JR東海が2023年4月8日より開始した、グリーン車の2席を1人で利用できるサービス「EXグリーンプラスワン」は、ある意味で通常のグリーン車より上位の設備といえます。ではJR東日本のグランクラスと、どちらが快適でしょうか。
JR東日本は2011(平成23)年より、グリーン車の上級クラスである「グランクラス」を導入し、東北・上越・北陸・北海道新幹線で運用しています。一方、東海道新幹線を運行するJR東海は、2003(平成15)年に100系新幹線グリーン個室が消滅して以降、通常のグリーン車のみの運行となっています。
ビジネス需要やVIP層の利用も多い東海道新幹線において、グリーン車より上位のクラスは需要が見込めると考えられますが、列車全体の乗車率が高いこともあり、定員が大幅に減る上級クラスは設置されてきませんでした。
北海道新幹線H5系のグランクラス(左)と東海道新幹線のN700Sのグリーン車(安藤昌季撮影)。
しかし、JR東海は2022年10月のプレスリリース「最新の技術を活用した経営体力の再強化」の中で、「グリーン車の上級クラスについて検討を開始する」と発表しました。コロナ禍での需要減少などが背景にあると考えられますが、どのような設備になるのか注目されます。
ところで2023年4月8日(土)から、JR東海は期間限定の新サービス「EXグリーンプラスワン」を開始。これはICカード限定なものの、グリーン車の横並びの2席を1人で専有できるというサービスです。ゴールデンウィークを除く6月30日(金)まで設定されますが、実質的に「グリーン車より上級の設備」との見方もあるようです。
設定されているのは「のぞみ」全列車で、例えば東京~新大阪間で利用すると2万3860円かかります。「のぞみ」グリーン車を正規料金で利用した場合は1万9590円なので、4270円高額ということになります。なお、1人の利用客が2席分のきっぷを買っても、ルール上 有効なのは1席だけなので比較する意味はありませんが、2人分の運賃・料金を支払うより1万5320円も安いことになります。
正規料金1人分の内訳は乗車券が8910円、特急料金が5280円、グリーン料金が5400円ですから、「EXグリーンプラスワン」では、グリーン料金のみ2席分よりやや安い9670円となっているわけです。
それぞれの座席・空間を比較!もし東北新幹線と同じ料金体系で、東海道新幹線にグランクラスがあったなら、600kmまでが9000円となり、「EXグリーンプラスワン」はグランクラスよりも670円高額です。つまり「新幹線で最高の座席」といえなくもありません。もっとも、グランクラスでJR東日本とJR西日本もしくは北海道をまたぐ場合は、より高額となりますが。ただしあえて比較するなら、「EXグリーンプラスワン」とグランクラスでは、どちらが快適なのでしょうか。

東北新幹線のE5系(安藤昌季撮影)。
「EXグリーンプラスワン」のメリットは「隣に人が座ってこないこと」です。グランクラスでも2人掛け座席の場合は、隣に他人が座る可能性があります。
グランクラスは座席間隔が1300mmと、グリーン車の1160mmよりも広いとはいえ、特に通路側座席の利用者がリクライニングした場合は、出入りに気を使います。また、グランクラスは一部列車でアテンダントによるサービスが受けられ、これは大きな魅力ですが、隣席の乗客が頻繁にサービスを利用した場合は、煩わしい思いをすることもあります(特に酒類を注文し続けて、泥酔する人が隣席だった場合など)。
グリーン車の2席利用「EXグリーンプラスワン」の場合は、こうした煩わしさは最小限です。コンセントやテーブルも2席分使えますし、隣席に荷物を置くこともできます。
また、設定が東海道新幹線内で完結する「のぞみ」限定なので、空いていることは少ないとはいえ、後席に誰も座っていない場合のみ窓側と通路側の両方の背もたれを倒せ、視界がかなり広くなります。総じて、横方向のゆとりは最高といえるでしょう。
リクライニング時に音が出る…?しかし進行方向の快適性では、シートピッチが広いグランクラスが大きく勝ります。東海道新幹線のグリーン車は総じて乗車率が高く、リクライニングを倒すことに気兼ねする利用客もいるかと思いますが、グランクラスはバックシェルが備わっているため、気を使う必要がありません。リクライニング角度も深く、車内で仮眠したい場合などには大きなアドバンテージとなるでしょう。

東海道新幹線N700Sのグリーン車のフットレスト(安藤昌季撮影)。
座席幅も、東海道新幹線のグリーン車が480mmのところ、グランクラスはE5/H5系が520mm、E7/W7系が525mmです。背もたれに枕が備わるほか、フットレストだけでなくレッグレストも付いています。
付帯サービスとしては、「EXグリーンプラスワン」では通常のグリーン車と同じく「おしぼり」「車内誌」が付きます。また「のぞみ」限定なので、車内販売(有料)もあります。
グランクラスでは、「座席のみサービス」の場合は車内誌とスリッパのみですが、アテンダントが乗務している「飲料・軽食あり」の場合は、料金は高くなりますが、軽食と飲料のサービスがあります。
両方を利用した筆者(安藤昌季:乗りものライター)の感想としては、「EXグリーンプラスワン」は十分に料金に見合うサービスですが、総合的にはグランクラスの方が魅力的と感じました。特に改良された座席を備える、北陸新幹線E7/W7系のグランクラスは、国内の鉄道座席でも最高レベルの快適性だと感じます。壁や天井もグリーン車より分厚いため、静粛性にも優れます。唯一の欠点は、電動式であるリクライニング機構の作動音が室内に響くことでしょうか。東海道新幹線のグリーン車はリクライニングした時でも動作音がなく、とても静かです。
振り返れば、かつての100系新幹線1人用グリーン個室の座席は、E7/W7系新幹線のグランクラスに匹敵する快適さだったと感じます。JR東海は、普通席の3人掛けを2人で使う「S WorkPシート」を導入するなど攻めの姿勢を見せています。「グリーン車以上の上級クラス」実現が、今から楽しみでなりません。