愛知県三重県をショートカットする「伊勢湾フェリー」が創立60周年を迎えます。このフェリー、実は「海の国道」に指定されています。

その裏にある構想がなかなか壮大なものですが、現在はどうなっているのでしょうか。

本州内の「海の国道」

 愛知県渥美半島の伊良湖岬と、三重県鳥羽を結ぶ「伊勢湾フェリー」が、2024年4月4日に創立60周年を迎えます。この日は全ての旅客運賃と船内特別室利用料を無料に。ほかにも、60周年イヤーを盛り上げる様々な企画が始まります。
 
 実はこのフェリー、「国道」でもあることをご存知でしょうか。

「海の国道」って知ってました? 60周年の「伊勢湾フェリー」...の画像はこちら >>

伊勢湾フェリー(画像:伊勢湾フェリー)。

 国道のルート上に海で途切れた区間がある場合など、旅客航路が国道の「海上区間」として指定されているケースはいくつかあります。ただ本州内で海上区間が設定されているのは、ここと東京湾フェリー(国道16号)くらいで、しかも伊勢湾フェリーの場合は「国道42号と259号の2本が指定されています」(同社)とのこと。

 国道259号は、渥美半島にあった陸軍施設への道をルーツとし、現在は起点が三重県鳥羽市、終点が愛知県豊橋市に設定されている比較的短い国道です。これに対し42号は、紀伊半島の海沿いをぐるりとめぐる、総延長500km越えとされる大幹線です。愛知県側の国道というイメージがあまりないかもしれませんが、起点は静岡県浜松市、終点は和歌山市とされており、実は1993年に起点側が三重県津市から浜松市に変更されて現在に至っています。

 背景にあるのが、伊勢湾フェリーの航路に橋を架ける通称「伊勢湾口道路」の存在です。

この構想があるために、国道42号が海上をまたぐ指定になったと言われています。

 もともと、「東海~伊勢湾口~紀伊半島~紀淡海峡~四国~豊予海峡~九州を経て、沖縄へと至る新たな国土軸を形成する」(三重県の説明)という「太平洋新国土軸」なる大きな構想があり、このなかの3つの海峡横断プロジェクトのひとつに「伊勢湾口道路」が位置付けられています。これを構成する道路として、伊勢湾横断部分を含む地域高規格道路の候補路線「三遠伊勢連絡道路」の構想があります。

 これは、長野の中央道と新東名をつなぐべく建設中の三遠南信道を、まっすぐ渥美半島、三重県鳥羽まで延ばし、伊勢道につなげて大阪方面などへ向かうルートを形成するものと言い換えられます。このルート、三遠南信道から東名高速(三ケ日JCT)まではできつつあり、そこから豊橋までも「浜松湖西豊橋道路」として事業化に向けた動きがあります。

「フェリーが国道」だからどうだって?

 しかし、伊勢湾の横断部については現地調査までは行われているものの、現在目立った動きはありません。

「フェリーが国道指定されているのは、何か意味がありますか?」の質問に、伊勢湾フェリーは「特にないです」とキッパリ。国道であることの案内も特に行っていないとか。また、実際に渥美半島から伊勢湾フェリーを使って大阪へ出るという人も、ほとんどいないのでは、とのことでした。

「当社のフェリーは観光利用が主体です。たとえば、クルマを伊良湖に置いて、カラダだけ(徒歩利用)で鳥羽や伊勢に行き、戻ってこられるお客様も多いです」(伊勢湾フェリー)

 豊橋駅から伊良湖岬まで、電車(豊橋鉄道)・バスの乗車券と伊勢湾フェリーの片道乗船券がセットになった「鳥羽・豊橋割引きっぷ」も大人2900円で設定されており、コロナ前は年4500人くらいが利用したそうです。鳥羽からはJRや近鉄を使い、名古屋回りで戻ってくることもできます。

「海の国道」って知ってました? 60周年の「伊勢湾フェリー」 その裏にある壮大な道路構想と“実態”
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伊良湖(愛知県)のフェリー乗り場(画像:伊勢湾フェリー)。

「伊良湖水道は1日200隻の大型船が通るほか、三島由紀夫の小説(『潮騒』)の舞台になった神島や答志島といった島々も船から見ることができます。1時間の航路を移動しながら観光できるので『動くパビリオン』などと言われることもあります」(伊勢湾フェリー)

 ちなみに、実は伊勢湾フェリーはもうひとつ、“国の道”に指定されています。千葉の銚子から和歌山市の加太までの総延長1487kmとされている「太平洋岸自転車道」の海上区間として、これまた東京湾フェリーとともに組み込まれています。近年、このルートが「ナショナルサイクルルート」に認定され、伊勢湾フェリーでも外国人を中心に自転車利用が増えている傾向だということです。