関本賢太郎が語る好調・阪神 中編

野手について

(前編:岡田彰布監督の優しい投手起用、冴える「勝負勘」>>)

 近本光司と中野拓夢の1、2番コンビが高い出塁率をマークし、主軸の大山悠輔と佐藤輝明が打点を稼ぐなど、選手たちが期待に沿う活躍を見せている阪神打線。2005年のリーグV戦士、関本賢太郎氏に野手陣を分析してもらった。

阪神打線を関本賢太郎が分析 佐藤輝明の不調の原因、恐怖の「8...の画像はこちら >>

スランプを抜けた感がある阪神の佐藤

【佐藤が不調だった時と、いい時の違いは?】

――まず、大山選手の今シーズンのバッティングはいかがですか?

関本賢太郎(以下:関本) 状態はずっといいと思いますし、勝負強い。技術的に何かが大きく変わったことはない気がしますが、ずっと4番・ファーストで固定されていることもあってか、いい緊張感と責任感を持って打席に立てていると思います。どっしりしていますよね。

 打点に関しては、大山選手(25打点/5月24日時点。以下同)も佐藤選手(27打点)も同じぐらいですが、得点圏打率は大山選手が.342で佐藤選手は.237。本塁打で点を稼いでいるのが佐藤選手、チャンスでタイムリーを積み重ねているのが大山選手という印象です。

――佐藤選手は、しばらく不振の時期もありましたね。



関本 悪かった時と今では打席での立ち方が全然違います。調子が悪かった時は、センターからのカメラで見ると、頭の位置が骨盤よりもホームベース寄りにありました。つまり前傾している感じでしたが、今は骨盤の上に上体が全部乗っかっていて、頭も前に傾くことなく真っ直ぐに立てている。

 これによって軸回転がスムーズになります。前傾した状態では体を回転させても十分に力を発揮できませんが、真っ直ぐの状態で回転させると遠心力が強くなって、強い打球が飛ばせます。

あと、悪い時は顔がピッチャー側に向いていたのが、今は顔は真っ直ぐで、目だけがピッチャー側を見ています。
そうなると、以前より高めのつり球など、ボールの見極めもしやすいと思います。

――調子を上げてきた要因は、岡田彰布監督のアドバイスもありそうですか?

関本 あると思いますよ。岡田監督はマスコミが見ているところでは言いませんが、室内などで必ず何か伝えているはずです。そんなに長くなく、ボソっと2、3言くらいアドバイスしているんじゃないかと。

【8番・木浪が果たしている役割】

――そんなふたりとクリーンナップを組んでいる3番・レフトのシェルドン・ノイジー選手はどうですか?関本さんは開幕前に、外国人助っ人がキーマンになるとも言われていました。

関本 ノイジー選手がつないでくれているからこそ、大山選手と佐藤選手に打点がついているとも言えます。近本選手(24打点)と中野選手(19打点)も打点が多いですが、下位で作ったチャンスを1、2番で返し、ノイジー選手が再びチャンスを広げる場面もありますね。

ノイジー選手も20打点を稼いでいますが、この形で打線がうまく回っているので、3番に固定し続けると思います。

――打順でいえば、木浪聖也選手が3割をキープするなど好調を維持していますが、このままがベスト?

関本 木浪選手は8番がいいですね。昨シーズンの広島を例に挙げると、上本崇司選手が8番で3割打っている時は、ものすごく嫌だったんです。これが、他の打順にいってくれて8番に打率.240ぐらいのバッターを置いてくれると、かなりラクなんですよ。9番のピッチャーと合わせてツーアウトを取れる可能性が高くなりますから。

 クリーンナップからチャンスが回ってきた時も、8番が3割打者だとバッテリーは神経を使うんです。
当然、申告敬遠も増えますし、9番まで"いってしまう"。そうなると、次のイニングは1番の近本選手から。打順の巡りがいいのは、木浪選手が8番にいることが作用しています。今年の阪神は、攻撃が9番ピッチャーから始まる場面をあまり見ないですよね。

――木浪選手のバッティングはどこがよくなった?

関本 脱力して構えていますし、ボールをバットの面で捉えることができていますね。差し込まれてもファウルにできて、捉えたらヒットゾーンに飛んでいく。
引っかけてセカンドゴロやファーストゴロというのが少ないです。今の打率がいいからといって、一発や長打を狙うのではなく、今のままでいけばシーズン3割を達成できると思います。

 彼が3割を打っているのは偶然ではありません。それだけの技術があるバッターです。厳しいボールもファウルで逃げて打ち直せるのが、今シーズンのよさでしょう。

 かつて1度レギュラーになったものの、昨シーズンは二軍暮らし。
監督が変わってまたチャンスが巡ってきたと思ったら、オープン戦の最後に状態が上がらなくて開幕スタメンを譲った。「今年こそ」と思った矢先でしたし、今は「このチャンスを絶対に逃さないぞ」という気持ちでいるしょうね。

【中野のコンバートは大正解】

――先発ピッチャーによって、キャッチャーは梅野隆太郎選手と坂本誠志郎選手を併用していますが、梅野選手は打撃面で苦しんでいます。

関本 現時点で打率.141なのでいいとは言えませんが、通算打率は.231で、キャリアハイは.266ですから。なので正直、「バッティングを過大評価しすぎでは?」というところもあります。

 それでも最近は、少しずつ状態が上向いているような気はします。ゴロアウトが減ってきて、四球も少し選べるようになってきた。1割台はさすがに厳しいですが、盛り返して最終的に.230ぐらいであれば十分じゃないかと。

――セカンドにコンバートされた中野選手ですが、同じくセカンドを守っていた関本さんの目にどう映っていますか?

