京急が新造した1000形1890番台は4両編成の電車で、中間車はパンタグラフや制御装置を搭載しているにもかかわらず、付随車の「サハ」です。いったいどういう理由からなのでしょうか?
「サハ」の1両にはパンタグラフも搭載京急が新造した1000形1890番台は、座席指定列車やイベント列車に対応するためにクロスシートやロングシートにできる自動回転式シート、トイレを装備したのが特徴の4両編成の電車です。
先頭車は制御電動車「デハ」(国鉄などの場合はクモハ)ですが、中間車の2両は付随車、いわゆる「サハ」です。しかし中間車にはモーターを制御して速度を上げたり落としたりするためのVVVFインバータ制御装置を床下に搭載し、そのうちの1両は屋根上にシングルアームパンタグラフも搭載しています。制御装置は電動車に搭載される例がほとんどですが、なぜ「サハ」なのでしょうか?
自動回転式シート、トイレを装備した京急電鉄の1000形1890番台(2021年4月24日、伊藤真悟撮影)。
「自動回転式シート自体が重いこともあり、先頭の電動車に制御装置を搭載すると35tを超えてしまうため中間の付随車に制御装置を搭載しました」(京急電鉄)
京急の車両は、都営地下鉄浅草線と京成線への相互直通運転を開始するにあたり、東京都交通局、京成電鉄との3社で取り決めた「1号線直通車両規格」に則して造られています。その規格では、1両あたりの車両の重量は35tまでとなっているのです。
では中間車も電動車の「デハ」(国鉄などの場合はモハ)にすればいいかと思いますが、電力を得て車輪を回転させる動力を生み出す主電動機(モーター)や動力を車輪に伝える駆動装置を搭載すると、こちらもやはり35tを超えてしまうのだそうです。
そこで中間車は付随車のまま制御装置やパンタグラフを搭載。その結果、1000形1890番台の先頭車の重量は34.5t、パンタ付きの中間車が33.0t、パンタなしの中間車は30.5tと、それぞれ重量条件をクリアすることができたのです。
付随車の屋根上にパンタグラフを搭載する例は初代「のぞみ」の300系新幹線電車をはじめ、国鉄781系特急形電車やJR北海道785系特急形電車、JR西日本683系特急形電車、JR九州883系特急形電車などで見られます。しかし制御装置を付随車に搭載した例は珍しく、2016(平成28)年6月まで札幌市営地下鉄東豊線で使われた7000形電車ぐらいかもしれません。