DeNA森敬斗「なぜ結果が出ているかはわかっていなかった」。...の画像はこちら >>

オープン戦で負傷し、現在、故障中の森敬斗。だが今年にかける思いは強い

30打席無安打の経験を活かす

「今年こそは、という思いですね」

 横浜DeNAベイスターズで3年目を迎える今シーズン、森敬斗はレギュラー奪取の意欲に満ちている。高校を卒業して入ったプロ1年目は、出場8試合、打率.250、打点、本塁打、盗塁はゼロだった。

2年目の昨年は7月に一軍への昇格を果たし、打率.194、打点5、盗塁4、本塁打はゼロに終わった。1年目はともかく、2年目は試合に絡むようになったが、レギュラー奪取まではたどり着けなかった。

「僕は1年目から試合に出て活躍することを考えていましたが、結果が出なくて難しかった。2年目は1軍で試合に出ることが増えたんですけど、毎日試合に出て疲れがたまるというのを経験したことがなかったですし、ヒットが全然出なくて、自分の体をうまく動かせない時間が長く続きました。シーズンを通して結果を出すことの難しさを経験し、失敗をたくさんしましたが、それを今年にどう活かすか、ですね」

 森にとっては苦しい1、2年目になったわけだが、とりわけ昨年は30打席ノーヒットになるなど、なかなか出口が見えない時期が続いた。

「僕は、あの30打席ノーヒットがあってすごくよかったなと思っています。

あの時、コーチとなぜ結果が出ないんだろうという話をした時、自分の悪いクセが出て、自分のタイミングで打席に入れなかったり、理由があって打てなかったことがわかりました。終盤、ようやく自分の体をイメージどおりにうまく動かすことできるようになってヒットが出たんですが、それはあの30打席があったからこそ生まれたと思っているのですごくいい経験になりました」

 苦しい時期を経験し、シーズンの成績も芳しくはなかったが、いい時期もあった。東京五輪後のタイガース戦では2番ショートでスタメン出場を果たし、プロ入り初の猛打賞を記録するなど、調子が非常によかった。森はこのままショートのレギュラーを奪取するだろうと、ベイスターズのファンを含め、多くの人はそう思っていたはずだ。

「あの時は、状態が非常によかったので、このまま自分を表現できればレギュラーをとれると思っていました。でも、実際はたまたまうまくいっていただけで、なぜ結果が出ているかはわかっていなかったんです。

結果的にそれが30打席ノーヒットにつながっていくんですが、その時間をもっと大切にしていればよかったと後悔しましたね」

 大小の差はあれ、調子の波は誰にでもあるものだ。森は両極端の波を経験できたわけだが、ベイスターズの三浦大輔監督は森を最後までファーム(2軍)に落とさず、ラスト5試合はスタメンを任せ、2022年を見すえた起用をした。そこに首脳陣の期待の大きさがうかがえる。

「期待されるのはうれしいですが、僕は期待だけで1軍に残されるのではなく、どうにかチームに貢献したい気持ちが強かったです。バッティングがダメなら守備、守備がダメなら足で貢献したいと思っていたので、代走で出させてもらったのはよかったです。ただ、やはりもっとバッティングや守備で貢献したかったですね」

3年目の決意。
積極的な盗塁にも注目

 その気持ちをリアルな現実にするのが3年目の今シーズンになる。

 高卒上がりの選手のなかには1年目から活躍する怪物もいるが、3年目で頭角を現してくる選手も多い。イチローは3年目にして200本安打を達成し、山田哲人(ヤクルト)も2年目に試合に起用されることが増え、その課題をオフに解消することで3年目に開花した。森もオフを含め、自主トレ期間中もウィークポイントの解消と改善に取り組んできた。

「レギュラーをとるには、バッティングも走塁も大事ですが、一番は守備力だと思うんです。昨年のオフからグラブさばき、捕球時の姿勢など基礎的なことに取り組んできました。

僕の場合は、捕球する際、膝が伸びて上からボールを見てしまうので、しっかり腰を落とし、下半身を安定させて捕ることを意識しています。難しいですが、感覚的にはよくなっていると思います」

