ユーロ2020でベルギーに敗れたポルトガルのエース、クリスティアーノ・ロナウド
バロンドールの受賞回数5回。リオネル・メッシ(バルセロナ)の6回に比べて1回少ないが、代表チームへの貢献度は、クリスティアーノ・ロナウド(ユベントス)のほうが高いと見る。
もっとも、ユーロ2008の頃のロナウドはまだメッシ的だった。左ウイングで出場したにもかかわらず、中央に移動したり、チームのバランスを崩すような奔放なプレーを見せていた。負の要素を発露させながらプレーする時間が多かったが、その好ましくないポジションワークは、センターフォワード(CF)に固定されると同時に解消された。
優勝した前回大会(ユーロ2016)のポルトガルは、まさにそんな感じだった。チームのバランスが何よりよかった。フランスと「完全アウェー」の中で対戦した決勝戦。ロナウドは前半の途中、ケガのために泣く泣くピッチを後にした。ポルトガルは絶体絶命のピンチに陥った。
印象的だったのは、その後、ロナウドがベンチの前に立ち、フェルナンド・サントス監督より大きなジェスチャーで、ピッチの選手にゲキを飛ばす光景だ。比較することはできないが、メッシより、代表チームに対する忠誠心が高そうに見える。クラブでプレーする時とは、明らかに別の顔で臨んでいる。
今大会も、ロナウドのポジションは4-3-3あるいは4-2-3-1の1トップだった。布陣の中にきれいに収まっていた。初戦のハンガリー戦で、追加点となる2点目のPKを決め、さらに終了間際、右サイドから周囲と細かいコンビネーションプレーで奪った3点目のシーンなどを見せられると、ロナウドを1トップに据えるポルトガルの先行きは明るそうに見えた。
グループリーグ3試合を終了して、奪った得点は5。得点王争いでも、ロベルト・レバンドフスキ(ポーランド)、ロメル・ルカク(ベルギー)、パトリック・シック(チェコ)などを抑え、トップに立っていた。ロナウドは健在ぶりを最大限アピールしていた。
しかし、ポルトガルは決勝トーナメント1回戦、ベルギーに0-1で敗れた。内容では勝者を上回っていたが、何かが足りなかったことも事実だ。原因は何だろうかと考えると、ここまで持ち上げてきたロナウドに行き着く。
5年前、ユーロ2016に出場したロナウドは、まさに鋼のような身体をしていた。いい意味での硬さがあった。ゴール前でひとり揺るぎない、圧倒的な逞しさを発揮していた。
その硬質なプレーが、ベルギー戦では見て取れなかった。
1985年生まれの36歳。この現実から、筆者のみならず、ポルトガルベンチも目を背けていたような気がする。
今大会の戦いも例外ではなかった。使える選手の数はどのチームより多そうに見えた。決勝戦まで戦えそうな采配を見せていた。だが1点、見落としていた箇所があった。ロナウドの出場時間だ。
◆世界トップレベルで活躍するサッカースターたち
ベルギー戦まで4試合でフルタイム出場した選手は、ポルトガルに5人いた。ルイ・パトリシオ(ウォルバーハンプトン/GK)、ぺぺ(ポルト/CB)、ルベン・ディアス(マンチェスター・シティ/CB)、ラファエル・ゲレイロ(ドルトムント/SB)という、最終ラインを形成する4選手は理解できる。だが、ロナウドはどうなのか。
CFは活きのよさが不可欠な、早めの交代が必要とされるポジションだ。しかも36歳だ。いくらバロンドール受賞者でスーパースターといっても、この調子で最後まで戦うことはできない。さらに言うならば、かつてのような圧倒的な強さも備えていない。
やや衰えたロナウドをどう使うか。これこそがポルトガル浮沈のカギだったのだ。しかし、フェルナンド・サントス監督は、ロナウドをアタッカー陣の中で360分、フルに使ってしまった。このベルギー戦でも、スタメンを張ったベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)、ジョタ、レナト・サンチェス(リール)というアタッカー陣は時間の経過とともにベンチに下がったが、ロナウドは同様に消耗しているはずなのに、最後の瞬間までピッチに残ることになった。
ポルトガルは、そのぶんだけ可能性を減らしていった。
ロナウドはつまり、変えられない選手だったということだ。それこそがポルトガルの弱点だった。皮肉を感じずにはいられない。ポルトガルに課せられたこの宿命は、本大会を1年5カ月後(2022年11月)に控えているカタールW杯本大会まで持ち越されるのか。
ロナウドは絶対的エースとして、いつまで君臨するのか。他にいい選手がいないのなら、それも仕方がないが、ポルトガルはいまや欧州でも屈指の人材の宝庫だ。この試合に、もっと早い時間から投入したかったアンドレ・シウバ(フランクフルト)、ジョアン・フェリックス(アトレティコ・マドリード)など、特にアタッカー陣にいい選手がひしめいている。
36歳になったスーパースターと、ポルトガルはどう向き合うか。ポルトガルという遠い国の話ではあるが、目を凝らしたい。