数を減らしながらも使われ続けている、国鉄時代に造られた鉄道車両。ファンからは「国鉄型」と呼ばれ親しまれています。

レトロな雰囲気を楽しめ、旅行派からも人気を集めそうです。

国鉄の分割・民営化から30年

 現在のJRグループは、1987(昭和62)年3月31日までは日本国有鉄道(国鉄)というひとつの事業体でした。国鉄が分割・民営化された際に多くの鉄道車両がJRに引き継がれました。

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国鉄185系電車の特急「踊り子」。この車両も置き換えが計画されている(児山 計撮影)。

 当時、国鉄の鉄道車両というと、特急形なら回転式のクロスシート(回転させて向きを前後に変えられる座席)、普通列車などに使われる近郊形なら青いモケットのボックスシート、というように全国どこでも均質な車両と設備で、どちらかというと地味な存在でした。

 しかし、JRになって新造車両が増え、国鉄時代の車両が相対的に減ると、これらの車両が「国鉄型」と呼ばれ、ファンに注目されるようになります。

 国鉄型という言葉はファンやマスコミから自然発生したもので、明確な定義はありません。なかにはJR移行後も国鉄時代のスペックで製造が継続された車両もあり、「国鉄型」というにはやや曖昧な車両もありますが、国鉄時代に製造され、使用された車両であれば、おおむね「国鉄型」と呼んで差し支えないでしょう。

 これら国鉄型車両はJR移行後30年が過ぎた現在、老朽化などで次々と引退しています。

 たとえば国鉄型車両を使った特急列車は、JR東日本の「踊り子」やJR西日本の「やくも」、JR四国の「剣山」「うずしお」、JR九州の「ゆふ」「九州横断特急」など、まだ各地で見られますが、「踊り子」や「やくも」は車両の置き換えが検討されており、「うずしお」も2600系をはじめとする後継車両の投入で先行きは不透明。国鉄型車両の特急を楽しむなら、いまが最後のチャンスと言えるかもしれません。

 通勤形・近郊形の車両も、首都圏では鶴見線、川越線、八高線などごく一部を残して置き換えが完了。近畿圏でもここ数年で大阪環状線、阪和線から国鉄型の車両が基本的に姿を消すなど、置き換えは急ピッチで進められています。今後、国鉄型の車両は希少価値をますます高め、ファンの注目を浴びるものと思われます。

国鉄型車両の旅は「レトロな旅」に

 国鉄型の車両はたとえリニューアルをしていたとしても、車内設備や性能は最新の水準と比べるとどうしても一歩譲るところがあります。

 しかし一方で、昔ながらのスタイルに「懐かしさ」を感じる人も少なくありません。国鉄時代はありふれたインテリアであった青いモケットのボックスシートに座って車窓を楽しむ旅行は、「レトロな列車旅」としての価値が生まれています。

数減らす「国鉄型」車両 ひと昔前の音や乗り心地が新たな「価値」に

「国鉄急行色」になったJR東日本新潟支社のキハ47形ディーゼルカー。国鉄時代には存在しなかった組み合わせがユニーク(児山 計撮影)。
数減らす「国鉄型」車両 ひと昔前の音や乗り心地が新たな「価値」に

JR四国所有の121系電車。国鉄時代の大きなモーター音や独特の乗り心地を楽しむというユニークな旅行商品が生まれた(児山 計撮影)。
数減らす「国鉄型」車両 ひと昔前の音や乗り心地が新たな「価値」に

大井川鐵道のSL急行は、50年以上前の国鉄にタイムスリップしたような汽車旅を楽しめる(児山 計撮影)。

 千葉県のいすみ鉄道や山口県の錦川鉄道などでは国鉄型のディーゼルカーで「国鉄時代の雰囲気を楽しむ旅」をアピールして好評を得ています。

 また、JR東日本新潟支社では国鉄型のキハ40形・キハ47形ディーゼルカーに国鉄急行色(クリーム+朱)を塗装したり、飯山線ではJR時代に登場したキハ110形ディーゼルカーの一部車体デザインを国鉄時代の配色に変えたりといったことも行っています。これらの車両は厳密にいうと「国鉄時代の再現」ではありませんが、国鉄時代の雰囲気を気軽に楽しめる車両として一定の人気があります。

 JR四国では2018年6月、国鉄時代に造られた121系電車の旅行商品「跳ねろコイルバネ! 唸れMT-55!! 121系四国色でゆく復刻サンシャトル号ツアー」を発売。昔であればどちらかというとマイナスのイメージが強かった国鉄型車両の乗り心地が、いまでは希少となり商品価値となる時代となりました。ちなみに「MT-55」はモーターの種類です。

 静岡県の大井川鐵道が運行するSL急行は、冷房もなければドアも手動という、昔の客車列車の旅気分を味わえる貴重な存在です。

 これらの車両には目を見張る最新設備などはありませんが、30年以上前の時代にタイムスリップし、「非日常」の気分を楽しめるのが価値です。これからも国鉄型車両がますます注目され、それを楽しむ旅行商品や撮影イベントも増えていくかもしれません。

※一部内容を修正しました(7月11日17時00分)。

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