 バッティングも石井琢朗コーチになり、練習量が増えた。

「石井さんがきて、バットを振る時間が増えました。若手は全体練習が終わったあと、毎日バットを振る時間が確保されています。試合がない時は1000回以上振っていました。手の皮がむけてべろんべろんになっていましたが、そのくらいやらないと僕の目標である1番、2番、3番のどこかを打つことはできないと思っています」

 森が上位打線を打てるようになれば、ベイスターズの機動力が向上する。

足を絡めたバッティングや四球など出塁率が上がれば、相手にプレッシャーを与え、チームにとっては作戦のオプションや得点のチャンスが増えてくる。もちろん、盗塁でも森の50m5秒8の俊足が活かされるだろう。

 昨年のベイスターズのチームでの盗塁数は31で、盗塁王に輝いた中野拓夢(阪神)の30盗塁とほぼ変わらない。三浦監督は足を活かした攻撃に物足りなさを感じており、森への期待が膨らむ。

「足は誰にでもあるものではないですし、技術も必要ですが、ひとつでも多く塁を奪い、盗塁の成功率も高めていきたいですね。そのためには、毎回同じスタート、同じ走路、同じスライディングが必要で、それができればより安定した盗塁ができると思います。

あと、最後は気持ちですね」

 森は昨年、盗塁をする際、迷いが生じることが多かったと言う。

「たとえば、このカウントだから次は変化球がきそうだなって思うじゃないですか。でも、そこで思いきってスタートがきれず、実際に変化球で外れて走っていたらセーフだったなとか、ここはいけたなとか、スタートをきれないことが結構ありました。勇気を持って1歩目のスタートがきれるかが重要ですが、今年は躊躇せずにいきたいと思っています」

 横浜ベイスターズとしての盗塁の球団記録は石井琢朗で45盗塁(96年)、横浜大洋ホエールズだと屋鋪要で58盗塁(85年)、大洋ホエールズまでさかのぼると宮崎剛の61盗塁(50年)になる。セ・リーグでは、10年に梵英心(広島)が43個の盗塁王を獲得して以来、40超えの盗塁数は出ていない。昨年、盗塁王の中野は30個だったが、まずはその数字を狙っていくことが現実的になる。

ファンを魅了する姿をはやく見たい

 ベイスターズには髭を整え、香水にも気を使う宮﨑敏郎のように美意識の高い選手が多いが、森もそのひとりだ。肌の手入れは中学時代から始め、今は眉毛を整えている。

「ザキ(宮﨑)さんが髭なら、僕は眉毛ですね(笑)。もともと美容院でやってもらっていたんですけど、その時にやり方を教えてもらったんです。ポイントは、目尻よりも眉毛を出すようにして細くしていくと見栄えがきれいな眉毛になります。僕も香水にハマっていて、花の香りが好きですね。香水をつけるとすっきりした気持ちで打席に立つことができるので欠かせないです」

 森は顔が整っており、眉毛を整えることでより美しく、カッコよく見える。プレーに加え、それがファンを魅了する要素のひとつになっているのは間違いないだろう。

 今年は、おそらく昨年以上のファンが球場に戻ってくることが予想され、森への注目度がさらに高まるはずだ。森も3年目にかける気持ちが強く、キャンプ、オープン戦でも好調を維持していた。だが、2月末のオープン戦で走塁の際に左足首の捻挫、右足ハムストリングの肉離れで戦線を離脱し、3月25日の開幕戦には間に合わない模様だ。出遅れてしまうが、森の力を持ってすれば必ずチャンスがやってくる。

「今年は、チームとしては優勝が目標です。個人としても優勝が一番ですが、ただ結果も残したい。3割を打ちたいですし、盗塁王、それにショートでゴールデングラブ賞も獲りたい。そうして優勝すればMVPもあるかなって思っています。とにかく今年は、自分にとって大きなシーズンになると思うので、楽しみですね」

 今年のチームスローガンは「横浜反撃」。果たして森の反撃は、いかに......。