都営バスのなかには、ちょっと寂しい場所だったり、長らく住所が確定していなかった場所だったりと、特徴的な終点がいくつか存在します。行先名だけでは、どのような場所かやや想像しづらい終点を5つ紹介します。

東京駅発「荒川土手」行き どこへ?

 東京23区内を中心に走る都営バスのなかから、行先名だけではやや想像しづらい、あるいは特徴的な終点を5つ紹介します。なお、その場所を発着するバスの運行区間は、代表的なものを記載しています。

荒川土手(東京都足立区)

●発着するバス
・東43:東京駅丸の内北口~駒込病院~小台~荒川土手
・王40:池袋駅東口~王子駅前~荒川土手~西新井駅前

 東京駅丸の内口を発車するバスは、錦糸町駅前行きや東京ビッグサイト行きなどがありますが、そのなかで、やや漠然とした行先名が東43系統「荒川土手」行きでしょう。都内で荒川の土手は、板橋区から江東区や江戸川区まで見られますが、この終点があるのは左岸側、足立区江北です。

都バスの気になる終点5選 文字通りだった「荒川土手」 やっと...の画像はこちら >>

首都高の高架下、荒川土手付近をゆく東43系統のバス(2018年11月、中島洋平撮影)。

 東京駅を発車した東43系統のバスは北へ走り、文京区の駒込病院、JR山手線の田端駅を経て、隅田川を渡ります。

荒川とのあいだの中洲に位置する足立区小台および宮城を経由したのち、江北橋で荒川を渡り、土手上の道路から下りてきたところが終点「荒川土手」で、バス停には(江北橋下)と書かれています。バスを降りれば、土手の高いコンクリート護岸が立ちはだかり、道路の反対側は工場、また首都高の高架下であるため日も当たりにくく、人通りも多くはありません。

 客を降ろしたバスは回送となり、住宅街のなかにある荒川土手操車場で折り返します。東京駅方面のバスは、この操車場から客を乗せて発車し、前出の「荒川土手(江北橋下)」にも停車します。

「住所なし」だった終点とは?

 長らく住所が確定していなかった地が終点のバスもあります。

中央防波堤(東京都江東区

●発着するバス
・波01:東京テレポート駅前~テレコムセンター駅前~中央防波堤

「中央防波堤」は、お台場の沖合に浮かぶふたつの埋立地の総称で、北側の「内側埋立地」に、お台場方面から海底トンネルを経由する都営バスが通じています。

中央防波堤をめぐっては、江東区と大田区が長年にわたり帰属を主張し合い、バス停の住所も未確定でしたが、2019年10月、東京地裁の判決に基づき両者が合意し、バス停のある内側埋立地は2020年4月1日(水)、「江東区海の森」という住所になりました。

 中央防波堤バス停の周辺は、ゴミ処理や環境関連の施設があるのみですが、内側埋立地の東側では、東京23区最大の公園となる海の森公園が建設中のほか、「東京オリンピック・パラリンピック」のカヌーやボート競技が行われる海の森競技場も完成しています。今後、周辺は大きく変わっていくことが予想されます。

大井水産埠頭前(東京都大田区

都バスの気になる終点5選 文字通りだった「荒川土手」 やっと住所ができた終点も

倉庫街に立つ大井水産埠頭前バス停(2020年3月、中島洋平撮影)。

●発着するバス
・井98:大井町駅東口~品川清掃工場~4号バース~大井水産埠頭前

 品川区と大田区にまたがる大井埠頭の最も海側にあるバス停が「大井水産埠頭前」で、ここを終点とする井98系統は、平日と土曜の朝・夕のみ運行されています。大井埠頭へ向かうバスは、品川駅から都営バス最南端の停留所である大田市場までを結ぶ品98系統もありますが、こちらが活気ある市場構内へ乗り入れる(休市日を除く)のに対し、大井水産埠頭前バス停は、巨大な倉庫が立ち並ぶ水産埠頭の路地のなかに、上屋もなくポツンと立っています。

 井98と品98は大井埠頭内の大部分で同じルートをたどりますが、井98は朝夕で回り方が異なり、朝は大井町駅から早く大井水産埠頭前へ着けるようになっています。逆に夕方は、南の大田市場付近まで品98と同ルートをとり、そこから水産埠頭方面へ向かう形で、大井水産埠頭前から乗った人が大井町駅へ、より早く着けるようにしています。

昭和の都電やトロリーバスの名残 歴史ある終点も

 昭和の時代に廃止された都電や、トロリーバス(道路上空の電線から電気を得て走るバスで、無軌条電車とも)に由来するという、歴史ある終点も存在します。

早稲田(東京都新宿区

●発着するバス
・上58:早稲田~護国寺正門前~根津駅前~上野松坂屋
・上69:小滝橋車庫~早稲田~春日駅前~上野公園
・早77:新宿駅西口~新宿伊勢丹前~高田馬場2丁目~早稲田
・池86出入:渋谷駅東口~早稲田、池袋駅東口~早稲田
・飯64:小滝橋車庫~早稲田~飯田橋駅前~九段下

 早稲田大学の早稲田キャンパス周辺は、より大学構内に近い「早大正門」バス停にも多数のバスが発着していますが、大学の北側を走る新目白通り沿いにあるのが「早稲田」バス停です。都電荒川線の早稲田駅に近く、大学のキャンパスを挟んだ南側に位置する東京メトロ東西線の早稲田駅からは離れた場所です。

 早稲田バス停の前には都営アパートがあり、その1階部分を活用した都営バスの車庫(早稲田自動車営業所)から、上野や池袋、渋谷など多方面にバスが発着しています。

もともと、昭和の時代には都電の車庫があった場所で、早稲田自動車営業所は、廃止された都電や都営トロリーバスの代替として設定されたバス路線も受け持っています。

 その車庫の隣は、大型ホテル「リーガロイヤルホテル東京」です。昭和に建てられた都営アパートと車庫、そして平成の高級ホテルと、雰囲気が大きく異なる建造物が並んでいます。

都バスの気になる終点5選 文字通りだった「荒川土手」 やっと住所ができた終点も

都営バス早稲田自動車営業所は、都営アパートの1階にある(2020年3月、中島洋平撮影)。

今井(東京都江戸川区

●発着するバス
・亀26:亀戸駅前~京葉交差点~一之江駅前~今井
・葛西22:一之江駅前~今井~雷~葛西駅前
・新小22:新小岩駅前~今井~古川親水公園~葛西駅前

「今井」は江戸川区内の字名で、住所からその名は失われているものの、新中川が旧江戸川に合流するあたりを指し、旧江戸川を挟んで千葉県市川市(行徳)と接しています。ここ「今井」を経由するバスのうち、葛西22と新小22は路上のバス停に停まりますが、亀戸駅と今井を結ぶ亀26系統は、少し離れた専用の折返所に発着します。

これは、同系統の歴史的経緯によるものです。

 亀26系統のルーツは1925(大正14)年、現在の首都高小松川JCT付近と、今井のあいだに開通した私鉄 城東電気軌道で、いまの折返所の位置に、その車庫がありました。第2次世界大戦中、都電へ併合されたのちに廃止され、一部並行する形で上野公園~亀戸駅前~今井間の都営トロリーバスが開通、さらにこれが都営バスに置き換わり、亀戸駅前を境に上26系統と亀26系統とに分割され、現在に至ります。系統番号の「26」は、都電の系統番号がバスに引き継がれました。

 旧城東電気軌道の車庫は、都電、トロリーバス、そして通常のバスの車庫へと移り変わったのち、1980年代に廃止され、1階をバスの折返所とした都営アパートが建てられました。