北陸新幹線の金沢~敦賀間が延伸開業すると高速バスはどうなるでしょうか。過去には新幹線の開業を契機に撤退した路線もあれば、逆に商機を得たケースもあります。

今回は北陸から東京、名古屋、大阪それぞれで“明暗”が別れそうです。

新幹線延伸で打撃を受ける高速バス「福井~東京線」

 2024年春、北陸新幹線の金沢~敦賀間が延伸開業します。福井県と東京の間の移動は便利になる一方、金沢、福井と名古屋や大阪との間では敦賀での乗り換えが新たに発生します。これらの変化は、並行する高速バス路線にどのような影響を与えるでしょうか。

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北陸新幹線の延伸で高速バスにも影響が予想される(画像:写真AC)。

 一般的に、新幹線開業が並行する高速バスに与える影響は明暗が分かれます。

まず「暗」の結果になるのは、ほとんどが長距離の夜行路線です。今回でいえば福井~東京線です。

 福井~東京は現在、鉄道だと米原(東海道新幹線)または金沢(北陸新幹線)で乗り換えが必要です。また、福井始発の特急列車に乗っても東京着は9時台半ば。福井への最終列車が東京を出るのは20時台半ばです。福井在住の人にとって、商談やコンサートなど、東京で朝早くから、または夜遅くまで予定がある際、夜行移動は便利です。

 延伸後の新幹線ダイヤは未公表ですが、たとえ1時間でも東京での滞在可能時間帯が拡大すれば、夜行の優位性は低下します。東北新幹線の新青森延伸、北陸新幹線の金沢延伸の際は東京発着の夜行高速バスで、また九州新幹線の全線開業時には京阪神発着の路線で、乗客が新幹線に逸走しました。現在、金沢経由などを含み5陣営、6往復設定されている(一部はコロナ禍などで運休中)福井~首都圏の夜行路線は打撃を受けることが予測されます。

 ただし、長距離の夜行路線は便数が少ないので影響は限定的です。より重要なのは「高速バス市場の本丸」である短・中距離路線への影響です。具体的には、金沢、福井と名古屋や大阪を結ぶ路線です。

また、北陸地方はもともと東京より名古屋、京阪神とのつながりが大きいという背景もあります。

 このタイプの路線は、新幹線開業が「明」の結果につながることが多いです。例えば2011年に九州新幹線が全通した際、高速バスの福岡~熊本線は乗客数が増加しました。鉄道の実勢価格が上がって高速バスとの運賃差が拡大することなどが要因と考えられます。

高速バスもっと伸ばせる!「名古屋線」

 まず金沢~名古屋、福井~名古屋線。鉄道だと現在でも、米原で新幹線と在来線特急の乗り継ぎ(名古屋~米原も在来線特急を使う場合は、米原で座席の向きの転換)が必要で、今後はさらに敦賀でも乗り換えが発生します。

途中2回乗り換えても所要時間の短縮効果は福井~名古屋で3分、金沢~名古屋でも16分に留まると発表されており、高速バスにとってはシェア獲得のチャンスです。

 ただ、前述の福岡~熊本などの場合、割引率が大きく使い勝手もいい在来線特急の割引乗車券が新幹線開業により廃止され、鉄道の実勢価格が大きく上がったのに対し、現在販売中の金沢・福井からの「名古屋往復割引きっぷ」の割引率は、もともとあまり大きくありません。新幹線開通がさほど「値上げ感」につながらない可能性が考えられます。

 実は、鉄道が大幅な割引きっぷを必要とするほどには、この区間の高速バスのシェアが大きくはなかったのです。

 高速バスの所要時間が3~4時間の路線で見ると、東京~いわき(福島県)、新宿~長野、松本(長野県)、福岡~大分、長崎などの路線で、現地発の始発便は早朝4~5時台に発車し都市側へ9時前に到着、都市側からの最終便の現地到着は24~25時台に設定されています。

 しかし金沢・福井における現在の高速バスダイヤは、それぞれの都市からの始発が名古屋に着くのが10時前後、名古屋発の最終が福井に着くのが21時台、金沢でも23時台です。

これでは金沢、福井側在住の人にとって利便性は今一つです。

「北陸新幹線vs高速バス」敦賀延伸でどう変わる? 鉄道の乗換え増でチャンス拡大…とも言い切れない理由
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福井を拠点とする京福バスの高速バス車両。東京線のほか名古屋線を運行。大阪線は運休中(乗りものニュース編集部撮影)。