関本 まず、一般的なセカンドと比べて、3~5mぐらい深い位置で守っていますね。脚力があるからでしょうが、それによって必然的に守備範囲は広くなります。記録上では「二ゴロ」になっていたとしても、他の選手が守っていたらヒットだったかもしれない打球も多いはずです。

 走者が一塁にいる時、抜けていたら一・三塁の状況になるのも防いでいるという意味では、中野選手の守備力がチーム防御率(2.71)に貢献している部分もあるなと。セカンドへのコンバートは大正解だと思います。

――精神的にいい効果をもたらしているのかもしれませんが、バッティングの調子もいいですね。

関本 選手によって、打席に入る時のリズムが合うポジションがあるものなんです。僕の場合は、ファーストを守っていた時にリズムが合わなかった。サードを守った時は「まだいい」という感じで、セカンドの時はやりやすかったです。

――ファーストに固定の大山選手、サードに固定の佐藤選手も同じようなことが言える?

関本 そうだと思います。ただ、佐藤選手は外野のほうがリズムが合うのか、サードのほうが合うのかはわかりませんが。

【井上と森下は二軍に降格しても「プラス」】

――若手の井上広大選手、ルーキーの森下翔太選手はいかがですか?

関本 まず再び一軍に上がってきた森下選手は、プロ野球選手としての現在地がどこなのか、ということですね。二軍ではそれなりに打てていたと思いますが、一軍で通用しないのであればそれが現在地です。

 一軍のレギュラー陣は、自分の状態が悪くてもなんとかしている。仮に、森下選手がこの先もずっと一軍に居続けることができたら、「状態が悪くてもなんとかしよるな」と監督に思われたということでしょう。

 井上選手も同じです。以前に岡田監督と井上選手に関して話した時、「言うても、まだ(大学4年生と同じ歳で)4年目やからな」と言っていました。井上選手のプロ野球選手としての成長曲線を考えた時、4年目であれば50試合出られたら十分という考えなんです。森下選手もそう。いきなり140試合に出場させるわけではないと。

 たとえば50試合で100打席くらい立って、何本ヒットやホームランが打てて、何がよくて何が通用しなかったのか......そういうのを学んでいく時期だ、というのが岡田監督の考えなんです。

――関本さんも、プロ入りしてすぐの頃は同じような経験をしたんですか?

関本 そうですね。それぐらいの試合数で一軍に上がったり、二軍に落ちたりを繰り返して、「ここは通用したけど、ここは足りなかった」といったことの繰り返しでした。なので、今回は森下選手と入れ替わる形で井上選手が二軍に降格しましたが、一軍で感じたことを二軍で試してくればいいと思います。

――でも、井上選手は可能性を感じさせてくれました。

関本 ものすごく感じさせてくれましたね。森下選手も井上選手も、一軍のスタメンで出る、ゆくゆくはクリーンナップを打たないといけない選手です。なので、二軍降格はマイナスではなく、プラスに考えるべきです。

――もうすぐ、交流戦が始まりますね。

関本 リーグ戦では、一番"余っている"ライトを守るだろう選手が、交流戦でDHに入るはず。もしかしたら前川右京選手も入るかもしれないし、(ヨハン・)ミエセス選手も候補ですね。不器用そうですが、一生懸命さが伝わってきますし、打席での威圧感があります。

――野手陣の課題を挙げるとすれば?

関本 今はレギュラー陣が元気に働いていますが、この先にアクシデントがあって離脱する可能性もゼロではない。その時に慌てないように、バックアップの選手を準備しておく必要があるでしょうね。

(後編:村上頌樹は「上原浩治さんクラス」 関本賢太郎は盤石の先発ローテについて「みんなが表」>>)

【プロフィール】
関本賢太郎(せきもと・けんたろう)

1978年8月26日生まれ、奈良県出身。天理高校3年時に夏の甲子園大会に出場。1996年のドラフト2位で阪神タイガースに指名され、4年目の2000年に1軍初出場。2004年には2番打者として定着し、打率.316の高打率を記録した。2007年には804連続守備機会無失策のセ・リーグ新記録を樹立。2010年以降は勝負強さを買われ代打の神様として勝負所で起用される。2015年限りで現役を引退後、解説者などで活躍している。通算1272試合に出場、807安打、48本塁打、312打点。