく跳ね上がって始まる傾向がありますが、規模が大きいだけに成長力を確保できないと、企業価値に対して単純に「割高か割安か」で動く展開になるため、上場後まもなく株価が調整する可能性があります。
【ロックアップ解除(180日ルール)に伴う下落圧力】
上場前からの大株主やベンチャーキャピタル、従業員らは、上場後すぐに株を売ることができず、通常180日間の「ロックアップ期間」が設定されます。この制限が解除されるタイミングには、それまで凍結されていた売り注文が市場に降ってくるため、株価が構造的に軟調になりやすいという傾向があります。
このように、2026年の米国企業の大型IPOラッシュは、市場全体の流動性を大きく揺さぶる「一大需給イベント」として、事前にその影響を想定し、準備しておく必要がありそうです。
(土信田 雅之)

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