 さらに地方部は「クルマ社会」のため、いわき中央IC、松本ICなどに大きなパーク&ライド駐車場が用意されています。ここから乗車すればバスはすぐに高速道路に入るので、自宅から大都市へのトータルの所要時間では鉄道とあまり変わりません。

しかし、松任海浜公園停留所(石川県白山市)や福井駅前に駐車場があるものの、金沢市や福井市の高速道路沿いでパーク&ライドに対応できていません。

 逆に言えば、もともと高速バスに成長の余地が残っていたということです。さらに福井~名古屋では、中部縦貫道の建設が進んでおり、現在の米原JCT周りルートに比べ高速バスの所要時間短縮が期待されます。運行事業者の共同運行関係が複雑で調整が難しそうな印象はありますが、新幹線開業を前に運行ダイヤや便数、ルート、リピーター向けの還元策などの見直しに真剣に取り組めば、一気に大きなシェアを獲得できるチャンスがあると言えるでしょう。

どうにも鬼門な「大阪線」 高速バスのアキレス腱

 一方の大阪方面。高速バスに不利な点が2つあります。

 まず、湖西線経由の特急に比べ米原JCT周りの高速道路は遠回りで、鉄道との所要時間の差が大きいことです。また金沢~大阪線は、乗務員の拘束時間や実車距離が法令で定められた上限を超えるため、ワンマンで日帰り運行できず、泊まり勤務が必要です。高速バスの運行コスト中、人件費が最大の比率を占めるので、乗務員が1日に1往復できるか、1日に片道分しか担当できないかというのは、競争力に大きく影響します。

 これまで金沢~大阪、福井~大阪の高速バスは今一つ成功せず、高速バスの“鬼門”とも呼ばれてきました。

 ところが2023年7月、近鉄バスが、グループ会社の北日本観光バスと共同運行で金沢線を運行開始しました。しかし、双方が泊まり勤務で1往復ずつというダイヤで、ターゲットが明確ではありません。高速バス利用者の多くは地方側在住者なので、両社でダイヤを工夫し、まずは“石川県在住の人の大阪への足”として、早朝発を含む金沢を午前発と、大阪を午後発、それもなるだけ遅い時間帯に便数を確保できるようリソースを集中すべきです。

 いまどきの高速バスですから、パーク&ライドは、金沢市内にある北日本観光バスの本社営業所で準備されました。しかし、ここからバスに乗車すると金沢駅前を経由して高速道路に乗るまで一般道を走ることになり、相当な時間のロスになります。同社が運行する金沢~東京線は夜行路線のため所要時間は気になりませんが、昼行の大阪線ではそうはいきません。金沢駅を出た後、高速道路のIC付近にパーク&ライド駐車場が欲しいところです。

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近鉄バスの車両。7月に北日本観光バスとともに金沢~大阪線を新設したが、9月には1往復減便となった(画像:近鉄バス)。

 また、同社は貸切バス分野で長い歴史のある老舗ですが、路線バスのほか流通業など生活関連産業を幅広く展開し「地元の名士企業」とされる一般的な乗合バス事業者とはタイプが異なります。路線バス車内やグループ会社での告知、地元メディアでの露出が難しい分、ウェブマーケティングなど新しい手法を使い、石川県での認知を拡大させることが求められます。

理想的な新幹線新駅「越前たけふ」

 最後に、福井と敦賀の中間に開業予定の、越前たけふ駅に注目しています。越前市(旧:武生市)郊外の田園地帯に開業予定の新幹線駅です。

 同駅は国道8号「福井バイパス」に面しており、目の前には道の駅が開業済み。さらに北陸道の武生ICとも隣接しています。もちろん、新幹線や高速バス利用者向けのパーク&ライド駐車場も準備されました。

 ここであれば、地元の人は市街地に比べ信号や渋滞の少ないバイパスでアクセスできる上、新幹線と高速バスを往復で使い分けることも容易です。新幹線、高速道路、バイパス道路、道の駅と今日的な交通施設が集約された新しいタイプの交通結節点と言えます。

 ここまで、高速バス利用者の多くを占める福井、石川両県在住者の視点で高速バスの今後をまとめました。しかしもちろん、一乗谷遺跡、兼六園などの史跡や温泉、冬場のカニなど観光要素の多い両県のことですから、交通が便利になることで観光客が増加することもまた、期待されます。