陸上自衛隊の戦車をよく見ると、主砲の左右に小さな穴が開いていることがあります。この穴は何のためなのでしょうか。

もうすぐ退役する74式戦車を例に、中に入っているものは何なのか、見てみました。

真正面に開く小穴 その目的は?

 まもなく退役を迎えると言われている陸上自衛隊の74式戦車。元気に動く姿を見るなら今のうちです。

 その74式戦車をよく見ると、砲身の左右に各1つ、計2つの穴があいているのに気が付きます。いったい、何のための穴なのでしょうか。

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74式戦車の砲塔を正面からとらえた写真。
主砲を挟んだ左右に両側に1つずつ小穴が開いている(武若雅哉撮影)。

 実は、この2つの穴は左右で役割が異なります。まず車体の右側、正面から向かって左側に開いている穴は、砲手が狙いをつけるためのものです。

 ここには「J1直接照準眼鏡」というものが内蔵されています。これは、砲手が目標を照準する際に補助として使用する単眼式の望遠鏡になります。暗視装置も搭載しているため、レバー操作で昼用と夜用に切り替えることができます。

昼用と夜用の固定レチクル(指標用の十字線)のほか、照準に必要なレチクルも表示されるため、慣れれば使いやすい照準装置のようです。

 とはいえ、これはあくまでも直接照準射撃をする際の補助装置です。普段の射撃では、より高精度なレーザー照準の「J2砲手用照準潜望鏡」が使用されます。

 では、車体の左側、正面から向かって右側に設けられている、もう1つの穴はなんでしょうか。

 こちらの穴の正体は機関銃の銃眼口です。この中には副武装である「74式車載7.62mm機関銃」の銃身部分が収められています。

74式戦車が退役しても現役のままの装備

 74式車載7.62mm機関銃は戦後初の国産機関銃である62式機関銃の派生形として1974(昭和49)年に制式化されています。名称の数字からわかるとおり、74式戦車とともに採用された陸上自衛隊の装備であるため、その前に制式化された61式戦車などには搭載されていません。

 車載式のため、個人携行式の62式機関銃と比べ2倍程度の重量があり、そのこともあって62式機関銃よりも安定して射撃することができます。発射速度は毎分700発から1000発で、前出のJ1直接照準眼鏡と連動させることができるため、それを使って照準することが可能です。主砲と並んで装備されていることなどから、部隊では「連装銃」と呼ばれていていますが、一般的には「同軸機銃」という呼び方もされています。

 74式車載7.62mm機関銃は74式戦車以外に、90式戦車、10式戦車、16式機動戦闘車、87式偵察警戒車などにも装備されているため、一般的に「戦車乗り」と形容される陸上自衛隊の機甲科隊員からすれば馴染み深い銃といえるでしょう。

戦車の主砲脇の「穴」何のため? もうすぐ見納め74式戦車にも 退役後も使われそうなその“中身”
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そろそろ退役を迎える74式戦車だが、車載機関銃(連装銃)だけは今後も使われ続けるだろう(武若雅哉撮影)。

 なお、必要に応じて車内から取り外して使用することも可能で、そのための三脚も各部隊に準備されています。また昨今では、不審船や海賊対処のため、海上自衛隊のSH-60J/K哨戒ヘリコプターにも搭載されるようになったことから、海上自衛隊でも射撃訓練などが行われています。

 しかし、その一方で、製造元の住友重機械工業は、銃身の耐久性や弾薬の発射速度の要求が満たせていない状態で長年納入していたことが判明し、防衛省から取引停止を喰らっています。その影響からか、2021年に同社はメンテナンス部門を除き、機関銃そのものの生産から撤退しています。

 とはいえ、前途した通り74式車載機関銃は大きな問題もなく部隊で使用されていることから、一定の信頼性は担保できているのではないでしょうか。

実際に、この機関銃を使用した射撃競技会も行われているため、一部で囁かれている「全く使い物にならない」という噂は間違いであるといえるでしょう。

 冒頭に記したように74式戦車は近々退役する予定ですが、同じ数字を持つ74式車載機関銃は、まだまだ使われ続ける模様です。