「○○本線」といえば、鉄道会社の主要路線というイメージがあるかもしれません。JRの「本線」の多くは大都市間を結び、特急や貨物列車も走りますが、その条件を持つ「常磐線」は名称に「本線」が付きません。

「本線」と呼ばれるには根拠があるのです。

幹線だけど本線ではない「常磐線」

 鉄道路線の多くは「本線」と「支線」に分類できます。木になぞらえて「幹線」「枝線」ともいいます。市販の時刻表の巻頭地図を見ると「東海道本線」「山陽本線」「鹿児島本線」「東北本線」「函館本線」などがあります。本線の駅から分岐する短い路線が「支線」です。東海道本線の場合は「横須賀線」「伊東線」などが支線です。

なぜ「常磐本線」ではないのか 延長約350km 「本線の風格...の画像はこちら >>

常磐線の特急「ひたち」などに使われるE657系電車(画像:写真AC)。

 JRの「本線」は国にとって拠点となる都市を結ぶ主要路線という位置づけのようです。ほとんどの「本線」は複線・電化され、特急列車や長大な貨物列車も走ります。主要駅は規模も大きく駅舎も立派。この雰囲気を鉄道ファンは「本線の風格がある」と表現します。

 一方、実態としては長大なローカル線でありながら「本線」を名乗る路線もあります。

北海道の日高本線は苫小牧駅と様似駅を結ぶ146.5kmの「本線」でした。しかし2015(平成27)年に高波による路盤流出で鵡川~様似間が不通となり、2021年4月1日に廃止されました。残存区間は始発駅を入れて5駅。30.5kmまで縮まりましたが、JR北海道の路線図では「日高本線」のままです。

 ところで、JR東日本の常磐線は「本線の風格がある」にもかかわらず「本線」は付きません。常磐線は2020年に東日本大震災の不通区間が解消され、全線開通したばかり。特急「ひたち」が品川・上野~いわき・仙台間を、特急「ときわ」が品川・上野~土浦・勝田・高萩間を走ります。貨物列車も隅田川(貨)~土浦間などで運行しています。東日本大震災以前は首都圏と北海道を常磐線経由で結ぶコンテナ列車もありました。

 このように常磐線は堂々たる幹線であり、成田線、水戸線、水郡線などの「枝線」とも繋がっています。しかし「常磐本線」とはいいません。なぜでしょうか。

路線名の根拠は明治時代にさかのぼる

 実は、JR路線の「本線」は国鉄時代の呼称を引き継いでいます。国鉄の路線名は1909(明治42)年、鉄道院によって告示された「国有鉄道線路名称」に基づいています。ここで国有鉄道路線の正式な分類が行われました。

「国有鉄道線路名称」は全国の鉄道路線を23に区分し、主要路線を本線、中小規模の路線を支線としてまとめています。首都圏では「東海道線の部」「中央線の部」「東北線の部」「信越線の部」「総武線の部」の項目があります。これをベースに、新規開通路線もそれぞれの部に分類されていったのです。

 例えば現在の「東海道線の部」は東海道本線を主路線とし、山手線、南武線、鶴見線、横浜線、飯田線、湖西線、おおさか東線、大阪環状線などが含まれます。「中央線の部」は中央本線を主路線とし、青梅線、五日市線、八高線、小海線、篠ノ井線など、「東北線の部」は東北本線を主路線とし、常磐線、高崎線、上越線、仙山線、仙石線、北上線、田沢湖線、大湊線などが含まれます。

なぜ「常磐本線」ではないのか 延長約350km 「本線の風格」あってもそう呼ばれない理由

常磐線の首都圏エリアや成田線で使われるE231系電車(画像:写真AC)。

 つまり常磐線は、「東北本線の支線」という扱いでした。起点は日暮里、終点は岩沼と、どちらも東北本線との分岐駅にあります。「東北本線に付属する長大な支線」ともいえそうです。

「国有鉄道線路名称」は路線の廃止や統合によっても何度か改正されました。しかし常磐線の扱いはそのまま。これをJR東日本が引き継いでいるため「常磐本線」にならない。これが「常磐線」の理由です。

 上越線や高崎線はどうでしょう。「国有鉄道線路名称」によると、例えばどちらも高崎駅を起点とするのに、「信越本線」に対して「上越線」です。しかも上越線は信越本線の支線ではなく、東北本線の支線に分類されています。高崎線も東北本線の支線です。この理由は、旧日本鉄道が建設した路線をすべて「東北線の部」に統合したからではないかといわれています(上越線で旧日本鉄道が建設した区間は、高崎~新前橋間のみ)。

もう「本線」は使わない?

 特急も貨物列車も走り、普通列車にグリーン車もある。そんな常磐線を常磐本線と呼んであげたい。「国有鉄道線路名称」を「JR線路名称」に改正し、常磐線を本線に格上げしても良さそうです。

しかし、実は「本線」という呼び方そのものが失われつつあります。

 JR四国は国鉄の分割民営化で発足したときに「本線」の呼称を止めました。予讃本線は「予讃線」に、土讃本線は「土讃線」に、高徳本線は「高徳線」に、徳島本線は「徳島線」になっています。その他のJR旅客会社も路線図では「○○本線」と表記していますが、旅客案内表示などでは「本線」と呼ばない事例が増えています。

なぜ「常磐本線」ではないのか 延長約350km 「本線の風格」あってもそう呼ばれない理由

東北本線の黒磯駅以南で使われるE231系電車。旅客案内には愛称の「宇都宮線」が用いられる(恵 知仁撮影)。

 JR北海道は日高本線の廃止について「日高線」と報道資料に記述しています。斜面崩壊で不通となっていた函館本線についての報道資料も「函館線」でした。報道各社もこれに合わせて「日高線」「函館線」と表記しています。

 JR東日本などでは、すでに正式名称ではなく路線愛称で案内を行っています。東北本線の東京寄りの区間を「宇都宮線」と呼び、東海道貨物支線は「相鉄線直通」や「湘南新宿ライン」の列車が走ります。横須賀線も正式な区間は大船~久里浜間ですが、東京駅から「横須賀線」と案内されています。

JR西日本も「JR京都線」「JR神戸線」などの路線愛称を使っています。

 なお現在、正式な路線名称を記載した国土交通省鉄道局監修の公的資料『鉄道要覧』では、JR路線のすべてに「本線」は付きません。「○○本線」そのものが、路線愛称ともいえそうです。

 あれ、それなら常磐線にも「常磐本線」という愛称を付けても良さそうですけど……ややこしいでしょうか。

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