2023年のペナントレースが開幕して、各チームとも15試合前後を消化した。対戦カードはまだひと回りしていないものの、スタートダッシュに明暗が分かれた。

そのなかで、開幕から苦戦を強いられているのが巨人だ。

 エース・菅野智之は右ヒジの張りによって開幕二軍スタートとなり、チームリーダーの坂本勇人は開幕から22打席無安打と極度の不振に陥り、スタメンを外れることも増えている。世代交代が叫ばれるなか、坂本の処遇に外野の声も日増しに大きくなっている。

 そんな坂本に、巨人軍大物OBである広岡達朗が言及した。

広岡達朗が坂本勇人の現状に言及「巨人軍のスターは引き際が肝心...の画像はこちら >>

今シーズン、開幕から苦しんでいる坂本勇人

【巨人が球界の盟主は大間違い】

「開幕したばかりで何を大騒ぎしているというのだ。年齢を重ねるにつれ、頭は冴えてくる一方で、身体が衰えてくるのは自然の摂理。坂本が未来永劫プレーできることはない。

だから、新陳代謝が必要になってくる。でもだ、急激に坂本が衰えたとマスコミは騒いでいるが、その前に巨人の首脳陣はきちんと対応していたのか? 素材もあって、センスもあって、巨人の屋台骨として10年以上も支えてきた。現状について、決して坂本ひとりの責任ではない」

 広岡は「選手は素直で純粋だ」という信念のもと、40年以上指導してきた。その考えは、今も変わらない。「よくも悪くも、巨人の軸は坂本だ」と断言する広岡の根拠は、昨年、坂本がケガにより戦列を離れた時、チームがガタガタになったのを見て強く思ったという。

 昨年、坂本はオープン戦終盤の3月21日に左内腹斜筋筋損傷で開幕戦を欠場。

4月30日には右膝内側側副靭帯を痛め1カ月以上の欠場となる。その後、復帰したが7月7日に今度は腰痛により登録抹消。結局、出場83試合とプロ入り2年目以降から続いていた100試合以上の出場も14年でストップした。

 この頃から34歳という年齢もあり、坂本の後継者問題がメディアを通じて議題にあがるようになった。これまでも後継者について語られることはあったが、攻守に存在感があり、おまけに華もキャプテンシーもある坂本を10年以上も見ていると、感覚が麻痺するもの致し方ない。首脳陣も「まだ2、3年は大丈夫だろう」と、タカをくくっていた部分があったのが正直なところだろう。

 昨シーズンの坂本はケガにも泣かされたが、女性問題が勃発し、メンタル面で疲弊したと思われるほどSNSで大紛糾したことは記憶に新しい。この件について、広岡はフロントの責任だとまくし立てた。

「独身である坂本のプライベートな問題をいまさらどうこう言っても始まらない。臭いものに蓋をするかのように、不問に付していることが坂本にとって負担になっているのであれば、記者会見でもしてコメントを発する機会を与えてやればよかったんだ。過去のことだから禊は済んだといっても、スター選手だけに世間が許さずインターネットを通じて大論争になる。要は、球団の対応がまずかったからこのような事態になったんだ。

フロントはいつまでも巨人が球界の盟主だと思ったら大間違い。もうかつての巨人じゃないんだ」

【巨人のスターは惜しまれながら引退する】

 そして坂本のコンバートについては、次のように語る。

「ショートからセカンドに少しの間だけ移るというのはわかるが、ファーストや外野のコンバートなんて......坂本は何億もらっているの? 昨年の秋季キャンプで監督の原(辰徳)からコンバートを提案されて固辞したと聞いたが、当たり前だ。ショートを守りながら、あれだけのバッティングができたから、5億も6億ももらえたんだ。プライドだよ。金のためにしがみつくようだと、坂本は終わりだよ」

 過去、ショートからコンバートして成功した例もあるが、全員が当てはまるわけではない。

「だからといって、今の巨人のようなベテラン偏重主義を認めているわけではない。原は若手の育成もできないどころか、ベテランの去就について導き方も知らん。西武の監督時代、83年に巨人を破って日本一になった翌年のこと、シーズン途中から若手に切り替え、ベテランだった田淵(幸一)、山崎(裕之)、大田(卓司)が控えに回った。その結果、石毛(宏典)、秋山(幸二)、辻(発彦)、伊東(勤)が台頭し、黄金時代をつくっていった。上に立つ者は、決断したら懇切丁寧に説明する。これこそ指揮官の務めなのだ」

 実績のあるベテラン選手は引き際を選択できる権利があり、引かない選手に対しては監督が冷静に判断するしかない。

それでもタイミングというものがある。

「ショートで長打率が高い坂本は前代未聞だという記事を見たが、松井稼頭央(現・西武監督)や宇野勝(元中日)だって長打率は高かった。坂本は堕落したとはいえ、巨人のショートとして10年以上もチームの中心選手となって攻守ともに高いレベルで活躍してきたことに意義がある。去り際の美学は人それぞれだが、川上(哲治)さんは3割を打てなくなって引退を決断し、ワンちゃん(王貞治)は自分のバッティングができなくなったと言って辞めた。あの江川(卓)だって、13勝を挙げたのに辞めた。3人とも惜しまれながら辞めていった。これが巨人軍のスターなんだ」

 広岡が言いたいのは、後進に道を譲らず金にしがみつくような真似はするなと。スター選手だからこその哲学を持って、引き際もしっかり考えるべきだと言いたいのだ。

「もし俺に預けてもらったら、坂本はクリーンアップから外さない。外す時は、引導を渡す時だ」

 このやり方は、功労者である坂本のプライドを考慮するだけでなく、復活させる意味合いも当然含まれており、決して最後通告ではない。それがスター選手に対し、舞台から降りるかどうかの丁重な導き方でもあるのだ。広岡はいつにもなく優しい口調で語った。