日本近海で「病院船」が展開されることが閣議決定されました。これまでも有用性を見出されながら、なかなか実現に至らなかった“海に浮かぶ病院”、日本はどう調達し、どう運用していくのでしょうか。

病院船が洋上に浮かぶ時期は、岸田首相に委ねられた

 松村祥史防災担当相は2024年5月24日の会見で、いわゆる「病院船」を災害対策や感染病対策で活用するための政令案と船舶活用医療推進本部令案が閣議決定されたことを公表しました。

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2018年に関東で公開されたアメリカ海軍の病院船「マーシー」。タンカーの改造船(柘植優介撮影)。

 2021年6月に議員立法で成立した「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律」に基づき、大規模災害や感染病対策で使われる病院船の実現に向けた「船舶活用医療推進本部」が設置されます。近い将来、船舶を活用した医療支援が日本でも実現する可能性が見えてきました。

 推進本部は岸田文雄首相を本部長に、内閣官房長官、厚生労働省相、防災担当相を副本部長、そのほか全閣僚を本部員として、政府全体で運用体制の構築を進めます。

2024年度末をめどに推進計画と活動マニュアルを策定する予定です。

 船舶に負傷者を収容して治療を行う病院船は、大地震が起きるたびに災害対策のアイデアとして浮上しました。海に囲まれた日本では、被災状況に影響されずに支援ができる長所を最も活かすことができます。ただ、日本では船舶活用時以外の維持コストや医療関係者の管理に課題があり、具体化に向けた検討が進みませんでした。

 2018年6月には、アメリカ海軍の病院船「マーシー」が、東京港と横須賀港に初めて寄港して船内を公開しましたが、病院船は保有する国の多くが軍の運用下にあります。

 日本で動き出したのは、コロナ禍におけるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の経験を経た後のことで、推進法が議員立法だったことも実現の難しさを象徴しています。

病院船の活用は“総論賛成”でも“各論未定”

 対策本部が立ち上がっても、むしろ活用方法の検討は困難を極めたといえるかもしれません。村松防災担当相は会見で次のように話しています。

「今回の能登半島地震におきましても、すぐ思い立ったのが、この病院船があれば、どんな対応ができたかなというようなことを考えました。特に透析の方々はヘリで移送をいたしましたけれど、(病院船があったら)果たしてどんな使い方があるか」

 新しい病院船の実現にも課題があります。

「こんにちまでの議論の中で新しく作るか、あるいはリースのような形にするか。また設置も東日本と西日本にあった方がいいのか、日本海側と太平洋側にあったらいいのか。

様々な論点がありますので、どういう災害が発生するかという予見性を高めて、どういう体制をとることで、すぐに対応がとれるかという議論を進めていかなければならないなと改めて思っているところです」

「病院船」ついに日本で展開へ 首相主導で計画策定スタート なぜいま動いた?
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松村祥史防災担当相(中島みなみ撮影)。

 病院船が実現しても、必ずしも接岸できるとは限りません。能登半島地震では港も被災しました。

「今回港が使えませんでしたから、そういう場合にどういう事象が発生するのか、あるいは沖に停泊をしてどういうオプションが可能であるのか、様々な事象を検討しながら病院船の活用方法を検討してまいりたいと思っております」

 内閣官房は、マニュアル作成のため、有識者、事業者、自治体および関係府省を構成員とする作業部会も開催し、運用に当たっての活動マニュアルを具体化します。