浦和レッズ
興梠慎三インタビュー(後編)

◆インタビュー(2):興梠慎三が明かす札幌移籍と浦和への復帰を決めた理由>>

 2023年シーズン、興梠慎三は北海道コンサドーレ札幌から浦和レッズへ復帰した。

 1年ぶりの帰還だったが、興梠の目に映ったのは2年前とはまるで異なるチームの姿だった。

指揮官はリカルド・ロドリゲスからマチェイ・スコルジャに代わり、長らく一緒にプレーしていた阿部勇樹(引退)や槙野智章ヴィッセル神戸に移籍後、引退)、宇賀神友弥(FC岐阜に移籍)らもいなくなって、メンバーもガラリと変わっていた。

「レッズに帰ってきたけど、戻ってきた感はまるでなかったです。『初めまして』という人ばっかりで、逆に記者さんたちの顔を見ていると懐かしく感じるぐらいでした」

 興梠は今シーズン、プロになって初めて自主トレからスタートした。

「毎年、オフシーズンは完全にオフを取って、自主トレとかもしないんです。キャンプに入ってから徐々に(コンディションを)上げていくみたいな感じだったんですが、今年はもう(自分も)37歳になるし、いい年齢なので、引退のこととかも考えるじゃないですか。それで、悔いが残らないように(チーム始動と同時に)『最初から飛ばしてみようかな』と思って、自主トレをやったんです。

 そのせいか、キャンプからコンディションがよくて、(プロ入り)20年経って自主トレが大事だということを初めて実感しました(苦笑)」

 興梠のコンディションのよさは、リーグ開幕後の試合からも見て取れた。第2節の横浜F・マリノス戦では後半から出場し、中盤に下がってきてゲームを作りつつ、キレのいいスプリントでピッチを駆け回った。攻撃は興梠が完全に軸となり、流れを劇的に変えた。

レッズでの引退を決めている興梠慎三の覚悟「100%でできるの...の画像はこちら >>

攻撃の中心として奮闘している興梠慎三

 そして、第3節のホーム開幕戦となったセレッソ大阪戦では、今季初めてスタメン出場した。

「自分のプレーがよく見えているのは、たまたまですよ(笑)。あえて言えば、要所要所でちょっと違いを見せていたから。

でも、これからは自分より若いメンバーに活躍してもらわなければいけない。

 やっぱり若い選手が出てこないと、(チームの)未来はないですからね。もちろん、自分も試合に出たい気持ちはありますが、若い選手は僕に負けていちゃダメです」

 興梠は若手や中堅に苦言を呈するが、現状、浦和の攻撃ではどういった点が物足りないのだろうか。

「もっと怖がらずに前にボールを入れてほしいな、と思いますね。自分が中盤まで降りてボールを引き出さないと、いい攻撃ができない。リスクを負って前にボールを入れてくれれば、もっとスムーズに攻撃できると思うんです」

 興梠は自分にボールを集めてゴールを決めさせてくれ、と言っているわけではない。

むしろ、逆だ。彼のプレーを見ている限り、"自分が自分が"というふうには見えない。ストライカーの多くは"自分が決める"というスタンスを曲げない選手が多いが、興梠自身、自らのことを「何がなんでも自分が点を取って勝つ、というスタイルではない」と語る。

「僕は昔から『自分が点を取ればいい』という考えはないんです。もともと鹿島アントラーズに加入した時、中盤でプロになったので、ゲームを組み立てたり、ゴールよりもアシストするほうが好きだった。僕がどん欲にゴールを狙っているシーンとか、あまりないでしょ?(笑)

 そうは言っても、サポーターに求められているのはゴールだと思うので、その期待には応えたいですが......。

今は中盤に深く降りていかないとゲームを作れていない状況があるので、ゴール前になかなか入れない。自分としては、ちょっと歯がゆさを感じています」

 開幕しておよそ1カ月半、チームとしていい攻撃の形はそれほどできていない。「初めまして」という選手が多いなか、連係を深めていくにはどうしても時間がかかる。

「今はまだこの時期なので、監督がやりたいサッカーができていないと思いますが、監督自身は選手ひとりずつ『コンディションはどうだ』とか、しっかりとコミュニケーションを取ってくれる。ボールを失わないように戦うなか、イージーミスがなくなれば、いいサッカーができると思うので、この監督についていけば、勝ち点をしっかりと拾っていけると思います」

 リーグ戦では2006年以来、タイトルから遠ざかっている。それを獲得するために興梠は浦和に戻ってきた。

 にもかかわらず、興梠はシーズン前に「自分がいいプレーができるのは、この1年ぐらい」と語った。まるで今季限りでの引退を匂わすような発言は、周囲を驚かせた。

「無理が利かなくなってきているのは、あります。今までだったら、『届いていたのに』『キープできていたのに』というボールを(相手に)取られるとか、一瞬のスピードが落ちたなというのもあります。それでも今は、なんとかできていますが、これがなんとかできなくなったら終わりですね。

