デポック車両基地はインドネシア・ジャカルタにある、KCIコミューターライン最大の基地です。日本のODAプロジェクトで建設され、車両収容から検査まで一貫して行われます。

2025年2月、現場の様子を見てきました。

とにかく広大な車両基地

 ジャカルタ都市圏を構成する一都市、インドネシアのデポック。ここにはKAIコミューター「KCIコミューターライン」の要であるデポック車両基地が構えています。

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元・JR横浜線用で、8+4で12両だった64編成はバラされ、4両のみが入庫していた。許可を得て撮影(2025年2月5日、吉永陽一撮影)

 スカルノ・ハッタ空港線や車両工場のあるマンガライ駅からボゴール線の電車で南下すること約30分、2面4線の地平駅デポックへ到着。自動車も入れぬ駅前の狭い雑踏を抜け、バイクタクシーに跨って10分ほど道路を南下すると、デポック車両基地が現れました。

 車両基地は自由に見学できません。警備員詰所で所定の手続きを済ませると、視線の先には赤いラインの入った元・JR東日本205系が入区してきました。詰所から見えるのはこの車両基地の一部。敷地は縦長で、面積は約26ヘクタールと広大であり、着発収容線は12両編成の電車(約240m)が2本縦列できます。

 大きさを聞いてもピンときませんが、日本の車両基地で比較すると東京総合車両センターより広く、北陸新幹線の白山総合車両基地とほぼ同じ。新幹線車両基地級の広さを有する通勤電車基地なのです。

長さ1kmは超える広大な敷地のため、詰所から管理事務所棟までは、警備員のバイクの後ろに跨るか自動車で移動となります。

 デポック車両基地は1998(平成10)年の円借款契約締結を経て、ODAプロジェクトとして2004(平成16)年に着工されました。完成は2008(平成20)年。総工費約92億円の巨大プロジェクトでした。288両の車両が収容可能で、16本の着発収容線が整備。巨大車両基地の整備により、以前より存在したマンガライ駅付近のブキット・ドゥリ基地、ボゴール駅に隣接するボゴール基地と合わせて、3か所体制でコミューターラインの車両を管理しています。

JR東日本関係者が常駐 技術支援を実施

 とはいえ、車両の増加によってデポック車両基地でもキャパシティに余裕がなく、西側の遊休地を造成して拡張をする計画もあるようですが、「いまのところ拡張工事は聞いていない」と職員談。遊休地は引退した車両の解体場となっており、元・東京メトロ6000系が解体待ちとなり、収容線の端にも元・JR東日本203系など引退した車両が留置されていました。

「205系はメンテしやすい」 ジャカルタにある“日本式の”巨大車両基地を訪問 JR東の関係者も常駐する
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休車と廃車が着発収容線で佇む。手前の元・東京メトロ7000系22編成は廃車後に建築限界確認車として復活した。奥の元・東急8500系は廃車。許可を得て撮影(2025年2月5日、吉永陽一撮影)

 廃車となっているのはチョッパ制御車が目立ちます。

日本ではチョッパ制御車が置き換わり、インドネシアへの部品供給も困難です。運行中のチョッパ制御車は直せる範囲で修繕して運用する“だましだまし使用している状態”で、壊れてしまったら運用離脱となります。現場では壊れた車両と使える車両を組成し直して、1つの編成を仕上げています。

 一方、JR東日本から譲渡された205系は、車両譲渡と技術支援に対する覚書がインドネシア鉄道ならびにKCIと交わされ、JR東日本関係者が技術支援のバックアップを行い、デポック車両基地にも常駐しています。

 部品は日本から供給されています。高コストで専用の電動機を使用するチョッパ制御車と異なり、205系は従来の直流電動機を使用する界磁添加励磁制御方式のため、保守や手間も抑えられます。部品の供給も滞らず、継続的なバックアップが可能です。

「メトロよりツーゼロファイブ(205)のほうがメンテナンスしやすいよ!」

 基地を案内する職員は笑顔で話します。

ここがインドネシアだと忘れるほど日本っぽい

 着発収容線の南側は車両修繕を行う検修庫です。庫内には4本の検修線があり、下回りを検査するピットが備わります。検修線には205系に換装されるPS33形シングルアームパンタグラフが、日本から届いた状態で置かれていました。コミューターラインの車両はシングルアームへの換装が進行中で、営業運転中の電車の屋根部を観察すると、従来の菱形タイプの編成と換装された編成と混在しています。

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検修線へ入線する205系。元・JR武蔵野線用の8両編成の57編成だ。許可を得て撮影(2025年2月5日、吉永陽一撮影)

 左側の施設には2本の検修線があって、全般検査、台車検査、改造などを行っています。取材時は205系の台車を検査しており、職員がクレーンを操りながら車輪を移動していました。周囲には日本から発送されてきた供給部品が積まれ、日本語表記が並んでいます。205系の車体、DT50台車、日本語の表記と、ジャカルタにいるのを忘れてしまいそうなほど“日本”でした。

 それもそのはず、デポック車両基地は日本の一般的な車両基地と同様のレイアウトを配しており、職員の服装から作業方法まで、日本の技術指導によって職場環境がつくられました。現場で聞いた話では、以前は職員の服装からして少々ルーズだったようです。日本のやり方はどうかと尋ねると、「最初にやり方を習って覚えるので難しくないです」とのこと。さらに2階の休憩室には、日本語とインドネシア語で記された「安全綱領」が掲げられ、安全に対する意識改革も浸透している様子です。

寒暖差がないゆえのメリットとは

 なお、KCIコミューターラインの電車を見て気になるのは、なぜ床下機器が青いのかという点です。理由を尋ねてみましたが、「以前からその色だと決まっている」とか「この色がよいとなったのでは?」と、明確な答えは返ってきませんでした。

気分的に青色としたとも言われ、なんともおおらかです。

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2階の休憩室前に掲げられている、KAIコミューター役員の写真と日本式の安全綱領。インドネシア語にも訳されており、全職員が日々心掛ける事柄が書かれている。許可を得て撮影(2025年2月5日、吉永陽一撮影)

 日本式の車両基地は、ジャカルタであることを忘れるほど日本のような職場環境でしたが、ではこの場所らしい特徴は何でしょうか。

「スコールはあるものの、日本と違って雪がないから環境はよいかもしれない」
「調べたわけではないが、寒暖差がさほどない気候なのでゴム部品の劣化が少ない気がする」
「暑い。一年中暑いよ(笑)」

 などなど、熱帯気候らしい意見も。たしかに、汗だくになるほど暑いです。スコールや炎天下で作業に勤しむ職員の皆さんに頭が下がる思いがしました。

 デポック車両基地には中国から輸入されたCRRC社製の新車が配備され、現在は営業運転に向けて試運転中です。やがて国産INKA製の新車も完成し、205系を中心として日本の車両が整備される光景も、近い将来劇的に変化していくことでしょう。

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