東急電鉄が業界初となる「歩行補助ロボット」を用いた実証実験を、11月下旬から駅などで行います。段差や隙間の多い鉄道利用という場面においてロボットがどこまで実用的か、モニターの感想や得られたデータを元に検証します。

雑踏の長津田駅にて

 東急電鉄が鉄道業界では初となる、駅での「歩行補助ロボット」を用いた実証実験を、2022年11月21日(月)から開始します。それに先立ち田園都市線の長津田駅(横浜市緑区)および児童厚生施設「こどもの国」(同・青葉区)において、駅員によるデモが7日(月)に報道陣へ公開されました。

 ロボットはウェアラブルであり、装着した人の主に股関節を補助することで、平地の歩行から階段の昇降、起立、着座などを支援します。重さは約2.3kg。1人で装着・脱着が可能です。ちなみにロボットには「curara」(クララ)という名前が付いています。

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クララを装着し、改札口を通過(2022年11月7日、大藤碩哉撮影)。

 クララを装着するのは、長津田駅に勤務する冨川助役と中央林間駅に勤務する吉田係員。2人とも足を悪くしていることから、このたびモニターとして参加しました。

 まずは長津田駅の上り階段。駅入口から改札口へ、冨川助役はスッスッと上っていきます。脳梗塞を患った経験から、足が上げづらいとのことでしたが、健常者と同じように歩行していました。

多くの人が行き交うコンコースでも、ほかの人を妨げることはなく、「流れに乗る」形で改札も通過できました。これは列車への乗り降りでも同様でした。

 場所を移して「こどもの国」では吉田係員がデモを行いました。こどもの国駅から施設までは歩道橋を渡らなければなりません。脳性小児まひを患い、両足が不自由な吉田係員は普段から杖を使っています。ここではスロープを歩くことにしました。

 クララを装着し、1歩ずつ進みます。吉田係員は「ふだん坂道は手すりを握りながらゆっくり上がることしかできませんが、今は杖だけで歩けます」と話しました。感じ方の問題であると前置きしつつも、「2kgのロボットと聞くと重そうですが、身に付けたら意外と軽いです。モーター音がし、サポートされていることが伝わってきます」ということです。

なぜ歩行補助ロボ? そこにある危機感

 東急電鉄が今回、この歩行補助ロボットの活用を思い立ったのは、高齢者など歩行に負担がある乗客が増加する一方、それを補助する鉄道事業者側の人材の不足が進む、という予測からでした。

「クララが立った」を駅で体験? 歩行補助ロボでバリアフリーなるか 背景にある危機感
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専用のアプリをインストールすることで、クララの動作をスマートフォンで操作できる(2022年11月7日、大藤碩哉撮影)。

 鉄道駅にはその構造上、階段や段差のほか、列車とプラットホームのあいだには隙間など、様々なバリアが存在します。鉄道各社は設備面のバリアフリー化を進めているものの、介助が必要な場面が多々あるのも事実です。

 そこで同社は、歩行補助ロボットの研究・開発を行う信州大学内のベンチャー企業「Assist Motion」と協同し、駅での活用ができないか模索を始めました。Assist Motion側も、公共交通機関での活用における知見を収集したいといい、両社の思惑が一致したのです。

「テクノロジーを活用したバリアフリーをより一層推進していく必要性を認識しています。ユニバーサルなサービスの拡充を通じ、あらゆるお客様が容易に快適に利用できる鉄道サービスを目指します」(東急電鉄 広報)

 なお、実証実験ではモニターへアンケートを行うほか、クララ自身が蓄積した歩行データを解析し、駅や列車内といった環境下でどのようなデータが得られたかを検証します。またクララを駅に常備し、申し出があった際に貸し出すのかなど、運用方法についても検討するとしています。

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