 もちろん、ずっとサッカー選手でいられることが自分にとっては一番いいことですが、自分がどれだけやれるのかは、自分自身が一番よくわかっています。

ファン・サポーターが試合のチケットを買って見にきてくれるのに、そこで自分が100%の力でできないと、見にきてくれる人に申し訳ない。100%でできるのは、あと1、2年かなと思っています」

 常に全力でプレーし、その姿を見せてきた興梠らしい覚悟だが、"やめる"と決断するうえで何か明確なライン、基準などを決めているのだろうか。

「やっぱり試合に出られなくなったり、試合に出ても自分の思うとおりに体が動かないとか、そういうのがずっと続けば、自分の判断でやめるでしょう。シーズン終わりまでは何とも言えないですが、そんなに長くやるつもりはないです」

 残り少ない現役生活を見据えた興梠の、目の前のシーズンに賭ける思いは強い。同時に引退後、自らが進むべき道も捉え始めているようだ。

「(現役を)やめたら、監督をやってみたい。早くその道に進みたいなという気持ちもあります」

 ひょっとしたら、ピッチ上での姿が見られるのは最後になるかもしれない2023年シーズン、興梠は個人として、チームとして、どういったシーズンにしたいと思っているのだろうか。

「個人的には、とにかく試合に絡んでいくことが目標です。あと、毎年ふた桁ゴールを目指すと言っていますが、ピッチに立つ限り、そこもしっかり狙っていきたい。

 チームとしては、まずはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で優勝したい。2017年の決勝で勝って、2019年の決勝では敗れたアル・ヒラル(サウジアラビア)と、今度の決勝(第1戦=4月29日、第2戦=5月6日)で戦いますが、前回負けたことがすごく悔しくて......。(今のチームには)それを経験しているのが、シュウちゃん(西川周作)と関根(貴大)ぐらいしかいないのはちょっと寂しいですが、借りを返したいですね。ACLで勢いをつけてリーグ戦で優勝争いをして、優勝したい」

 リーグ戦を制するために必要なものは何か。興梠はどう考えているのだろうか。

「勝負強さ、ですね。鹿島では多くのタイトルを獲ることができましたが、レッズでは"ここが勝負"という試合でことごとく負けてきた。勝者のメンタリティーが足りなかった。それは、経験とか継承というのに置き換えられる気がします。

 僕が若かった頃、鹿島では(小笠原)満男さん、(中田)浩二さん、本山(雅志)さんらがプレーしていたんですが、試合の展開や時間によって、行くところ、ゆっくり回すところと、(自分たちが)やるべきプレーにメリハリをつけてくれて、チーム全体として90分間で勝つためのプレーができていた。

 今のレッズは若い選手が多いこともあって、全部前に行ってしまう。そうなると、体力が消耗して、大事なところで攻撃の質が落ちてしまう。試合展開によって、考えてプレーできる選手がもっと出てくれば、安定して勝てるようになると思います」

 そのためには、鹿島における小笠原や中田といった存在が必要になるが、今の浦和でその役割を果たすのは、西川、酒井宏樹、興梠らとなる。

「シュウちゃんは昨年、キャプテンで年長者だし、チームも苦しんでつらかったと思います。何度も連絡がきて『慎三、戻ってきてくれ』って何度も言われました。今年は、自分が戻ってきたし、宏樹がキャプテンになった。僕らがうまく(チームを)リードしていければな、と。

 宏樹はプレーの面でもガンガン前に行くし、そういう選手があと2、3人出てくると、もっとアグレッシブで、いいサッカーができるかなと思います」

 勝者のメンタリティーは、経験豊富なベテラン選手の背中と、優勝争いからそれを手にしたチームが得られるものだとしたら、浦和には興梠という貴重な伝道者がいる。若い選手たちがその背中を見て成長し、優勝争いに最後まで喰いついていけるかどうか。

 そして、それを実現できた時、興梠はどういう決断をするのだろうか――。

(おわり)

興梠慎三(こうろき・しんぞう)
1986年7月31日生まれ。鵬翔高卒業後、2005年に鹿島アントラーズ入り。2008年には主力となって、数々のタイトル獲得に貢献する。2013年に浦和レッズに移籍。前線の起点として、また得点源として活躍した。その間、2016年リオデジャネイロ五輪にオーバーエイジ枠で出場。2022年に北海道コンサドーレ札幌へ期限付き移籍して、今季浦和に復帰した。