運行時間のほか、終電後のメンテナンスなどで24時間動き続ける鉄道の現場。駅員は交代制のシフトが組まれますが、食事はどうしているのでしょうか。
早朝から深夜まで動き続ける鉄道。終電後のメンテナンスを含めれば、鉄道は文字通り24時間動き続けています。そこで働く駅員も交替制の24時間勤務。では駅員は仕事中、どのように食事をしているのでしょうか。
JR4社(完全民営化したJR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州)と、東京を拠点とする大手私鉄の各社に、駅員の食事事情を取材してみたところ、鉄道会社によって実情が異なることが分かりました。ここでは、各社の一般的な食事スタイルを紹介します。なお、地域や駅の規模によって、もちろん例外もあります。
鉄道駅のイメージ(画像:写真AC)。
鉄道会社といえば、昔はどの会社でも勤務のシフトのひとつとして食事当番がいて、仲間のご飯を作っていました。もちろん、料理が苦手な人はいつの時代にもいます。そこではこんなエピソードもあったとか。
「ナニッ、職場におフクロさんを連れてきたって。どうしたんだ」
「食事当番なんです。ボク、家でつくったことないんで、それで……」
「先輩につくり方を教えてもらえばいいじゃないか。なにもおフクロさんまで……。でも、せっかくだ。うまいものをつくってもらおう。1回だけだぞ……。じゃあ、お母さん、すいませんが、お願いします」
(出典:毎日新聞「駅員さんはコックさん」1977年12月14日)
これは当時、営団地下鉄に伝わっていた話ですが、似たような話はどこの鉄道会社にもあったとか。このエピソードの真偽はともかく、そうした苦労を乗り越えて一緒に仕事をした同僚は、文字通り「同じ釜の飯を食った仲」だったわけです。
自炊か調達か 鉄道会社によってまちまちしかし、業務効率化のため駅の仕事が整理され、駅員が削減された現在では、駅員が食事を作る文化は徐々に過去のものになっているようです。
いまでも駅員が食事を作っているのは、東急電鉄、京成電鉄、京王電鉄、東武鉄道です。食事当番はひとりあたり数百円の予算をあつめ、近所のスーパーなどへ買い出しに行き、駅務室内の台所で食事を作ります(東武鉄道と京王電鉄は、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、2020年5月20日〈水〉現在、職場での自炊を取りやめています)。

JR千葉駅のエキナカ商業施設「ペリエ千葉エキナカ」には、青果や鮮魚、精肉の専門店が入居する(2016年11月、中島洋平撮影)。
駅によっては十数人ぶんも作ることになるので、業務用の鍋や炊飯器を駆使して調理する姿は、まさしくコックそのものだそう。できあがった食事を、休憩に入った人が順番に食べるという仕組みです。
食事当番はなく、各自に任せているという会社も増えています。JR4社と京急電鉄は、駅員が各自で食事を調達しているそうです。近年はエキナカ店舗も拡大しており、コンビニや飲食店を併設した駅も多いので、各自好きなものを買ってきたり、飲食店に行ったり、自宅から持ってきたお弁当を食べたりしています。JRの場合、駅ビルが併設された大きな駅では、駅ビル従業員向けの食堂があるので、そこで食べることもできるようです。
駅を管理する単位である管区に任せている、と回答したのは小田急電鉄です。基本的にはコンビニなどへ買いに行くことが多いようですが、喜多見や相模大野、海老名など車両基地が併設された駅には社員食堂もあるそうです。
グループ会社であるホテルの社員食堂も利用できる西武鉄道も基本的には駅に任せているとのことでしたが、12の駅には駅員の食事を作ってくれる「食堂」があるといいます。駅員は朝のうちに食事の予約をしておき、休憩時間に向かうと頼んだメニューができあがっているという仕組み。また西武鉄道らしいのは、西武新宿駅ではグループ会社の西武プリンスホテルと提携しており、ホテルの社員食堂で食事をとることができるそうです。
最近、仕組みを変えたのが東京メトロです。東京メトロは2019年10月から「オフィスおかん」という、法人向けの宅配型社食サービスを提供する株式会社OKANと提携し、駅事務室内に設置した自動販売機でご飯やお惣菜を販売、駅員は朝食と夕食、好きなものを自由に組み合わせて食事をとることができます(昼食は各自で調達)。食事を用意する手間を削減できるほか、健康にも気を配ったメニューになっているそうです。
仕事をするうえで元気の源となる食事。しかし、現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、外食を控えたり、食事をとる際は距離をあけたり、会話を避けたりと、食事をするにも気苦労が絶えないようです。早く新型コロナウイルスが終息し、駅員がひとときの食事を楽しめるようになることを祈るばかりです。