東京メトロ有楽町線から分岐する「支線」の構想が本格的に動き出す見込みになりました。この支線が開業すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

周辺路線の利用者にもメリットが

 東京で新しい地下鉄の構想が本格的に動き出します。東京都は2018年6月、江東区内の豊洲~住吉間5.2km(建設キロは4.8km)を結ぶ有楽町線の「支線」について、2018年度中にも事業計画を取りまとめる方針を固めました。

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有楽町線の新木場車両基地(2016年9月、草町義和撮影)。

 東京メトロが運営する有楽町線は、埼玉県の和光市駅から東京都心の池袋、飯田橋、有楽町、豊洲などを経て江東区の新木場駅に至る、全長28.3kmの地下鉄です。一方、支線は豊洲駅で分岐して北上し、東西線の東陽町駅などを経て半蔵門線の住吉駅に接続。半蔵門線の押上方面に直通する列車も運転できるようになります。

 江東区は東京メトロ東西線や都営新宿線など、東京の都心と近郊を東西に結ぶ鉄道路線が複数あります。しかし、江東区内を南北に縦断する鉄道路線はありません。江東区の調査によると、南北移動のルートとなる豊洲~錦糸町間はバスで35分かかりますが、支線が建設されると16分になることが見込まれ、半分以下の所要時間で済みます。

 また、支線の建設によって客の移動ルートが分散し、周辺路線の混雑も緩和されるとみられます。東陽町駅で支線と交差する東西線の場合、朝ラッシュ時の混雑率は木場→門前仲町間がおおむね200%弱で推移していますが、江東区の調査では支線の整備で176%に低下するとしています。

「塩漬け」路線を部分的に整備へ

 この支線の構想は古くからあり、1972(昭和47)年に運輸大臣の諮問機関・都市交通審議会(のちの運輸政策審議会、現在の交通政策審議会)がまとめた東京圏の鉄道整備基本計画で、豊洲~亀有間に支線を整備することが盛り込まれました。

 その後、営団地下鉄(現在の東京メトロ)が1982(昭和57)年に豊洲~亀有間の路線を運営するための手続き(地方鉄道免許の申請)を行いました。構想区間ものちに拡大。現在は豊洲駅から千葉県北部の野田市まで約36kmを結ぶことが考えられています。ちなみに、途中の住吉~押上間は半蔵門線の延伸区間として2003(平成15)年に先行開業しました。

 これまでは建設費や採算性の問題があり、具体化に向けた動きがほとんど見られませんでした。営団地下鉄が申請した豊洲~亀有間の地方鉄道免許も、当時の運輸省は「財政事情で補助金が大幅カットされているため」(1994年11月16日付け日刊工業新聞)などとして免許を保留。

ずっと「塩漬け」にしてきたのです。

 ただ、当面の建設区間を豊洲~住吉間に絞ることが考えられるようになったことや、東京オリンピックの開催決定を機にインフラ整備推進の動きが強まったこと、さらには交通政策審議会が新しい鉄道整備基本計画「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」を2016年に答申し、豊洲~住吉間には「費用負担のあり方や事業主体の選定等について合意形成を進めるべき」との強い口調の意見を付けたことから、具体化に向けた動きが活発になっていました。

完成はいつごろ?

 実は、有楽町線の豊洲駅と半蔵門線の住吉駅では、支線の線路を敷くためのスペースがすでに完成しており、その分安く建設することができます。それでも事業費は約1492億円(江東区の調査)といわれており、これをどのように調達するかが一番の課題といえます。

動き出した地下鉄新線 東京メトロ有楽町線「支線」のメリットは?

半蔵門線・住吉駅のホーム。左側には車両を留置するための線路があるが、本来は有楽町線の支線が入るスペースだ(2011年11月、草町義和撮影)。

 いまのところ、国と自治体が事業費の7割を負担する「地下高速鉄道整備事業費補助」の制度を使って、事業費の大半を調達する方法が有力視されています。ほかに「都市鉄道利便増進事業費補助」という補助制度の活用も想定されますが、こちらは国と自治体が3分の2(約67%)を補助することになっていますから、補助率は地下高速鉄道整備事業費補助より少し下がります。いずれにせよ、残りの約3割は借金することになるでしょう。

 また、支線の建設では江東区などが出資する第三セクターが施設を保有し、これを東京メトロに貸し付けて列車を運行する「上下分離方式」の導入が想定されています。東京メトロは線路使用料を第三セクターに払うことになると思われ、この使用料収入から建設費の借金を返していくことになるとみられます。

 有楽町線の支線は完成どころか着工のスケジュールも固まっておらず、開業時期は未定です。

ただ、東京圏に多数ある新線構想のなかでは採算性や経済効果が高いとされており、交通政策審議会の新しい鉄道整備基本計画は、おおむね2030年ごろを「念頭」に置いて東京圏の鉄道のあり方をまとめたものですから、2030年代前半の完成を目指すことになるでしょう。早けれは10年後くらいには実現するかもしれません。

【地図】有楽町線「支線」のルート

動き出した地下鉄新線 東京メトロ有楽町線「支線」のメリットは?

有楽町線の支線・豊洲~住吉間のルート。住吉~押上間は半蔵門線として先行整備された部分になる(画像:交通政策審議会)。