我が国で唯一、定期運行されている寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」。指定券の確保が困難な人気列車と報じられることも多いですが、実際はどうでしょうか。
「サンライズ瀬戸」(東京~高松)と併結する「サンライズ出雲」(東京~出雲市)は、我が国で唯一の定期運行する寝台特急列車です。
ゴールデンウィークなどの繁忙期には、全席が発売開始直後に売り切れ乗車率100%に。その一方で、ネットでは「混雑しているのは金曜日や休前日、土日祝で、平日なら空いている」という意見も見られます。年間乗車率では、「出雲」が「瀬戸」よりもやや上と報じられていますし、東京に向かう上り列車の乗車率が低い傾向があるようです。
寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」に使われる285系電車(安藤昌季撮影)。
そうならば、最も乗車率が低いであろう「サンライズ瀬戸」の平日上り列車はどの程度利用されているのでしょうか。水曜日に出る上り「瀬戸」に乗車すべく2023年12月、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は高松駅に向かいました。
JR西日本のネット予約サービス「e5489」で確認すると、1人用B個室「ソロ」「シングル」、1~2人用B個室寝台「シングルツイン」、普通車指定席「ノビノビ座席」には空きがありました。その一方で、プラチナチケットとされる2人用B個室寝台「サンライズツイン」や、1人用A個室寝台「シングルデラックス」は満席でした。
「e5489」では残席数が見られないので、乗車率は乗って確かめるしかありません。発車15分前に高松駅に到着しましたが、列車の周辺に人影は少なく、見送り客もわずかです。
B個室寝台「ソロ」に荷物を放りこみ、21時26分の高松駅出発後に車内を巡回しました。空席の個室は扉が開いているので、乗車数は簡単に確認できます(側廊下式の「シングルデラックス」「サンライズツイン」はネットで満席を確認)。
「瀬戸」の乗車率は高松駅発車後に車内を巡回して確かめた乗車率は、次の通りでした。
8号車/シングル・シングルツイン:1名(定員21名)
9号車/シングル・シングルツイン:16名(定員26名)
10号車/ソロ:2名(定員20名)
11号車/シングルデラックス・サンライズツイン:14名(定員14名)
12号車/ノビノビ座席・シングル:1名(定員30名)
13号車/シングル(喫煙車):6名(定員26名)
14号車/シングル・シングルツイン:5名(定員21名)
【合計】45名(定員158名。「シングルツイン」は2名乗車と計算)
この状況は「空いている」といえます。9号車だけにぎわっているのは、おそらくツアーの団体客がいるからでしょう。普段は人気が高い「シングルツイン」も3室しか埋まっていません。7両編成の定員が158名なので、乗車率は28%。順番待ちせずに共用シャワーが使えるのは楽ですが、先行きが心配になります。
私はB個室寝台「ソロ」で上段を利用しました。階段と寝台と荷物置場だけのシンプルな部屋ですが、頭の位置にコンセントがあるのは、床面積の広い「シングル」より便利です。

B個室寝台「ソロ」を利用(安藤昌季撮影)。
坂出駅、児島駅と停車し、22時23分に岡山駅到着。出雲市駅からの「サンライズ出雲」を待ちます。ここでは「瀬戸」と「出雲」の連結が行われるので、30人近い乗客がホームへ降り見物していました。坂出、児島の両駅で乗っても数人なので、乗客の半数ほどが見学している計算です。「サンライズ」は根強いファンに支えられていることが伝わってきます。
ちなみに「出雲」に乗車していると、連結後すぐに出発してしまうので、落ち着いて連結風景を楽しめるのは「瀬戸」の強みです。
連結した「出雲」の乗車率は両列車の連結後、22時34分に岡山駅を出発しました。走行音も小さく寝心地は良好。
少し休息し、0時31分着となる大阪駅を待ちます。発車が0時33分と遅いものの、東京行き寝台特急として一定の乗車がありました。その数30名以上。冬休みではありませんが、小学生の子どもを複数連れた、家族連れまでいました。

連結作業の様子(安藤昌季撮影)。
もう、翌朝の静岡駅まで営業停車はありません。車内を巡回して「瀬戸」「出雲」の乗車数を確認しましょう。
■「サンライズ瀬戸」大阪駅発車時
8号車/シングル・シングルツイン:12名(定員21名)
9号車/シングル・シングルツイン:22名(定員26名)
10号車/ソロ:10名(定員20名)
11号車/シングルデラックス・サンライズツイン:14名(定員14名)
12号車/ノビノビ座席・シングル:18名(定員30名)
13号車/シングル(喫煙車):13名(定員26名)
14号車/シングル・シングルツイン:17名(定員21名)
【合計】106名(定員158名)
■「サンライズ出雲」大阪駅発車時
1号車/シングル・シングルツイン:20名(定員21名)
2号車/シングル・シングルツイン:23名(定員26名)
3号車/ソロ:13名(定員20名)
4号車/シングルデラックス・サンライズツイン:14名(定員14名)
5号車/ノビノビ座席・シングル:25名(定員30名)
6号車/シングル(喫煙車):16名(定員26名)
7号車/シングル・シングルツイン:21名(定員21名)
【合計】132名(定員158名)
大阪駅発車時の乗車率は、「サンライズ瀬戸」が67%、「サンライズ出雲」が84%です。「出雲」も岡山駅では空席がありましたので、姫路駅、三ノ宮駅からの乗車があったのでしょう。最も乗っていないとされる冬の平日上り列車でこの乗車率ですから、「サンライズ瀬戸・出雲」は人気列車といってもよいのではないでしょうか。
JR西日本の株主総会では、「長く走らせたい」「人気が続くなら車両更新も考えたい」との経営陣の回答があったとも伝えられますが、存続のためには、運輸収入をJR4社で分けた時、末端区間となる東日本と四国でも利益をもたらすビジネスモデルが必要と感じます。『JR時刻表』で何度も表紙を飾り、知名度はJR定期特急でも屈指ですから、「関わったJR各社が制約なしにグッズを出せる」といった試みは面白いかもしれません。

ラウンジ(安藤昌季撮影)。
もし新型車両が登場するなら、たとえば「A個室寝台でケータリングの食事サービスを提供し、提供される料理を駅ナカや鉄道博物館でも販売する(末端のJR東日本や四国が手がけた商品が主力)」とか、「列車内で提供されるアメニティや浴衣、イラスト付タオルなどをブランド化し、駅ナカで販売する」といった手法で収益を上げることも考えられます。
銚子電鉄は鉄道の売り上げではなく「濡れ煎餅」の売り上げで存続しているといわれます。単体では儲からない寝台特急も、抜群の知名度を活かし鉄道外で商売すれば、トータルで存在意義を高められると思う次第です。